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三国志演義

三国志演義・赤壁大戦~三江の大殲滅~【玄徳の章・中編】

作者: 霧夜シオン
掲載日:2025/04/15


声劇台本:三国志演義・赤壁大戦(せきへきたいせん)~三江(さんこう)の大殲滅(だいせんめつ)~【玄徳(げんとく)の章・中編】


作者:霧夜シオン


所要時間:約45分


必要演者数:最低6人

      (6:0:0)

      (5:1:0)



はじめに:この一連の三国志台本は、

     故・横山光輝先生

     故・吉川英治先生

     北方健三先生

     蒼天航路

     の三国志や各種ゲーム等に加え、

     作者の想像

     を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のた

     め本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事

     も多々あります。

     その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです

     。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただい

     ております。何卒ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします

     。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場

     合がありますので、注意してください。

     なお、古代中国において名前は 姓、諱、字の3つに分かれており、

     例を挙げると諸葛亮孔明の場合、諸葛が姓、亮が諱、孔明が字となりま

     す。古代中国において諱を他人が呼ぶのは避けられていた為、本来であ

     れば諸葛孔明、もしくは単に字のみで孔明と記載しなければならないの

     ですが、この三国志演義台本においては姓と諱で(例:諸葛亮)と統一

     させていただきます、悪しからず。

     なお、性別逆転は基本的に不可とします。



●登場人物


諸葛亮(しょかつりょう)・♂:字(あざな)は孔明(こうめい)。

      臥龍(がりょう)と謳(うた)われる賢人。

      上(かみ)は天文(てんもん)、下(しも)は地理を悟(さと)り、六韜三略(りくとうさんりゃく)を胸にたたみ、

      若いのに田舎に隠居して晴耕雨読(せいこううどく)の日を送っていた所を

      劉備(りゅうび)の三顧(さんこ)の礼を受けてその軍師となる。

      曹操(そうそう)に対抗するべく孫権(そんけん)と同盟を結ぶべく呉(ご)へ乗り込む。

      後に中国史上屈指の名宰相(めいさいしょう)として名を残す事になる。


周瑜(しゅうゆ)・♂:字(あざな)は公謹(こうきん)。

     呉(ご)の前主(ぜんしゅ)、小覇王(しょうはおう)孫策(そんさく)と同年代の若き英傑。

     孫策(そんさく)の臨終(りんじゅう)の際に軍事を託(たく)される。

     今回の戦いにあたって水軍大都督(すいぐんだいととく)として全軍を指揮、劉備(りゅうび)と

     同盟を組んで曹操(そうそう)打倒にあたる。

     非常な美青年で美周郎(びしゅうろう)とあだ名される。

     妻に当時絶世の美女、江東(こうとう)の二喬(にきょう)と謳(うた)われた小喬(しょうきょう)をもつ。

     音楽にも堪能(たんのう)で当時の歌にも、「曲に誤りあり、周朗(しゅうろう)(周瑜)

     顧(かえり)みる」という歌詞があるほど。


魯粛(ろしゅく)・♂:字(あざな)は子敬(しけい)。

     本格的に頭角を現したのは孫権(そんけん)の代から。

     周瑜(しゅうゆ)に推挙(すいきょ)され孫権(そんけん)に仕(つか)える。演義では割と周瑜(しゅうゆ)と諸葛亮(しょかつりょう)の間

     でオロオロしているイメージがあるが、正史(せいし)では豪胆(ごうたん)かつ

     キレる頭脳を持つ。    


黄蓋(こうがい)・♂:字(あざな)は公覆(こうふく)。

     孫権(そんけん)の父親、孫堅(そんけん)の代から仕(つか)える最古参の将軍。

     周瑜(しゅうゆ)としめし合わせて苦肉(くにく)の計を自(みずか)ら引き受け、偽りの降伏(こうふく)

     を曹操(そうそう)に申し入れる。


諸葛謹(しょかつきん)・♂:字(あざな)は子瑜(しゆ)。

      魯粛(ろしゅく)に推挙(すいきょ)され、孫権(そんけん)に仕(つか)える。

      演義ではあまり目立った活躍は描かれてないが、

      三国志の作者である陳寿(ちんじゅ)に、

      「呉(ご)はその虎を得たり」と評されるほどの優秀な人物で、

      孫権(そんけん)の信頼も非常に篤(あつ)かったという。

      諸葛亮(しょかつりょう)の実の兄。


劉備(りゅうび)・♂:字(あざな)は玄徳(げんとく)。

     漢王朝の中山靖王(ちゅうざんせいおう)・劉勝(りゅうしょう)の末孫(まっそん)を自称する。

     義兄弟の関羽(かんう)、張飛(ちょうひ)らと共に乱れた世を正(ただ)さんと立ち上がり、

     混迷の乱世(らんせ)を駆け抜ける。

     諸葛亮(しょかつりょう)の君主。


孫権(そんけん)軍兵士1・♂:今回はわりと登場が多い。

         (役の組み合わせによっては男女不問とします。)


孫権(そんけん)軍兵士2・♂:同じく出番が多い。

         (役の組み合わせによっては男女不問とします。)


ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。



●配役例(他に良い組み合わせがあったら教えてください)

諸葛亮:

周瑜:

魯粛・黄蓋:

劉備・孫権軍兵士2:

諸葛瑾・孫権軍兵士1:

ナレ:


※演者数が少ない状態で上演する際は兼ね役でお願いします。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:荊州(けいしゅう)へ使者として訪れた呉(ご)の魯粛(ろしゅく)と共に、諸葛亮(しょかつりょう)は呉(ご)へ単身乗り込

   む。孫権(そんけん)や周瑜(しゅうゆ)らに弁舌(べんぜつ)を振るい、曹操(そうそう)との決戦を決断させる。

   いっぽう周瑜(しゅうゆ)は、諸葛亮(しょかつりょう)の才が将来の呉(ご)に災いをなす事を恐れ、

   密(ひそ)かに暗殺を画策(かくさく)する。

   しかし魯粛(ろしゅく)はこれに反対。むしろ諸葛亮(しょかつりょう)の兄・諸葛瑾(しょかつきん)に命じて、

   彼を呉(ご)に仕えさせるよう献策(けんさく)。

   周瑜(しゅうゆ)はこれを容(い)れて、諸葛瑾(しょかつきん)を説得に向かわせるのであった。


諸葛瑾:弟の孔明(こうめい)はいるだろうか。

    兄が訪ねてきた、と伝えてもらいたい。


    【二拍】


諸葛亮:なに、兄上が…?

    今日は出陣の儀(ぎ)のはず。

    一人でここへ来るとは、もしや…。


    【二拍】


    おお兄上、よくおいでくださいました。さあ、こちらへ…。

    先日は役目もあって挨拶(あいさつ)もろくにできませんでした。

    どうかお許しを。


諸葛瑾:いや、それは私も同じことだ。

    しかし、お前と最後に会ったのはいつぶりだろうか…。

    ほんの子供の頃しか覚えておらぬが、本当に立派になったなぁ…

    。


諸葛亮:兄上こそ、呉(ご)の重臣としてご活躍なされていることは、

    遠く隆中(りゅうちゅう)の地にまで聞こえてきておりました。


諸葛瑾:そうか…こうしてお前と話していると、

    幼い頃に戻った心地(ここち)がする。


ナレ:久方ぶりの再会となった二人の話は尽(つ)きなかった。

   しかし周瑜(しゅうゆ)から内密の依頼を受けていた諸葛瑾(しょかつきん)は、

   話の途切(とぎ)れた折(おり)を狙い、おもむろに本来の目的を切り出した。


諸葛瑾:ときに亮(りょう)、お前はいにしえの伯夷(はくい)、叔斉(しゅくせい)の兄弟をどう思う?


諸葛亮:え、伯夷(はくい)に叔斉(しゅくせい)ですか…?

    【つぶやくように】

    やはり…そうか。

    私を呉(ご)に仕(つか)えさせるよう、周瑜(しゅうゆ)から頼まれてきたか…。


諸葛瑾:二人は互いに王の位(くらい)を譲(ゆず)り合い、ついには二人して国を去った。

    その後は餓死するまで離れること無く、その名は今に至るまで

    残っている。

    それに比べ、我らは幼少の頃に別れ、長(ちょう)じては別々の君主に

    仕(つか)えている。

    久方ぶりに会ったと思えば、お前は劉備(りゅうび)殿からの使者、

    片や私は呉(ご)の国の臣として、使者であるお前を迎えねばならず、

    親しく語り合う事も出来ぬ。

    伯夷(はくい)兄弟の故事(こじ)を思うと、人の子として恥ずかしくはないであろ

    うか?


諸葛亮:いえ、兄上のお考えは事の一面のみを見ておられます。

    兄上がおっしゃられるのは義理…

    ですが、忠孝(ちゅうこう)はそれより重いかと存じます。


諸葛瑾:確かに忠孝(ちゅうこう)も大事だが、義理も忘れてはなるまい。


諸葛亮:兄上、我らは漢(かん)王朝に仕(つか)えた両親の子ではありませぬか。

    我が君(きみ)劉皇叔(りゅうこうしゅく)は、中山靖王の末裔にて景帝の玄孫にあたる御方。

    もし兄上が呉(ご)を去って我が君(きみ)に仕(つか)えれば、同じ漢(かん)王朝の臣(しん)として

    忠義(ちゅうぎ)をまっとうする事になります。


諸葛瑾:むむ…しかし……。


諸葛亮:亡き両親の墓も北方(ほっぽう)にあります。

    兄上がお帰りになられれば、兄弟で墓をお祀(まつ)りする事も出来まし

    ょう。

    これこそ忠孝(ちゅうこう)をまっとうする最善の方法です。

    その時こそ諸葛(しょかつ)の兄弟は、伯夷(はくい)・叔斉(しゅくせい)に決して劣るものではない

    と、世間の人々は言いましょう。


諸葛瑾:【つぶやくように】

    こちらが言おうとしたことを、すべて先に言われるとは…。


諸葛亮:!あれは全軍参集の合図ではありませぬか?

    兄上も呉(ご)の重臣、遅れてはなりますまい。

    折(おり)を見て、またゆっくりと話そうではありませんか。


諸葛瑾:うむ…そうだな。

    ではまた、いずれ会おう。


    【三拍】


    ああ…偉い弟だ。

    呉(ご)の臣として私の立場は苦しいが、

    一人の兄としてこれほど喜ばしく、嬉しいことは無い…。


諸葛亮:…帰られたか。

    兄上、申し訳ありませぬ。

    孔明(こうめい)は漢(かん)王室の、劉皇叔(りゅうこうしゅく)の臣(しん)にございます…。


ナレ:その後、諸葛瑾(しょかつきん)から事(こと)の次第(しだい)の報告を受けた周瑜(しゅうゆ)は、

   いよいよ諸葛亮(しょかつりょう)暗殺の決意を強固(きょうこ)なものにする。

   出陣の儀(ぎ)を終えた後、すぐに魯粛(ろしゅく)を遣(つか)わして諸葛亮(しょかつりょう)を迎えた。


魯粛:都督(ととく)、諸葛亮(しょかつりょう)殿をお連れしました。


周瑜:おぉ参られたか。

   まずはこちらへ。


   【二拍】


   …実は一度、お尋(たず)ねしてみたい事がありましてな。


諸葛亮:ほう、なんでしょうか?


周瑜:袁紹(えんしょう)と曹操(そうそう)の争った、白馬(はくば)・延津(えんしん)、そして官渡(かんと)の戦(いくさ)についてです。


諸葛亮:これはまた唐突な話題ですな。

    はるか北方(ほっぽう)の地で起きた事、私に何が分かりましょうか。


周瑜:あの戦いは兵力の少ない曹操(そうそう)が袁紹(えんしょう)の大軍を打ち破った。

   その際、勝利に大きく貢献(こうけん)したのは何であったか。

   臥龍(がりょう)と名高い諸葛亮(しょかつりょう)殿の軍学に照らして、

   私に教えていただきたいのです。


諸葛亮:兵の士気や軍の運用、そして二人の気性(きしょう)の相違(そうい)もありましょう。

    しかし一番の要因は、曹操(そうそう)が袁紹(えんしょう)軍の兵糧庫(ひょうろうこ)を焼き払った。

    それがあの勝利を決定づけたと言ってよいでしょう。


周瑜:おお、やはり諸葛亮(しょかつりょう)殿もそうお考えであったか。

   此度(こたび)の戦も相手は百万、こちらは数万。

   官渡(かんと)の戦いの折(おり)の曹操(そうそう)と同じ立場にあります。

   それゆえ曹操(そうそう)軍の兵糧(ひょうろう)を断つ事が、この劣勢を覆(くつがえ)す上策(じょうさく)と考えてい

   ます。


諸葛亮:なるほど…曹操(そうそう)軍の兵糧庫(ひょうろうこ)の所在は突き止めておられますか?


周瑜:それについては抜かりない。

   曹操(そうそう)軍の兵糧(ひょうろう)はすべて聚鉄山(じゅてつざん)にあるとの事。

   諸葛亮(しょかつりょう)殿は長く荊州(けいしゅう)に住み、あの辺(あた)りの地理には詳(くわ)しいかと思う。

   我が軍の決死の兵を千人をお貸しするゆえ、

   夜の闇に紛(まぎ)れて敵地(てきち)深く入り、兵糧(ひょうろう)を焼き払っていただけないだろ

   うか?

   おそらく諸葛亮(しょかつりょう)殿をおいて、これを成(な)し遂(と)げられる人はいない。


諸葛亮:【つぶやくように】

    …ふふふ、なるほど。

    世間(せけん)の目を欺(あざむ)く為、敵の手を借りて私を殺そうというわけか。

    ならば…。


    承知しました。


周瑜:!おお、やってくださるか!

   感謝いたします!


魯粛:【つぶやくように】

   な…聚鉄山(じゅてつざん)を奇襲(きしゅう)などと…そんな事がうまくいくはずが…!


諸葛亮:【つぶやくように】

    おそらく魯粛(ろしゅく)は寝耳(ねみみ)に水のはず…必ずや後を追って来よう。


    では、さっそく戻って出立(しゅったつ)の準備にかかりましょう。


ナレ:諸葛亮(しょかつりょう)は周瑜(しゅうゆ)の本心を看破(かんぱ)すると、

   さも自信があるかのように快諾(かいだく)、その場を後にする。

   あてがわれた部屋に戻って武装していると、

   はたして魯粛(ろしゅく)が後を追ってきた。


魯粛:し、諸葛亮(しょかつりょう)殿、

   先ほどの話は何か必勝の策があって赴(おもむ)かれるのですか?


諸葛亮:ははは、勝算(しょうさん)なき戦(いくさ)はしませぬ。


魯粛:しかし全軍の生命線とも言うべき兵糧庫(ひょうろうこ)、

   曹操(そうそう)ほどの者が、その守りを疎(おろそ)かにするとは思われませぬが…。


諸葛亮:失礼ながらこの孔明(こうめい)、

    水上の戦(いくさ)はおろか、騎馬戦、歩兵の平野山岳戦(へいやさんがくせん)、

    いずれにおいても極めぬものはありません。

    魯粛(ろしゅく)殿、貴公や周都督(しゅうととく)が優れた将であることは認めますが…、

    惜(お)しい事に一つの事しかできませぬ。


魯粛:なっ…それはどういうことですか!?


諸葛亮:陸戦(りくせん)にかけては魯粛(ろしゅく)、水上戦(すいじょうせん)においては周瑜(しゅうゆ)ありとは、

    呉(ご)の人からよく自慢に聞く事です。

    しかし陸の覇者たる貴公も水上戦(すいじょうせん)には暗く、

    水上戦(すいじょうせん)の名手(めいしゅ)たる周都督(しゅうととく)も、陸戦(りくせん)においては打ち上げられた魚も

    同然、何の芸もありません。

    これは、先ほどの事からでも明らかでしょう。


魯粛:諸葛亮(しょかつりょう)殿…いくら何でも言葉が過(す)ぎはしませぬか?


諸葛亮:いやいや、言いすぎという事はありますまい。

    わずか千の兵で聚鉄山(じゅてつざん)の兵糧庫(ひょうろうこ)を焼き払えるなどと、

    そう信じて疑っておられないのでしたら…、

    どう見ても陸戦(りくせん)に暗い証拠ではありませんか?

    もし今宵(こよい)、私が討(う)ち死(じ)にでもしようものなら、

    周都督(しゅうととく)は愚将(ぐしょう)だと、あまねく天下の笑いものになる事でしょうな。


魯粛:ッ、し、しばしお待ちあれ!

   それがしからも都督(ととく)を説得してみますゆえ!


ナレ:魯粛(ろしゅく)は慌(あわ)てて周瑜(しゅうゆ)の元へ戻ってありのまま報告した。

   周瑜(しゅうゆ)は激怒すると諸葛亮(しょかつりょう)の出陣を止める。

   兵を五千に増やし、みずから出陣準備に取り掛かった。

   再びやって来た魯粛(ろしゅく)の口からそれを聞くと、

   諸葛亮(しょかつりょう)は声を立てて笑った。


諸葛亮:ふふふ…はっははは…!

    五千なら五千、一万なら一万、

    兵を増やせば増やすほど、ことごとく曹操(そうそう)の餌食(えじき)となるでしょう

    。


魯粛:お止めしたのだが…あのご気性(きしょう)だ。聞き入れて下さらん。


諸葛亮:魯粛(ろしゅく)殿、周都督(しゅうととく)は呉(ご)の至宝(しほう)ともいうべき存在です。

    むざむざ討(う)ち死(じ)にさせてはなりますまい。

    あくまで肝心なのは、我が君(きみ)劉皇叔(りゅうこうしゅく)と呉(ご)が一体となって

    曹操(そうそう)に当たることです。


魯粛:ええ、それがしもそう思っております。


諸葛亮:いま仲間同士で疑いあっていては、必ず曹操(そうそう)に付け込まれるでし

    ょう。

    もう一度、貴公から周都督(しゅうととく)を説得していただきたい。

    思うにこの孔明(こうめい)、陸戦(りくせん)から始めるのは不利と考えています。

    まずこちらの得意とする水上戦(すいじょうせん)で曹操(そうそう)の出鼻(でばな)を挫(くじ)き、

    敵の士気を落とすことです。


魯粛:いかにも。

   我が呉(ご)の真骨頂(しんこっちょう)は水軍にござれば。


諸葛亮:そこから我が君(きみ)劉皇叔(りゅうこうしゅく)と組んで、

    徐々に陸戦(りくせん)の機をうかがうべきです。


魯粛:おっしゃること、いちいちそれがしの思うところと一致しておりま

   す。

   急いでもう一度、出陣をお諫(いさ)めして参りましょう。

   周都督(しゅうととく)もまだお若く、血気(けっき)にはやるところがありますゆえ。


諸葛亮:そうしてくだされ。


魯粛:では。


   【二拍】


諸葛亮:…これで良い。だが周瑜(しゅうゆ)は諦(あきら)めぬであろう。

    次はどう仕掛けてくるか…。


ナレ:その後、魯粛(ろしゅく)の説得もあって聚鉄山奇襲(じゅてつざんきしゅう)は取り消されたが、

   周瑜(しゅうゆ)はいよいよ殺意を固める。

   それからしばらくして、岸辺(きしべ)を歩いている諸葛亮(しょかつりょう)の耳に、

   驚くべき内容の話が飛び込んできた。


孫権軍兵士1:なあ、今日は誰か客が来ているのか?


孫権軍兵士2:ん?ああ、陣中見舞(じんちゅうみま)いらしいぞ。

       なんでも、同盟先(どうめいさき)の江夏(こうか)から来てるんだと。


諸葛亮:【つぶやくように】

    な、なに、江夏から!?

    私には何も知らされていない…ッ周瑜(しゅうゆ)、もしや我が君(きみ)を…!


孫権軍兵士1:それにしちゃあ、ずいぶん本陣周(ほんじんまわ)りが厳重だな?

       いつもより多く護衛が配置されているぞ。


孫権軍兵士2:大切な同盟相手の客人だからじゃないのか?


孫権軍兵士1:それでも数が多すぎると思うんだが…。


諸葛亮:【つぶやくように】

    バカな!その兵どもは護衛ではない!

    我が君(きみ)を暗殺せんとする為の刺客(しかく)…!!

    ともかく様子(ようす)を…。


    【三拍】


    あぁ我が君(きみ)!ひとこと釘(くぎ)をさしておくべきであったか…。

    しかし、関羽(かんう)がああして傍(そば)に控(ひか)えているのであれば、

    周瑜(しゅうゆ)もうかつに手出しはできまい…。


周瑜:かねてから劉皇叔(りゅうこうしゅく)の名をお慕(した)いしておりました。

   さあさあ、陣中(じんちゅう)ゆえ満足なもてなしもできませぬが、

   さ、こちらへ。


劉備:これはねんごろなおもてなし、感謝いたします。


ナレ:酒がほど良く回っていく中、幕の外側から密(ひそ)かに様子(ようす)をうかがって

   いる諸葛亮(しょかつりょう)はさすがに手に汗を握り、中では劉備(りゅうび)がいかにも心安(こころやす)げ

   に周瑜(しゅうゆ)と会談を続け、杯(さかずき)を重ねていく。

   その傍(かたわ)らには関羽(かんう)が、さながら守護神の如(ごと)く立ち続けていた。


周瑜:ところで、この度は貴国(きこく)と共に曹操(そうそう)と戦う事となったわけですが、

   貴国(きこく)の軍備、作戦をうかがっておきたく存じます。


劉備:それならば、私より孔明(こうめい)にお聞きになられた方がよろしいかと。

   そうだ、孔明(こうめい)もこの場に呼んでいただけませぬか?

   久方(ひさかた)ぶりに会いたいのですが。


周瑜:いや、実は今、諸葛亮(しょかつりょう)殿にはいろいろと策を授(さず)けていただき、

   その準備に多忙(たぼう)でございましてな。

   どうせ曹操(そうそう)との決戦は目の前に迫(せま)っております。

   敵を破り、めでたく祝賀の会となった時にでも、

   お会いになられてはいかがですか?


劉備:【つぶやくように】

   主君が会わせよと言っているというのに、

   話をそらして会わせようとせぬ…。

   関羽(かんう)も袖(そで)を引いて知らせて来ておるし、長居(ながい)は無用か。


   そうですな。

   では今日の盃(さかずき)も、これくらいでお預けしておきましょう。

   いずれ曹操(そうそう)を打ち破った後、改めて祝賀の席でいただくと致します。

   では、いずれまた。


周瑜:えっ!

   まぁまぁ、そう言わずに…。


劉備:いやいや、今は一刻(いっこく)を争う大切な時期ですからな。

   後日またゆっくりといたしましょう。

   では、これにて。


周瑜:!う、そ、そうですな。

   ではお見送りいたします。


劉備:それにしても見事な軍備でございますな。

   この玄徳(げんとく)、心強い限りです。


周瑜:ははは…お言葉、いたみいります。


諸葛亮:【安堵(あんど)の溜息】

    良かった。

    うまく席を立たれたか…。

    よし、先回りしてお伝えしておかねば…。


    【三拍】


    ご無事(ぶじ)のお戻り、安堵(あんど)いたしました。


劉備:!!おお、軍師!

   そなたこそ無事(ぶじ)であったか!


諸葛亮:我が君(きみ)、此度(こたび)の行動、軽率(けいそつ)に過ぎます。

    どうか以後はお慎(つつし)みくださいませ。


劉備:しかし…そなたの身が心配でならなかったのだ。


諸葛亮:私は大丈夫です。

    傍目(はため)には虎の口の中にいるように見えるかと思われますが、

    しかしその安泰(あんたい)なること、そびえる山のごとしです。


劉備:そうか…わかった。

   以後は慎(つつし)もう。


諸葛亮:それよりも注意していただきたいのは、

    これからの我が君(きみ)の動きです。

    来たる十一月二十日、必ず趙雲(ちょううん)に命じて早船(はやぶね)を一艘(いっそう)、

    南屏山(なんぴょうざん)近くの川岸まで迎(むか)えに遣(つか)わしていただきたく存じます。


劉備:十一月二十日?

   この日に何かあるのか?


諸葛亮:はい。

    その日を境(さかい)として数日間、風向きが変わります。

    いま帰らずとも、東南の風が吹き起こる日には必ず江夏(こうか)へ戻りま

    す。


劉備:軍師よ、どうして今から風向きの変わる日が分かるのだ?


諸葛亮:荊州(けいしゅう)の隆中(りゅうちゅう)に十年住んでいた間、

    四季を長江(ちょうこう)の水や空の雲と共に眺(なが)め、風を測(はか)って暮らしていたよ

    うなものです。

    それゆえ風向き程度ならば、ほぼ外(はず)れぬ程度の予測はつきます。


劉備:なるほど、分かった。

   十一月二十日、南屏山(なんぴょうざん)近くの川岸に、

   趙雲(ちょううん)を早船で遣(つか)わせば良いのだな?


諸葛亮:はい。

    さ、人目(ひとめ)に触(ふ)れぬうちに、

    早く江夏(こうか)へお戻り遊ばしませ。


劉備:うむ、今から帰りを心待ちにしておるぞ。


ナレ:その後、大戦の火蓋(ひぶた)は水上から切られた。

   初戦は周瑜(しゅうゆ)の指揮の元、甘寧(かんねい)率(ひき)いる水軍部隊が蔡瑁(さいぼう)の船団相手に

   勝利を収める。

   しかし両軍ともそれ以降は動かず、謀略(ぼうりゃく)の駆(か)け引きに終始(しゅうし)していた

   。


諸葛亮:【つぶやく】

    この膠着(こうちゃく)状態…

    さて、次なる一手はどこから打つべきか…?


孫権軍兵士1:おい、聞いたか?

       本陣じゃ宴会らしいぞ。

       将軍達が集まっていった。


孫権軍兵士2:いいなぁ…って、何かあったのか?

       最近ろくに戦(いくさ)してないだろ?


孫権軍兵士1:何でも、周都督(しゅうととく)の旧友が訪(たず)ねてきたからだとかなんとか。


諸葛亮:【つぶやく】

    旧友…そういえば、ホウ統(とう)や徐庶(じょしょ)は息災(そくさい)だろうか…。


孫権軍兵士2:へえ、この戦争の真(ま)っ最中(さいちゅう)にか。

       良いご身分だぜ…。

       どんな奴だった?


孫権軍兵士1:俺も見たわけじゃあねえ。

       そういう話があったってやつさ。

       あ、でも名前は聞いたな。

       ええーと…そうそう、蒋幹(しょうかん)とか言ってたな。


諸葛亮:【つぶやく】

    !!ほう…蒋幹(しょうかん)といえば、曹操(そうそう)の客になっていたはずだな。

    そうか…なるほど。


孫権軍兵士2:ふーん…ま、俺らには関係ねえやな。

       それより、見張りサボってると処罰もんだぜ。


孫権軍兵士1:おおっと、いけねえいけねえ。

       それじゃあ、交代だな。


孫権軍兵士2:おう、また後でなぁ。


諸葛亮:【つぶやく】

    おそらく周瑜(しゅうゆ)も見破っているだろう。

    これが我らの次なる一手の糸口となるか…

    彼の手並み拝見といこう。


ナレ:その後まもなく、曹操(そうそう)軍の水軍首脳陣が入れ替わったという噂(うわさ)が、

   長江(ちょうこう)の風に乗って伝わって来た。

   曹操(そうそう)に降伏した荊州(けいしゅう)の将のうち、水上戦を得意としていた蔡瑁(さいぼう)と張允(ちょういん)。

   水軍都督(すいぐんととく)を務めていたこの二人から、曹操(そうそう)の腹心である北国出身の

   于禁(うきん)と毛(もう)カイに変わった、

   と言うのである。


魯粛:諸葛亮(しょかつりょう)殿、おられますかな?


諸葛亮:【つぶやく】

    …また周瑜(しゅうゆ)に様子を見に遣(つか)わされたか。

    よほど警戒されていると見える。

    さしずめ、蔡瑁(さいぼう)・張允(ちょういん)の一件であろうな…。


    これは魯粛(ろしゅく)殿、いかがなされましたか?



魯粛:いやなに、最近しばらく軍務(ぐんむ)に追われて

   お会いしていませんでしたからな。

   お変わりないかと思いまして。


諸葛亮:こちらはいたって手持無沙汰(てもちぶさた)でありましたが…、

    今日にでも周都督(しゅうととく)にお慶(よろこ)びを申し上げようと思っていたところで

    す。


魯粛:お慶(よろこ)び?

   一体、何のことです?


諸葛亮:周都督(しゅうととく)が貴公をここへ遣(つか)わし、私の胸の内を探らせようとなさっ

    た…その事ですよ。


魯粛:!なっ…ど、どうしてそれを知っておいでなので…!?


諸葛亮:ははは。

    うまく蒋幹(しょうかん)を欺(あざむ)いて蔡瑁(さいぼう)・張允(ちょういん)を曹操(そうそう)に斬らせるほどの、

    周都督(しゅうととく)の英知ではありませんか。

    今に自然とお気づきになるでしょう。


魯粛:いや、そうまで申されてはもう一言もありません。

   さすがのご明察です。


諸葛亮:ともあれ、蔡瑁(さいぼう)らを曹操(そうそう)軍から除(のぞ)くことができたのは、

    まことに大成功と言うべきでしょう。

    後釜(あとがま)に于禁(うきん)や毛(もう)カイを据(す)えて士気の刷新(さっしん)と調練(ちょうれん)を重ねている、

    と聞き及びますが…。

    あの二人は水上戦の将という器(うつわ)ではありません。

    やがてみずから、破滅の道をたどるでしょう。


魯粛:諸葛亮(しょかつりょう)殿にそうまで言っていただけるとは、心強い限りです。


諸葛亮:それよりも魯粛(ろしゅく)殿。

    もし戻って周都督(しゅうととく)に問われても、

    私がこの事を知っていたという件はご内密(ないみつ)に願いたい。

    また、この孔明(こうめい)の命を狙おうとなさるかもしれませぬからな。


魯粛:…し、承知しました。


ナレ:そう諸葛亮(しょかつりょう)と約束して去った魯粛(ろしゅく)であったが、

   周瑜(しゅうゆ)にはやはり隠しておけず全(すべ)て話してしまう。

   いよいよ恐れを深めた周瑜(しゅうゆ)は、今度は任務の失敗を利用して

   公然と処刑する方法に出る。

   ある日の軍議でのこと。


魯粛:諸葛亮(しょかつりょう)殿、そろそろ軍議が始まりますゆえ、共に参りましょう。


諸葛亮:ええ。

    そういえばさきの曹操(そうそう)軍との初戦(しょせん)は、

    甘寧(かんねい)将軍が大活躍されたとか。


魯粛:ええ、蔡瑁(さいぼう)らを誘(おび)き寄せて包囲し、一気に叩きました。

   あの時はまだ蔡瑁(さいぼう)が都督(ととく)でしたが、今はそれより劣(おと)る于禁(うきん)や毛(もう)カイ

   です。

   曹操(そうそう)の水軍も大したことはありませんな。


諸葛亮:とはいえ、驕(おご)りは破滅のもとです。

    気を緩(ゆる)めてはなりますまい。


魯粛:いかにも。

   …さて、皆(みな)もう集まっておりますな。

   都督(ととく)、遅くなりました。


周瑜:おお、魯粛(ろしゅく)に諸葛亮(しょかつりょう)殿、参られたか。

   諸将よ、では軍議を始める!


ナレ:呉(ご)の中核(ちゅうかく)をなす将達(しょうたち)が一同(いちどう)席に着くと、各部隊の配置や手配(てはい)、

   策を練(ね)っていった。

   やがて軍議も散会(さんかい)となりかけた時、周瑜(しゅうゆ)がふと何か思いついたよう

   に諸葛亮(しょかつりょう)へ話しかけた。


周瑜:ところで諸葛亮(しょかつりょう)殿、水上戦に用いる武器としては、何を一番多量に

   備えておくべきと思われますか?


諸葛亮:そうですな…。

    将来には特殊な武器が開発されるかもしれませぬが、

    現状では弩(いしゆみ)に勝(まさ)るものはありませぬな。


周瑜:むかし太公望(たいこうぼう)は陣中(じんちゅう)に鍛冶屋(かじや)を伴(ともな)い、多くの武器を作らせたと

   聞きます。

   諸葛亮(しょかつりょう)殿、ひとつ我が呉(ご)の為に十万本の矢を

   作っていただけないだろうか。

   鍛冶屋(かじや)、矢柄師(やがらし)などはいくらでもお使いになって構(かま)わぬ。


諸葛亮:陣中では今、それほど矢が不足しておりますか。


周瑜:いま貯蔵している量では、あっという間に使い果たす可能性が

   あるやもしれぬのです。


諸葛亮:なるほど…承知しました。


周瑜:十日のうちにできますかな?


諸葛亮:十日、ですか。

    【つぶやくように】

    なるほど、次はこの手で来たか…。

    周瑜(しゅうゆ)もなかなか手の込んだことをする…。


周瑜:無理と言えば無理であろうがーー


諸葛亮:【↑の語尾に喰い気味に】

    いや、明日はどう変化するか分からぬのが戦(いくさ)です。

    十日などといわず、三日で作り上げてご覧に入れましょう。


周瑜:なッなに三日!?

   諸葛亮(しょかつりょう)殿、冗談を言っているのではありますまいな?


諸葛亮:陣中(じんちゅう)に戯言(ざれごと)なし。

    このような場でどうして冗談など言いましょうか。

    では、今日はこれにて…。

    【二拍】

    私の予想が正しければ、三日目の夜は…。


    【二拍】


魯粛:しょ、諸葛亮(しょかつりょう)殿、お待ちあれ!


諸葛亮:これは魯粛(ろしゅく)殿。

    …いや、あなたもお人(ひと)が悪いですな。


魯粛:それがしが?

   それはまた何故です。


諸葛亮:あれほど申し上げておいたのに、

    周都督(しゅうととく)に全て喋(しゃべ)ってしまわれたでしょう?

    おかげで難題を与えられてしまったではありませんか。

    もしできなければ…軍法(ぐんぽう)に照らして死罪でしょうな。


魯粛:しかし、都督(ととく)が十日と言われたのを、

   三日と期限をみずから切ったのは諸葛亮(しょかつりょう)殿ではありませぬか。

   それも諸将の目の前でですぞ。

   さすがにこればかりは、それがしにもどうにもなりませぬ。


諸葛亮:いや、何も周都督(しゅうととく)にお取り成しを頼みたいわけではありません。

    魯粛(ろしゅく)殿の配下の兵を五、六百人、それと船を二十艘(にじゅっそう)ほど

    お貸し願いたい。


魯粛:え、それがしの配下の兵をですか?

   それに船を二十艘(にじゅっそう)…、一体どうされるおつもりで?


諸葛亮:まず船ごとに兵を三十人ずつ乗せます。

    船体(せんたい)は全て青い布と束(たば)ねた藁(わら)で覆(おお)い、更に多数の藁人形(わらにんぎょう)を

    立てかけておいて下され。

    さすれば、必ず十万本の矢を周都督(しゅうととく)の本陣まで運ばせましょう。


魯粛:むむ、確かにできなくはありませんが…本当にそれで十万本の矢を

   作れるのでしょうな?


諸葛亮:もちろんです。

    しかし、このことは周都督(しゅうととく)には黙っておいていただきたい。

    あるいはお許しがないかもしれませぬからな。


魯粛:す、少し考える時間をいただきたい。

   後ほどまた…。


ナレ:魯粛(ろしゅく)はまたしても周瑜(しゅうゆ)にこれを相談、その結果やらせてみようと

   いう結論に至る。

   諸葛亮(しょかつりょう)が注文したものはすぐに編成されて岸に繋(つな)がれ、

   その時を待っていた。

   そして期限のせまった三日目の夜。


魯粛:諸葛亮(しょかつりょう)殿、期限まであと今宵(こよい)限りですぞ。


諸葛亮:そうです。

    ついに今宵(こよい)限りとなりました。

    ついては魯粛(ろしゅく)殿にもご足労(そくろう)願いたいのですが。


魯粛:え…どちらへ?


諸葛亮:長江の北岸(ほくがん)です。


魯粛:?い、いったい…何をしに行かれるので?


諸葛亮:矢狩(やが)りです。矢狩(やが)りに参るのですよ。

    さ、こちらへ…。

    よし、船を出せ!


    【三拍】


魯粛:それがしには、諸葛亮(しょかつりょう)殿の考えとこの船団の目的がとんとわかりま

   せん。


諸葛亮:はっははは…

    この深い夜霧(よぎり)が晴れれば、自然とお分かりになりますよ。


魯粛:青い幕(まく)と藁(わら)で船をすべて覆(おお)ってしまうとは…、

   まるで覆面(ふくめん)の船団ですな、これは…。


諸葛亮:なるほど、それは面白(おもしろ)い表現ですな。

    まぁ、目的地に着くまで酒でもいかがですか?


魯粛:【つぶやくように】

   一体何を考えて…このわずかな兵力で曹操(そうそう)軍と戦うはずもなし…、

   も、もしやこのまま、私を手土産(てみやげ)に江夏(こうか)へ帰るつもりでは…!?


ナレ:不安な魯粛(ろしゅく)と悠然(ゆうぜん)たる孔明(こうめい)。

   船団はしばらく長江(ちょうこう)を北へ遡(さかのぼ)っていくと、やがて朧(おぼろ)な灯(あか)りの列が

   夜霧(よぎり)の向こうに見え始めた。

   すなわち曹操(そうそう)軍の本隊の布陣(ふじん)している、北岸(ほくがん)の要塞(ようさい)である。


孫権軍兵士1:諸葛亮(しょかつりょう)様、敵陣(てきじん)が見えました!


諸葛亮:よし、出港前に伝えてはいたが、あらためて全船(ぜんせん)に申し渡す!

    決して深く攻め込まず、敵の矢が届く距離を縦横無尽(じゅうおうむじん)に行き来(き)せよ。

    船体(せんたい)にくまなく矢を射(い)かけさせるのだ!


孫権軍兵士2:ははっ、かしこまりました!


魯粛:!!しょ、諸葛亮(しょかつりょう)殿…ではこの船団の目的は…!


諸葛亮:ふ…さあ魯粛(ろしゅく)殿。

    矢狩(やが)りと参りましょう。

    合図を出せ!


ナレ:号令一下(ごうれいいっか)、諸葛亮(しょかつりょう)の乗る旗艦(きかん)を中心に、全(すべ)ての船が一斉(いっせい)に曹操(そうそう)軍の

   要塞(ようさい)に突撃するかのような構(かま)えを見せた。

   それに対し北岸(ほくがん)からは、波の音も消えるかと思われるほどの唸(うな)りと

   共に、大量の矢が飛んできた。


魯粛:諸葛亮(しょかつりょう)殿!

   敵船団が出てくる恐れはないのですか!?


諸葛亮:ええ、この深い夜霧(よぎり)、それに敵の水軍を束(たば)ねるのは

    水上戦に不慣(ふな)れな于禁(うきん)に毛(もう)カイ…

    決して出てくることはありません。


    【三拍】


    よし、もうこれくらいで良いだろう。

    全船(ぜんせん)に引き上げの合図を!


孫権軍兵士1:ははっ!

       全船撤退(ぜんせんてったい)!


孫権軍兵士2:!撤退(てったい)の合図だ!

       南岸(なんがん)に向けて全速前進(ぜんそくぜんしん)だ!


       【二拍】


諸葛亮:曹操(そうそう)よ、今宵(こよい)のご好意を感謝する!

    贈(おく)り物の矢は十分に頂戴(ちょうだい)した!

    さらば!!


魯粛:【つぶやくように】

   な、なんという…なんという知謀(ちぼう)だ…!

   敵から矢を奪うとは…!


諸葛亮:魯粛(ろしゅく)殿、この沢山(たくさん)な矢が数え切れますかな?


魯粛:いやあ…到底(とうてい)数え切れませぬ。

   三日のうちにと言い出したのは、これを狙っての事でしたか。


諸葛亮:ええ。

    十万本の矢を十日で、しかもこれ程(ほど)のものをとなれば、

    どれほど急ごうと間に合うものではありませぬ。

    また、周都督(しゅうととく)が職人達の働きを妨(さまた)げるでしょう。

    なぜなら……


    都督(ととく)が欲しいのは、矢よりも私の命の方でしょうからな。


魯粛:うっ、そ、そこまでご存知(ぞんじ)で…!


諸葛亮:鳥や獣でさえ、身に迫(せま)る危険には敏感に悟(さと)るもの。

    万物(ばんぶつ)の霊長(れいちょう)である人間が、己(おのれ)の命にどうして無関心でおれましょ

    うか?


魯粛:それにしても、霧(きり)が発生することまで見通(みとお)しておられたとは…。


諸葛亮:将たる者、上(かみ)は天文(てんもん)、下(しも)は地理に通(つう)じていなければ大将の器(うつわ)とは

    言えませぬ。

    大地の気温や雲行(くもゆ)き、風の速さで天候を予測する事は漁師(りょうし)にも

    できます。

    そうした予感があったからこそ、三日と期限を切ったのです。

    これを周都督(しゅうととく)が意地悪(いじわる)く七日や十日先に言い出されたら、

    私も困っていた事でしょう。


魯粛:…諸葛亮(しょかつりょう)殿。

   それがしからもう一度、都督(ととく)に申しあげてみます。

   どうか、今回の事も気を悪くしないで下され。


諸葛亮:ははは、気にはしておりませぬ。

    さ、帰りましょう。


ナレ:諸葛亮(しょかつりょう)の指揮する船団は一艘(いっそう)も失うことなく、

   無事に本陣へと帰還(きかん)する。

   船の一艘(いっそう)につき、およそ六、七千本もの矢が立っていた。

   総計十数万という数である。

   それらの中から鏃(やじり)が欠けたり、矢柄(やがら)の折れたものは全て取り除(のぞ)き、

   十万の矢は綺麗(きれい)に積み上げられた。


周瑜:こ、これは…!


諸葛亮:都督(ととく)、十万本の矢、しかとお渡しいたしましたぞ。


周瑜:…恐れ入りました。

   この深謀遠慮(しんぼうえんりょ)、とても私の及ぶところではありません。


諸葛亮:いやいや、この程度は小細工(こざいく)にすぎませぬ。

    それを褒(ほ)められてはかえって面映(おもはゆ)ゆい。


周瑜:世辞(せじ)ではありません、まことに心服(しんぷく)しました。

   諸葛亮(しょかつりょう)殿、まずはこちらへ…。

   幕舎(ばくしゃ)で一献(いっこん)さしあげながら、これからの事についてお知恵を借りた

   い。


魯粛:どうぞ、諸葛亮(しょかつりょう)殿。


諸葛亮:【つぶやくように】

    これでしばらくは手を出してこないだろう…。


    わかりました、では…。


    【二拍】


周瑜:実は我が君(きみ)からお使いが参り、このまま空(むな)しく兵馬(へいば)をとどめて

   何をしているのかとお叱(しか)りがありました。

   諸葛亮(しょかつりょう)殿も昨夜ご覧になられたと思うが、

   曹操(そうそう)軍の要塞(ようさい)はすべて水軍の法にかなったもので、とても近づけま

   せん。

   正直な所、いかがすればよいか悩んでいる次第(しだい)です。


魯粛:あの大軍であの規模(きぼ)の要塞(ようさい)を構築(こうちく)されては、まず手が出せませぬ。

   諸葛亮(しょかつりょう)殿、何か策はございませぬか?


諸葛亮:ふむ…。

    あることはありますが、しかし都督(ととく)も全く無策(むさく)ではございますま

    い。


周瑜:それは…確かに、最後の一計(いっけい)がないわけではないが…。


諸葛亮:では互いに手のひらに策を書き、一致(いっち)しているか試してはみませ

    ぬか?


周瑜:なるほど、それは面白(おもしろ)い。


魯粛:では硯(すずり)と筆を…。

   さ、どうぞ。


   【三拍】


周瑜:よろしいか、諸葛亮(しょかつりょう)殿?


諸葛亮:ええ、いざ。


ナレ:二人は同時に握(にぎ)った手を開いて見せあった。

   互いの手に書かれていたのは、火、の一文字。


周瑜:おお、これは…!


魯粛:まるで、割(わ)り符(ふ)を合わせたようですな!


諸葛亮:胸中(きょうちゅう)の秘策(ひさく)、同じでございましたな。


周瑜・諸葛亮・魯粛:はっはははは……!


ナレ:三人は秘策(ひさく)が一致(いっち)していたことを大いに喜び、

   杯(さかずき)を掲(かか)げて前途(ぜんと)を祝った。

   それからしばらくして、孫権(そんけん)軍本陣近くを歩いている諸葛亮(しょかつりょう)の耳に

   、兵士達の雑談が飛び込んできた。


孫権軍兵士1:なあ、曹操(そうそう)軍から二人の将が降伏してきたぞ。


孫権軍兵士2:へえ、そいつは俺たちが有利になってきてるってことなの

       か?


諸葛亮:【つぶやくように】

    ほう…このような現状の中で降伏者(こうふくしゃ)とは…。

    もしや…。


孫権軍兵士1:そうなんじゃないか?

       敵が減って味方が増えるわけだからさ。

       都督(ととく)様も喜んで迎えてたぜ。


孫権軍兵士2:だよな!

       で、何て名前なんだ?


孫権軍兵士1:えーとたしか…蔡仲(さいちゅう)と…蔡和(さいか)、だったな。

       兵だけを数百人ばかりつれて逃げてきたみたいだぞ。


孫権軍兵士2:ふうん、なるほどねえ…っておい、上官(じょうかん)殿が来たぞ!


孫権軍兵士1:やべえ!

       【二拍】

       はっ、異常ありません!


諸葛亮:蔡瑁(さいぼう)の甥(おい)か…。

    兵だけで家族を連れてきていないという事は、

    偽装投降(ぎそうとうこう)、埋伏(まいふく)の毒か…!

    おそらく周瑜(しゅうゆ)も見抜いていようが…さて、どうする…?


魯粛:諸葛亮(しょかつりょう)殿!ここにおられましたか。


諸葛亮:おお魯粛(ろしゅく)殿、いかがなされました?


魯粛:すでにお耳に入っているかもしれませんが、

   実は先ほど曹操(そうそう)軍から、蔡瑁(さいぼう)の甥(おい)の蔡仲(さいちゅう)・蔡和(さいか)が降伏(こうふく)してきたので

   す。

   それがしは止めたのですが、周都督(しゅうととく)はまったく疑わずに受け入れて

   しまわれて…。

   さすがに軽率(けいそつ)ではないかと思うのです。


諸葛亮:はっははは…。

    魯粛(ろしゅく)殿、それはいらぬ心配というものです。


魯粛:い、いらぬ心配ですと?

   なぜです?


諸葛亮:蔡仲(さいちゅう)・蔡和(さいか)の降伏(こうふく)は明らかに偽(いつわ)りです。

    本当に曹操(そうそう)から逃げてきたのであれば、家族も伴(ともな)っていなくては

    なりません。

    でなければそれらの者が罪に問われ、処刑されてしまいます。


魯粛:あっ、な、なるほど!

   では、それを承知で都督(ととく)は!?


諸葛亮:ええ、周都督(しゅうととく)もすぐ見抜かれたであろう。

    しかし今は互(たが)いに動くに動けない状況です。

    そんな折(おり)に向こうから仕掛けてきたのを絶好(ぜっこう)の機会として、

    逆に一泡(ひとあわ)吹かせようとお考えなのでしょう。

    どうです?

    笑いたくはなりませんか?


魯粛:いえ…笑えません。

   どうしてこう、それがしは人を見る目が鈍(にぶ)いのであろうか…。


ナレ:そんなやり取りがあった翌日。

   孫権(そんけん)軍の陣中でひとつの事件が起きた。

   呉(ご)の国に三代にわたって仕(つか)えている譜代(ふだい)の老将、黄蓋(こうがい)が

   大都督周瑜(だいととくしゅうゆ)の命令に突然さからったのである。


周瑜:近く、我が軍は大きな行動に出るであろう。

   諸将はそれぞれ、三か月分の兵糧(ひょうろう)を船に積み込んでおくのだ。


黄蓋:なに?今、何か月分と言われた。


周瑜:三か月分と申したが、それがどうかしたのか。


黄蓋:無用なご命令じゃ。

   三か月どころか、三十か月あろうと曹操(そうそう)軍を打ち破れはせぬわ!

   今の内に降伏(こうふく)したほうが良かろうて!


周瑜:なッ何ッ!?

   開戦に先立(さきだ)って我が君(きみ)が仰(おお)せられた事を忘れたか!

   二度と降伏(こうふく)を口にする者は、この剣をもって斬り捨てて良いと言わ

   れた事を!!

   者ども、その老いぼれをひっ捕らえよ!


黄蓋:黙れィ、周瑜(しゅうゆ)!!

   汝(なんじ)は日ごろから我が君(きみ)の寵愛(ちょうあい)をかさに着て、

   しかも今日までほとんど無策(むさく)に過ごしているではないか!

   我ら三代の宿将(しゅくしょう)に何も策をはからず、必勝のあてもない命令を発し

   たとて、なんで唯(いい)々諾(だくだく)々と従(したが)えようか!

   いたずらに兵を損ずるのみだわぃ!!


周瑜:ぬううう言わしておけば!

   兵を惑(まど)わし士気を下げる痴(し)れ者め!

   その首を斬らねば、どうして軍律(ぐんりつ)を正(ただ)し得(え)ようか!!

   ええい者ども、なぜその老いぼれにいつまで物を言わしておくか!


黄蓋:ひかえろ周瑜(しゅうゆ)!

   汝(なんじ)ごときはせいぜい先代(せんだい)討逆(とうぎゃく)将軍、孫策(そんさく)様以来の臣(しん)ではないか! 

   国祖(こくそ)孫堅(そんけん)様以来、三代の功臣(こうしん)たるこのわしを縛れるものなら縛って

   みィ!!


周瑜:き、斬れェッ!

   彼奴(きゃつ)を斬り捨てィッ!!


諸葛亮:【つぶやくように】

    黄蓋(こうがい)は当初から決戦派だったはず…。

    それに周瑜(しゅうゆ)とは普段親しいと聞いている…。


周瑜:ええいどけッ!

   彼奴(きゃつ)を斬らねばならん!!


魯粛:お、お待ちを!

   老将軍は国の功臣(こうしん)、それに年も年です。

   なにとぞ、憐(あわ)れみを!


諸葛亮:【つぶやくように】

    なるほど…これが周瑜(しゅうゆ)の次の一手(いって)か。

    譜代(ふだい)の重臣である黄蓋(こうがい)の苦肉(くにく)の策ならば、

    曹操(そうそう)を欺(あざむ)けるやもしれぬが…。


周瑜:はぁっ…はぁっ…!!

   ッそれほどまでに言うなら一時、命は預けておく!

   だが、軍法(ぐんぽう)は正(ただ)さねばならん!

   棒叩(ぼうたた)き百回の上、陣中に謹慎(きんしん)を申しつける!!

   それッ兵ども、その老いぼれから衣装甲冑(いしょうかっちゅう)をひっぱいで棍棒(こんぼう)で打ち

   すえろッッ!!


孫権軍兵士1:は、はッ!


孫権軍兵士2:【声を落として】

       老将軍、申し訳ございませぬ…。


周瑜:打てッ、打てッ!!

   ためらう奴は同罪だぞ!!


孫権軍兵士1:1ッ!


孫権軍兵士2:2ッ!


孫権軍兵士1:3ッ!!


孫権軍兵士2:4ッ!!


黄蓋:【1~4の間でタイミングをはかって】

   う、うぐぐぐ…!!!


孫権軍兵士1:7ッ!


孫権軍兵士2:8ッ!


孫権軍兵士1:9ッ!!


孫権軍兵士2:10ッ!!


黄蓋:【7~10の間でタイミングをはかって】

    ッッぐァァァッッ!!!


ナレ:棍棒(こんぼう)を持った獄卒(ごくそつ)は、容赦(ようしゃ)なく左右から裸(はだか)に剥(む)かれた黄蓋(こうがい)の背を

   打ち据(す)えた。皮膚(ひふ)はあっという間に破れ、鮮血は流れて白髪(しらが)を

   染める。

   百近くになる頃には、打ち据(す)える兵達もへとへとになるほどであっ

   た。


孫権軍兵士1:きゅうじゅう、さんっ…!


孫権軍兵士2:きゅう、じゅう、よんっ…!


黄蓋:っ……ッ……!


孫権軍兵士1:きゅう…じゅう、はち…っ、


孫権軍兵士2:きゅうじゅうっ…きゅう…!


孫権軍兵士1:ひ、ひゃく…っ…!


孫権軍兵士2:はぁ、はぁ…はぁ…!


黄蓋:ぅ…ぐ…っ…。


周瑜:ッふん、思い知ったか…!!!


   【二拍】


魯粛:い、急いで介抱(かいほう)するのだ!


諸葛亮:【つぶやくように】

    さすがに見るに堪(た)えないものがあったが…

    そう思わせる程でなくては苦肉(くにく)の計は成功せぬ。

    さいわい…蔡仲(さいちゅう)・蔡和(さいか)の両名も見て信じたようであるし…。


   【二拍】


魯粛:諸葛亮(しょかつりょう)殿、お待ちを!


諸葛亮:どうされました、魯粛(ろしゅく)殿?


魯粛:はぁ、はぁ…っ。

   なぜ先ほどの刑罰(けいばつ)を止めて下さらなかったのですか!?

   呉(ご)の臣でない諸葛亮(しょかつりょう)殿に取り成(な)してもらえたらと…、

   それがしだけでなく、他の将達も等しく思っていたのですぞ。


諸葛亮:魯粛(ろしゅく)殿。

    敵を謀(はか)るにはまず味方からと申しましょう。

    お二人があれ程(ほど)までに必死に皆を欺(あざむ)かんとしているのです。

    それを止めるなどと、余計な事はしてはなりませんな。


魯粛:えッ、都督(ととく)と黄蓋(こうがい)殿が!?

   という事は…!


諸葛亮:ええ。

    あれは蔡仲(さいちゅう)・蔡和(さいか)、ひいてはその後ろで糸を引いている曹操(そうそう)に、

    我々が結束(けっそく)を欠(か)いていると見せる為の計…苦肉(くにく)の策でしょう。

    ですが今の私の考え、どうか周都督(しゅうととく)には黙っておいていただきた

    い。

    私に見破られるようでは、と諦(あきら)めるかもしれませぬゆえ。


魯粛:わ、分かりました。

   しかしなるほど、そういうことであったのか…!

   それにしても、なんという謀略(ぼうりゃく)の応酬(おうしゅう)だ…!

   ともあれそれがしは、それとなく諸将をなだめておくことにします。

   では…。


諸葛亮:…さて、こちらの策は整いつつあるが…まだ足りぬものがある。

    あの日までに全(すべ)ての石を盤面(ばんめん)に打ち終えられるであろうか…?


ナレ:敵を謀(はか)るにはまず、敵の知謀(ちぼう)の度合いを見定(みさだ)める。

   周瑜(しゅうゆ)らが仕掛けた苦肉(くにく)の計は、見事に蔡仲(さいちゅう)らを欺(あざむ)きおおせた。

   しかし曹操(そうそう)を討ち倒す決定的な一手にはまだ遠い。

   諸葛亮(しょかつりょう)は駆け去る魯粛(ろしゅく)の背を見ながら、次なる策に思案を巡(めぐ)らす。

   孫(そん)・劉(りゅう)連合軍と曹操(そうそう)軍の対峙(たいじ)は、いよいよ佳境(かきょう)に差し掛かろうとし

   ていた。




END【後編に続く】




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