第11話:帰りたい?
「という訳で、俺はこれから一カ月の間、王城でクラスメイト達を鍛える仕事をする事になりました」
「へっ?」
「ど、どういうことですか!?」
夕食の席で二人にギルドマスターから受けた依頼の事を話す。
「大丈夫なの、その依頼……」
「身元がバレてしまうのでは?」
「うーん、でも二人は俺の事ぱっと見わからなかったじゃん? それにこっちの世界ではちゃんと戸籍もあるからバレ辛いと思うんだよね……」
何より報酬が凄く良いんだよね……ひと月で金貨250枚超えるし、それだけあれば生活費も当分は無理して稼がないで済むし。
「そうね……クラスメイトが自分達より年上なんて思わないわよね……」
「ですが……無理をしないで下さい」
不安そうにする二人、それに二人にはまだ知らせる事がある。
「それと、王城での仕事期間中は二人共こっちの言語を学ぶことが出来る様になったから」
「それって。今日ミラさんが言ってたやつですね、頑張ります!」
「むぅ……勉強は嫌だけど、こっちで生活していくには必要だもんね……」
「それと、今日みたいなことがあったし。送り迎えはギルドまで行くから待っててね」
「はい!」「わかったわ」
◇◆◇◆
それから何故か三人でお風呂に入り楽しんだ後、三人で寝るには少し狭いベッドに入る。
「ねぇ飛翔、起きてる?」
しばらくして寝息が聞こえてきたらと思ったら、右隣の細野さんが小さな声で囁いて袖を引いて来る。
「起きてるけど、どうしたの?」
「いや、色々とありがとうね。貴方が居なかったら私達、今頃悲惨な目に遭ってたと思うから……」
服の裾を握る手が強くなる、今日一日平然としてたみたいだけど大分堪えてたようだ。
「でも、嫌じゃなかった? 見た目こんなんだし」
「そんな事は無いわ、そこまで年取ってるようには見えないし、カッコいい成長してると思うわよ」
「そう言ってもらえて良かった、クラスメイトとはいえ見た目おっさん相手だから嫌われたかと思った」
「大丈夫よ、奏も私も守備範囲だし」
「髭……剃るか……」
一応整えてはいるけど、嫌がられるなら剃ってしまっても良い。まぁ、髭があった方が初対面に舐められないから便利なんだけどね……。
「そのままで良いわよ、クラスメイトの皆の前に出るなら、そっちのが絶対バレないし」
「そうだよな……お言葉に甘えて、少しの間はこのままでいくか」
「後、もう一つ聞きたいんだけど良いかしら?」
「ん? なんだい?」
息を呑む声が聞こえる、ためらっているのか声が詰まる。
「飛翔は……元の世界に……帰りたい?」
その質問に心臓が跳ねる、それはかなり難しい質問だ。
「正直、わかんない……。この世界で10年も過ごしてるからってのもあるし、帰り方はわかんないし、でも……」
「でも?」
「二人……いや、クラスメイト達は元の世界に戻れるように頑張ろうと思う」
その為に今回の依頼を受けたとも言って良いし。
「もし……帰れなかったら、どうする?」
「その時は……南方にあるあったかい国にでも移住して、のんびり暮らしでもするか」
2~3年前に依頼で行った南の国は日本の沖縄みたいだったなぁ……まぁ沖縄には行った事ないけど。
「いいわね~、そういえばこの世界って水着とかあるの?」
少しづつ明るい声に戻っていく、答えは正解だったかな?
「そういえば無いな……まぁ、この世界は水泳とか水遊びとかはしないしな……」
「それだったら、リゾート施設とか作っても楽しそうね……」
眠気が来てるのか、細野さんの声にまどろみが出て来た。
「そうだな、その時は俺も手伝うよ。俺も眠いし寝ようか」
「う……ん…………」
すうすうと寝息を立てて細野さんは寝落ちた、俺も眠いし……眠る……。
重くなった瞼を閉じて睡魔に身を任せた。
◇◆◇◆
「んっ……トイレ……」
今晩は冷えるのか、尿意を催し目が覚めた。
「あれ? 蒼井さん?」
横を見ると蒼井さんの姿が無かった。
「トイレかな?」
ベッドから降りて周囲を探す、トイレに向かいつつ家の中を探すと廊下から繋がるバルコニーにその姿が見えた。
「蒼井さん……どうかしたの?」
声をかけつつバルコニーに出る、春先でも夜は冷える防寒性のあるコートを空間収納から出して肩にかける。
「あ、旦那様……ありがとうございます」
「やっぱり、ベッドが硬くて眠れない?」
「あっ、違いますっ! いえ、硬いのは硬いのですが……」
「ごめんね、あと数日で柔らかいマットレスが届くから、寝易くはなると思うよ」
ギルドマスターからのお祝いと、先払いしてもらった依頼料の手付金で懐が潤ったので最優先に寝具を大旦那に都合してもらった。
「ありがとうございます、すみません私達の為に……」
「良いんだよ、ギルドマスターにもお祝い貰ったし」
「そうなのですね、言葉を早く覚えてお礼が出来る様にしないとですね!」
「あぁ、頑張ってくれ」
ニコリと笑う蒼井さんの頭を撫でていると、彼女の瞳から涙が零れた。
「えっ!? ごめん、強くし過ぎた!?」
突如泣き出した蒼井さんの姿に、おろおろとしてしまう。
「い、いえ……元の世界の事思い出してしまって……」
そうだよな……いきなりこちらの世界に飛ばされたと思いきや追放され売られ、こんなおっさんの元に来ちゃった訳だし、そりゃ泣きたくもなるよな……。
「まだ来て2日目だもんな、ホームシックになるのは仕方ないよ。俺もそうだったし」
「旦那様もですか?」
「うん、まぁ俺の時はなんか知らない森でモンスターや獣に襲われない様に必死だっどな……人里に出て言葉も通じないし、どこかも知らない場所と理解して大泣きしたよ」
「そう……なんですね……」
「でも、蒼井さん達が来たという事は何かしら帰れる手段があるはずだし、1ヶ月の間に少し探ってみるよ」
何かしら裏がありそうだから、どこまで調べられるかわからないけど……。
「ありがとうございます。でも、無理は……しないで下さい」
不安そうな顔をしているのが見えてしまったのか、そう言われる。
「うん、もしかしたら色んな所に旅に出るかもしれないし。言語は覚えておいてね」
濁す様に笑いかける、その時風が吹いて頬の熱を冷ましてくる。
「うぅ……寒いですね……」
「そうだね、部屋に戻ろうか……」
バルコニーからの扉を開けて部屋に戻るのだった。