第15話:予想外過ぎる展開
あれから真剣な顔をした子達がやって来て、頼まれたのでトレーニングを開始した。
トレーニングと言っても基礎体力作りのランニングと木剣での素振りだ。
夕暮れまで続けているとブリゲルドが箱いっぱいの癒薬を持ってやって来たので、今日の教練を終えて各自に手当を教えて様子を見る。
「すみませんブリゲルド殿、癒薬は安い物でないというのに」
クラスメイトが教えたとおりに手に包帯を巻いてそこにポーションを馴染ませる、握った事も無い木剣での素振で出来る豆や皮膚の治療にはこれが一番なのだ。
「それでしたら大丈夫です、子供達が今使っているのは治療部隊の新人達が訓練で作っている物ですので。まぁ、市販品よりも効力は薄いですが自由に使えるので気にしないで下さい」
「そうなんですね。じゃあ皆、2~3時間くらいしたら再度包帯にポーションを染み込ませてね。それと、風呂に入るとポーションが流れちゃうから、風呂から出たらまた手当をするように」
俺の言葉に「はーい」と返って来る、どうやら不満はあるもののなんとか受け入れてくれているみたいだ。
「それでは、ホウショウ殿はこちらへ」
ブリゲルドに促され城内へ入る、豪華絢爛な造りの廊下が伏魔殿の廊下と思えてしまう、それをびくびくとしながらついて行く。
「さて、ホウショウ殿……ホウショウ殿?」
「あぁ、すみません!?」
緊張から裏返った声が出る。
「そこまで緊張しないで大丈夫ですよ。今回は謁見では無く、私的な食事会ですから」
「そうは言いますが……いきなり王子様と会うのは緊張しますよ」
どの王子かわからないけど王子達には色々と厄介になりそうな噂があるし……。
「ふむ、それでしたら大丈夫かと。これからお会いになるのは第三王子様で思ったよりも親しみやすい方ですし、粗相をしても〝悪意さえなければ〟許してくれますから」
その言葉に思案する、第三王子っていうと、やっぱりあの噂は本当の様だ。
(となると不味いな……噂で聞いてる王子様の力は未知数だし、下手すると俺の正体がバレるかも……)
そうこう考えている間に控室へと通された。
「ではここでお待ちください、ここからは侍女が案内いたします」
「ありがとうございます」
ブリゲルドが出て行った後の部屋を、挙動が怪しまれないくらいに調べる。
(魔力反応は無し、隠し部屋は人が居ないな。それから盗撮盗聴、外側から閉じ込める様な魔道具は無いな)
置いてある茶葉にも薬の様な匂いはしない、まぁ無臭の毒物だと紅茶の芳醇な香りで上書きされるからわからないけど。
「これは……白砂糖か、流石王城だな」
隣の陶器の蓋を開けると純白の砂糖が顔をのぞかせる。この世界の甘い物と言えば大半が蜂蜜やジュエリーウッドと呼ばれる豊富に蜜を蓄える性質の樹やクルミや白樺の樹蜜を煮詰めたシロップが一般的だ。
日本でよく見る精錬糖、つまり白い砂糖やザラメ糖はあるにはあるけどそこそこ高いのだ。
「娼館かギルマスの私室でしか見た事無いや」
「もし必要であれば、少しお包みしましょうか?」
「!?」
背後から聞こえた声に反応してナイフを抜く、そこにはにこやかな笑みを浮かべたメイドが立っていた。
「あらあら~恐ろしいですねぇ~」
「あ、すみません……つい……」
思わず謝ってしまう。というか、気配が希薄過ぎて目の前にいるに、本当にそこに居るのかわからない。
(そして、この人かなり強い)
「うふふ~そんなに警戒しなくても大丈夫ですよぉ~、私は第三王子付きのメイド、ミレディと申します~」
「第三王子様付きのですか、道理で足音がしないんですね……」
王城怖い! 推定でも金剛級がゴロゴロしてるの怖い!!
「メイドですので~」
この圧がかかる感じ、恐らく金剛級のリオルと同じくらい……身のこなしから察するに得意分野の暗殺や警護は彼以上だろう。
「そうなんですね、流石です」
「いえいえ~ホウショウ様も、素晴らしい反応速度でした~」
少し頬を上気させるメイドさん、この感じリオルに似た戦闘狂っぽい雰囲気を感じさせるんだけど。
「ありがとうございます、それでこれから俺はどこに行けば?」
「こちらですよ~」
そう言ってにこやかに案内されたのは、併設された風呂場だった。
「それじゃ~脱いで下さい~」
「へっ?」
スルッと着けていた外套が解かれる、今俺何された?
「フフフ~中々に鍛えていらっしゃいますね~流石は金等級でも指折りの腕前の方です~」
なんで誰も彼も俺が金等級になったって事を知ってるのさ!?
「それは、メイドですので~」
しかも心の声に反応してくるし!!
「冗談ですよ~アラテシア様より聞いてますので~」
「そ、そうだったんですね……って!? ズボンいつの間に!?」
脱いだ覚え無いのにどうして!!
「フフッ、可愛らしいお方ですねぇ~、今のは意識を会話に向けさせたタイミングでズボンを抜き取らせていただきました~」
「もうヤダ、メイド怖い……」
パンツだけは死守しないと……。
「大丈夫ですよ~そこまで脱がせるつもりはありませんので~」
「だから、心読まないで!!」
「いえ、今のはホウショウ様がパンツを抑えたので、そこから察しました~」
どうやら、俺はメイドさんの、掌の上らしい……。
「それでは、お体をお流ししますねぇ~」
いつの間にか溜められてたお湯で身体を流される、そしてまたもや高級品の香油が使われた固形石鹼で身体を洗われる。
「髭も整えさせてもらいますね~」
「えっ、ちょ!?」
シュパパッと音が鳴り、髭が凄く綺麗に剃られる、元のちょっとバランスの取れてない髭から左右対称かつ、より清潔感がある形に整えられた。
「す、すごい……」
「国王様のお鬚番をやっておりますので~、これ位朝飯前ですよ~」
「あはは……道理で凄い訳だ……」
王族の前で刃物を使わされる事もだが、手捌きがとんでもなさ過ぎて引き攣った笑しか出てこなかった。