第13話:クラスメイト①
「という訳で、俺の名前はホウショウ。俺が生まれた地域の言葉が、君達の話す言葉と同じだから指南役として呼ばれた、よろしく」
懐かしい顔ぶれのクラスメイト達に簡単な自己紹介をして頭を下げる、全員の目がこちらに向いていてどことなく気恥ずかしい。
「それで俺は、言葉以外に何を教えれば良いのですか?」
騎士であり、監督官の1人であるブリゲルドへ尋ねる。
「そうですね、出来れば基礎的なモンスターとの戦い方を……対人戦はこちらの方が教えれますので」
「わかりました、それじゃあ少し皆と話す時間が欲しいのですが……信用してもらうのが一番ですし」
出来るだけ優しくしますよ、的な雰囲気を出しながら監督の騎士へ説明をする。
「わかりました、では皆が普段使っている広間へ案内しますね」
「ありがとうございます。皆さん、色々とありますが皆さんとお話をしたいので移動しましょう」
その言葉に、何人かほっとした息を吐く、ガチガチに緊張されて成果を出せないとこっちも目的が果たせない。
騎士に案内され通された部屋は教室みたいな場所で少し広めの部屋だった。
(騎士は……出て行ったか……さて、何を話すかな?)
クラスメイトと押し込められた空間はピリッとしていて緊張が受け取れる。
「それじゃあ君達、いきなり連れて来られて混乱していると思う。何か俺に聞きたい事はあるか?」
そう聞くとクラスメイトで一軍……的な立ち位置の佐藤優斗が手を挙げる。
「あの……ここはどこでしょうか?」
「アークフォート聖王国の王都だね、俺の出身の極東からは山を越え砂漠を超え、はるか遠くにある場所さ」
知らない国の名前に唖然とするクラスメイト達、ここが違う世界だと認識したのか絶望した顔になる者が大分いる。
(まぁそうだよな。俺もこちらの世界に来て森の中だったし、脱出した後は言葉も場所もわからず悲嘆に暮れたもんな)
ざわざわとしている中震えながら手を挙げる女子、彼女は中村愛梨。ハンドボール部所属のショートカットヘアーの子だ。
「えっと……帰る事は出来ないんですか?」
「そうだね、帰るのであれば相当な距離を進むことになるから少なくとも半年以上はかかるよ?」
「いえ、そうでは無くて……」
恐らく勇者召喚の事だろう、俺はそれを知らない設定だしどう返したものか……。考えていると野球部所属のスポーツ刈りの男子、菊池和人君が手を挙げる。
「僕達は違う世界から、気付いたらここに居ました。クラスメイトが言うには〝勇者召喚〟というのらしいですが……」
うーん……はぐらかしてたんだけど、仕方ない。
「えっと、恐らくだけど。帰れないと思う、俺は勇者召喚についてはおとぎ話として伝わっている以上でしか知らないし詳しくないのもあるが。仮にその人を召喚する魔法があるとして数千年と魔法が使われてたのに、帰ったといわれる本は存在してないからな」
(何とか帰る手段が無いか、血眼になって探したんだよなぁ…)
だけどこの国で一冒険者で調べられる範囲はとっくに調べきっちゃったし。国を二つほど超えた先の学術都市とかなら手がかりはありそうだけど。
(俺は、この世界に呼ばれたのが召喚なのか、それとも何かの偶然なのかわからなかったし。そこまで行く前に諦めちゃったしな……)
「そんな……」
より一層ダメージを受けたのか椅子に座り込む、可哀想だけど自分の置かれた状況を認識してもらわないと進まない。
「だが、君達がもし本当に、勇者召喚で呼び出されてのであれば帰る方法は存在しているかもしれない。各地に残された勇者の伝説は、元の世界に帰還した話もあるくらいだしな」
嘘っぱちだけど何人か顔を上げ縋るような目で俺を見て来る。
「その為には、君達がまずはこちらでの生活を行える様にならなければいけない。それは言葉や文字だったり、モンスターとの戦い方だったりの生きていく術を学ばねばいけない」
きつい事を言ってるのはわかるし、何人かもう既に心が折れている人も居るだろう。
だがクラスメイトには強くなってもらわないといけない、俺一人では見つけられない元の世界に帰る為の情報を自力でも探してもらう必要があるからだ。
(だけど……まだ、弱いな)
暗い空気は残り続けている、少し希望を持たせる必要があるだろう。
「それと、勇者召喚は国が莫大な労力を消費してると聞いた事がある。君達は今、大事にされるだろうが、いつまでも〝成果を出せない者〟はどうなるかわからないぞ」
発破をかけつつクラスメイトを見回す、すると数人思い当たる節があったみたいで蒼井さんと細野さんの名前を出す。
「そ、そうだ! ホウショウさん、僕達のクラスメイトで蒼井と細野って名前の人が帰って来ないんです!」
声を上げたのはクラスの1軍男子の橋爪渉だ、二人を含めた1軍グループに居た好青年だ。
「聞いた事はないな……後で騎士の方々にも聞いてみるよ。少なくとも死んでは居ない筈だし、貴族の元か娼館に売り払われたか……最悪城放り出されていたら目も当てられないな」
そう言った所で扉がノックされた、応対するとどうやら少し早いが昼食の時間らしい。
「皆、昼食の時間らしい。そこで自己紹介をしつつ午後からについて話すぞ」
俺の言葉に立ち上がる者はおおよそ6割、やっぱり消えた二人の事を思い出したのか逼迫感が出ている。
「顔を下げている者達に一つ、この国には奴隷制度がある、消えた二人がもし奴隷になっているのであれば君達が助ける事も出来る。それと、君達の頑張り次第で召喚者との交渉も出来るだろう。帰りたい、助けたいのであればまずは自分が強くなり出来る事をするんだ」
今、離脱者が大量に出ても助ける術は無い、だから自分達で頑張ってもらわないとな。
まだ俯いているクラスメイトは居るが、ほとんどの人が顔を上げている。これで、一歩前進と……思いたい。