第1話:10年目の日常と5年目の友情
「ホウショウ、コイツが今回の仕事の分け前だ」
夕暮れの酒場にてパーティメンバーかつ数年来の相棒と、今回の仕事の分け前を分配する。
「少し、多くないか?」
分け終わった後のずっしりとした袋を持ち上げながらアインに聞く。
「あぁ、今回予定されてた護衛の旅程が10日だっただろ? ホウショウのお陰で2日も旅程が短くなったからって依頼主が弾んでくれたんだ」
「そういう事か。それならば、有難く受け取ろうか」
貰った袋を空間収納にしまう、このスキルは容量こそ小さいが荷物の持ち運びをしなくて済む程の便利なものだ。
「しかし、お前のそのスキル、羨ましいなぁ……それがあれば商人でも稼げそうじゃないか」
「そうか? 袋一つ分しか入らないし、生きてる物は入らないからそこまででも無いぞ?」
「それでもだよ、宝石や貴重品をリスク無く運べるのはかなりの利点だろ」
届いたエールを飲みながらアインが言ってくる。
「あー……それは正直お勧めしない。昔それで難癖つけられて奴隷落ちしかけたからな」
「そうか、お前のスキルならちょろまかすのは簡単だもんな」
「やめてくれ、そういった噂が一度立つと面倒なんだ」
「すまん、お前はそんな奴じゃないと俺は知ってるが、聞き耳立ててる知らん奴には勘違いされるもんな」
周囲に視線を向けるアイン、聞き耳立ててた冒険者が目を逸らす。
「悪いと思うなら一杯奢れよ」
「わかったわかった、リュリュちゃんコイツに上物を」
看板娘の猫獣人に声をかけるアイン、彼が頼んだ〝上物〟というのは俺達が飲んでる安物のエールとは違い、熟成したエールの事だ。無論値段もエールなら銅貨4~5枚ほどだが熟成だとその倍はする。
「珍しい、お前がそんな奮発をしてくれるなんて」
「なんだ、忘れたのか?」
呆れた様な顔でこちらを見てくる。
「ん? 何をだ? お前と嫁さんの結婚記念日か?」
「いやそれは来月って……違う! はぁ……俺とお前、組んで今日で5年だぞ?」
そうだっけか? なんかもう長い事一緒に仕事してるからわかんないや。
「あー……そういえばそうだったな、じゃあ俺もお前に奢るわ……リュリュさん俺も上物一つ」
「あいよーってかお二人さん、珍しいにぇ~」
俺の分を置いたリュリュさんが鼻をひくひくさせる、熟成されたエールだけあって蠱惑的で芳醇な香りが喉を鳴らす。
「あぁ、コイツと組んで今日で5年だからな! 記念だよ!」
上機嫌に肩組んでくるアイン、仕事上がりの汗臭いアインを押しのける。
「そうなんだにゃぇ~、じゃあ乾杯するだろうし急いで持ってくるにぇ~」
尻尾で器用にバランスを取りながらスルスルと抜けていく、おやっさんの下に向かい2~3言話すと、手早く上物を持ってくる。
「ほいさ~ じゃあお二人さん、追加注文も歓迎してるからにぇ~」
「あぁ、流石にそんなには頼めないだろうけどな。それじゃアイン」
アインにジョッキを手渡す。
「おう、いただくぜ!」
二人でカツンとジョッキを打ち合いエールを口に運び、祝いの席を始めるのだった。
◇◆◇◆
飲み始めてしばらくたった頃、思い出した様にアインが顔を上げた。
「そういや、さっきギルドへ報告に行った際に小耳に挟んだんだが。どうやら聖王国が勇者召喚をしたらしいぞ」
「勇者召喚?」
「何だお前、勇者召喚を知らないのか?」
「いや、知ってるけど……」
正直、聞き覚えがあり過ぎるし嫌な思い出が蘇る。
「どうした、飲んでるのに青い顔して?」
アインが不思議そうに聞いてくる。
「あぁ、すまん何でもないよ。それで勇者召喚がどうしたって?」
「いや、特に俺達に関係ある訳じゃないけどな。俺達には関係無い事なんだけど、チラッと小耳に挟んだだけさ」
「そうだな、俺達には関係無い……けど何かあるんだろ?」
アインが意味も無く、この話題を持ち込むとは思えない。
「いや、特に無いぞ? ギルドで滅茶苦茶話題になってたからな。まぁ、しいて言うなら俺達にはあまり関係ないという事だけだ」
その言葉にずり落ちかけた、確かに聖王国《この国》の上層部と冒険者はあまり関わりが無いしな。
「それよりもだ、そろそろお前も所帯を持つべきじゃないのか?」
かなり酔って顔を赤くしたアインが、ダル絡みをしてくる。
「いきなりなんだよ、というか大分酔ってるなお前……」
「いやな、つくづく実感するんだよ。家に帰ると奥さんが居て、その胸に飛び込んで癒される事がどれだけ大事かってのを!」
「力説するのは良いけど、奥さんを放ってここで飲み明かしてるのは不味いんじゃ?」
「いいのいいの、今日はめでたい日なんだから!! リュリュちゅわ~んもう一杯!!」
呼ばれたリュリュちゃんが少し呆れたように来る。
「にぇ、おかわり期待してるって言ったけど。流石に飲み過ぎじゃにゃい?」
「いいのいいの! そうだホウショウ! リュリュちゃんなんてどうだ!? 可愛いし人気だし、気立ても良いし」
リュリュちゃんを指差してとんでもない事を言うアイン、すると肉斬り包丁が飛んでくる。
「おう、アイン。何か言ったか?」
カウンターから顔を出すのは筋骨隆々の猫獣人、この店のマスターでありリュリュちゃんの親父さんだ。
「あー……いやー……そのぉー……。ホウショウがリュリュちゃんを嫁にしたいなぁーとか言ってたんで……」
コイツ言うに事を欠いて俺を売りやがった!?
「ほう? ホウショウ、貴様はまともな冒険者だと思ってたが、ウチの娘をそんな目で見てたのか?」
殺気が俺の方に向く、それだけで酔いが醒めそうになる。
「み、見てないですよ?」
「ウチの可愛い娘が可愛くないっ……ぎゅぶりん!?」
顔を真っ赤にしたリュリュちゃんの一撃で、親父さんが放物線を描いて吹っ飛んだ。
「止めてよね恥ずかしい!!」
「うぎゅぅ……」
「ほ、ホウショウさんも、冗談でもお嫁さんにするとか、そういう事言っちゃ駄目だからね!」
机越しに詰め寄られる、というか俺そんな事言ってないんだけど……。
「もう! 二人共飲み過ぎ! 今日はおしまい!!」
「あぁ! 俺のエールが……」
俺達のジョッキが奪われる、というかアインのは空じゃねーか。
「そうだな、リュリュちゃんこれで。お釣りはいらないよ」
懐から銀貨を数枚取り出す、これだけあれば足りるだろう。
「多すぎますよ!?」
「構わないよ、アインが失礼な事したしね」
それから酔っぱらったアインを担ぎ、店を出るのだった。