第14話:クラスメイト②
食事後、運動場に出て各々の動きを見る。
(やっぱり、運動部は体力あるだけ他よりはまともだな)
様子見で5キロ程走らせてみたけど、運動部以外は途中離脱をしていた。
「ブリゲルド殿、少し良いですか?」
背後で渋面を作る騎士へ声をかける。
「あぁ、言いたい事はわかるが一応聞いてもいいか?」
「流石にここまで体力が無いのは想定外です。少なくとも冒険者志望の子達はもう少し体力ありますよ」
「だな、これではウチの息子にすら劣るな……」
そりゃね、俺だってこっちの世界に来て2カ月くらいはまともに戦闘も出来なかったからな。
「これでは基礎を教える以前ですので、方針を変えた方がいいかもしれません……」
「そうだな、流石にここまでは予想してなかった。王子に確認してくる」
「お願いします」
足早に去って行くブリゲルドを見送りながら、へばっているクラスメイトに目を向ける。
「はぁ……先が思いやられる……」
皆のステータスがわからないけど、正式な手順を踏んで召喚されているはず。食事中に騎士たちから集めた情報は、少なくともクラスメイトの皆はステータスにバフがかかっているはずだ。
(もしかして、俺の知ってるステータスっていうのは、基礎体力や筋力に比例して強くなってるのか?)
この世界はステータスの高い者達が兵士や冒険者になったりそうでなくても農家や工業に従事している者は自ずと筋肉が付く。そうなるとステータスを生かした仕事が向いてるという事が、この世界の常識にも納得がいくな。
(でも、昨日二人のステータス検査をした時は普通だったんだよな……)
「ホウショウ殿!」
考え事をしている内にブリゲルドが帰って来た。
「ブリゲルド殿、どうでしたか?」
「はい、王子に相談した所このひと月は身体機能の向上を認めてもらいました。その上でホウショウ殿が差し支えなければ、今の教練期間が終わった後に再度教練を頼めないでしょうか?」
差し出されたのは魔道具の巻物、読むと今回の依頼延長についての速記官の署名と王子の署名が入っている。
「金額も同じですか、とても有り難いです」
「それと、これは署名を頂く前にお伝えしたいのですが。本日の教練後、王子が面会したいと……」
「えっ?」
冷汗がぶわっと出る、何か目を付けられたのだろうか……。
「え、えっと……どうしてですか?」
引き攣りそうな顔を抑えつつ微笑む。
「いえ、恐らくは王子自身も貴殿を見ておきたいのだと思います」
(ヤバいな……ここで断ると目を付けられるか……)
だけど、チャンスとも言える、虎穴に入らずんば虎子を得ずという諺があるし、召喚魔法について何か情報を得られるかも……。
「えっと……大変光栄なのですが。この様な身なりで大丈夫でしょうか?」
たっぷり考えて出た答え、ここに来て日和るとか情けないけど、いきなりラスボスと対面する強心臓は持っていない。それに簡単ではあるが女子二人と同居なので身綺麗にしたつもりだが、王族と会うとなると話は別だ。
(そうでなくても、お目見え服とか、金貨がいくら飛ぶか……)
「それでしたら、こちらで服は手配させてもらいます。後は、侍女が湯殿へ案内して洗いますので気になさらないで下さい」
ニコリと笑うブリゲルド、逃がさないと笑顔で言われているような気しかしない。
「あ……はい、わかりました……」
(外堀埋められてるかー、どないしましょ!)
焦り過ぎて、変な似非関西弁が出てくる程だ。
「それでは、この子達をお願いしますね」
ブリゲルドはそう言って運動場を出て行った。
「あ、あのー」
鈴の鳴るような声が俺の耳へ届く、振り返るとクラスメイトでも一際小柄な西野さんが困惑した顔で立っていた。
「あぁ、ごめん……どうしたんだ?」
普通なら率先して動かない西野さんが俺に声をかけて来るとかどういう風の吹き回しだろう。
「あ、あの! この後はどうすればいいでしょうか!?」
「あぁそうだね、説明しようか……」
皆の元へ行き顔を見回す、俺達が話してる間緩んだこの空気も引き締めた方が良いか。
「じゃあ皆。今、騎士の人と話してて簡単な方針が出来た。皆はこれからひと月の間身体を鍛えてもらう」
俺の言葉に所々で不満声が上がる。
「不満があっても良いけど、ひと月以内に俺が認める所に達さないと奴隷行きだ」
目を細め低い声で断言する、皆が息を呑む。
「ど、奴隷ってどういうことですか!?」
「お、横暴だ!! 警察が許さないぞ!!」
「俺の親は弁護士だ! こんな所から帰ったら訴えてやる!!」
ギャーギャーと騒ぎ始める、煩くて話が続けれない……。
「はぁっ!!」
身体強化を施した足で地面を陥没させる、轟音が響き、驚いたクラスメイト達が静まる。
「君達の基礎体力があまりに低すぎて話にならないんだ。先程の騎士の話だと本当はすぐにでも奴隷落ちさせるつもりだったのだが相談して猶予を貰ったんだ」
出来てるかわからないけど、真面目な顔で皆へ嘘を言う。
「それに、俺がこの仕事を降りたら君達は言葉も話せぬ異国の地で死ぬまで酷い目に合うだろう。それでも良いというなら好きにしろ」
少し離れた所にある休息所に腰を下ろし皆の反応を伺う。
(この感じ、俺の嫌いな教師のやり方なんだけど。皆自身がやる気を出さないと俺もフォローしきれないからなぁ)
大きく溜め息を吐くと、城壁に囲まれた運動場の空を飛ぶトンビが目に入った。
「本当ならば、ああやって自由にしてあげたいんだけどな」