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7.出発

「なんだよ、ミア」


みんなの視線が彼女に集まった。


「これを見て。彼のポケットに入っていた、閻魔の唯一の持ち物。恐らくアンデッドが次に狙っているクエストで、お探しのものの在り処が記されている。」


紙切れを見て、俺と同じことを考えたヤリスさんは顔を輝かせた。


「そうか!これがさっき奴らが求めてきた情報か!そいつを餌に脅しちまえば奴らも・・・・・・」


だがアリシアさんの掲げる提案に、この場の誰もが口を閉ざすこととなった。


「なに生温いこと言ってるんだ、ヤリス。私達で取りに行けばいいじゃないか、そのお探しものとやらを!」


俺も、彼女が何を言っているのかわからず、言葉を頭の中で反芻させていた。


「取りに行く・・・・・・?何言ってんだお前。今はこの人をどうするか・・・・・・」


ヤリスさんの言葉を遮り、彼女は語りだす。


「私はさっきの通話からずっと考えていたんだ。ヒイラギがアンデッドを辞めるにあたって一番の障害になるのは、やはり例のクエストに必要な情報を要求されることだってな。口頭で言えるようなことをわざわざ断る理由がないから、本物の閻魔なら情報を提供しないはずがないんだ。ヒイラギは閻魔の記憶がないからどうしてもそこで詰んでしまう。だから、あいつらより先に探しものを回収して突きつけてやれば、その辺を有耶無耶にできるだろ!」


先にアンデッドの仕事をこちらで済ませてしまえば、閻魔しか持たない情報とやらに価値はなくなる。

その上でもう一度俺がアンデッドを抜けられないか試そうというのか。


「なるほどお前の言うことにも確かに一理ある。普通に考えれば、俺達弱小パーティは平和な海岸部エリアで身を隠して追手をやり過ごす。まさか内陸部、ましてや全く関連性のないクエスト開催地になんか向かうはずがない。奴らの虚を突きつつ攻めの一手を繰り出し目的を達成する完璧な作戦だ。・・・なんて言うと思うか!?」


ヤリスさんは途中まで賛同すると見せかけて、全面的に反発した。


「ただでさえこれから最強パーティに追われるってのに、そこで逃げながら最強パーティにしかできない最強クエストに首突っ込もうってのか!?」

「そうだ!」

「できるわけねぇ!そんなこと!」

「そんなもの、やってみなきゃわからないじゃないか!」


"最強クエスト"という言い方の通り、この紙切れがヒントとなるクエストは最強パーティが担当する仕事だ。

死の鬼ごっこと同時並行で簡単に片付けられる事案ではないだろう。


「それに、たった一回のクエストだぞ!?それで成果を挙げたからって、そんなんであいつらがこの人を諦めてくれるわけねぇだろ!」


ここで俺達が処理するのは、あくまでも本物の閻魔が断る可能性の低い今回の仕事だけ。

このクエストで無事に目的の物を回収できたとしても、アンデッドにとって閻魔を手放すことが100%なデメリットであることに変わりはない。


「そこはまあ、ヒイラギに交渉を頑張ってもらうってことで・・・・・・」


それに関しては策はないらしい。

アリシアさんはこちらに笑みを向けると、親指を立ててきた。


「わかりました・・・精一杯やります」


正直先程の通話を踏まえて、アンデッドとのまともな対話などできるとは思えない。

だが俺が渦中の人物である以上、断るという選択肢はない。


「ミア、お前もそのつもりなのか?」


ヤリスさんとアリシアさんの口論を清聴していたフランクさんは、彼女にも意見を尋ねた。


「いえ・・・私はその紙片の示す場所に行けば閻魔の記憶と魔法を取り戻す手がかりを得られるかもしれないと思ったのだけれど・・・・・・」


閻魔が自身を失う前に訪れた場所だ。確かに閻魔を元に戻せる可能性があるのなら、向かう価値は大いにあると言っていい。

アリシアさんの案と比較してマイルドだし、一番助かる可能性の高そうなアイデアだ。


「ミア、その紙もらえるか?」


彼女が言われたとおりにフランクさんに渡すと、まだ見てない全員が紙切れを覗き込む。

そこに書いてあるスケッチと数字の意味を読み取ったのか、ヤリスさんが顔を青ざめた。


「おいおい。35番の山って言ったら・・・・・・」

「ラグジャラス山か。」

「その山・・・活火山とかだったりするんですか?」


俺は皆の顔色の悪さが気になって質問した。


「いや、この山自体は普通なんだが・・・わかっていたがそこは内陸地方なんだ。このメンツで行くにはまあキツいな。」

「まあ奴らが担当しているクエストだから当然といえば当然だな!」


アリシアさんは内陸部と聞いて嬉しそうだ。

あれだけ行きたいと言っていたエリアなのだから当然か。

フランクさんはスズラン全体に指示を飛ばした。


「もうじき日付けが変わる。もう少し話し合いを続けたいところだが、あまりここに留まっても逃げ遅れるだけだ。当面の目的はミアの言った閻魔の記憶と魔法の復活。ラグジャラス山にたどり着くまでは取り敢えず連中から逃げることにする。」


そして、俺も役割を与えられた。


「ヒイラギ。お前はなんとか魔力を出せるようになって閻魔の魔法を使えるように努力してくれ。」

「はい」


アンデッドの兵隊がどれくらいの速度でこちらに向かってきているかわからない。

もしかすると、4時間という猶予は決して余裕のあるものとは言えないかもしれない。


「5分後に出発だ。各員準備しろ」


皆は返事をすると荷物をまとめにかかった。


「あんたは?って、ここ来たばっかだから荷物なんかあるわけ無いか。」


ナイフと着替え、最低限の食料だけをカバンに詰め込んで真っ先に準備を済ませたヤリスさんが俺の元にやって来た。

その鞄の小ささを見る限り、どうやらミニマリストのようだ。


「本当に・・・いいんですか?」

「何をだよ?」

「皆さんをこんなトラブルに巻き込んでしまって・・・結局助けてもらって・・・・・・」


少なくとも今の状況は、俺が予想していた中でも最悪のものだ。

俺は名声だけが強キャラで実際は何の役に立たないばかりか、スズラン全員の命を危険に晒すこととなった。


「さっきも言ったが、あんたを見捨てれば俺達が助かるってわけでもない。それにこの事件は完全にアンデッドの暴走が引き起こしたものだ。例え死ぬことになってもあんたを恨むことなんてねぇよ。今回に関しては、俺達は一蓮托生だな」


手の震えは隠せていなかったが、ヤリスさんは俺に励ましの言葉をかけてくれた。


「改めて自己紹介。俺はヤリス・カイザーだ。何か困ったことがあったらすぐ言えよ、ヒイラギ・レイジ!」


ヤリスさんは俺を名前で呼ぶと、背中を軽く叩いた。


~キャラ紹介~


〇柊レイジ

本作主人公。前世で死んだら『閻魔』というチートキャラに転生した。黒髪に赤目の少年。引っ込み思案で臆病。自意識過剰すぎて五感が鋭い。自由が好き。人生に絶望している。


●海岸部ギルド冒険者パーティー1381番『スズラン』

〇アリシア・ワルツ

本作メインヒロイン。猟銃を背負った赤髪の少女。好奇心旺盛。破天荒で遠慮のない言動。自由人。イタズラ好き。好戦的。


〇フランク・バースタイン

鋼鉄の盾で武装する大男。常識人。『スズラン』の隊長。


〇ヤリス・カイザー

長剣で武装する少年。ビビりの常識人。


〇ミア・クラウゼ

杖を大量に持つ少女。寡黙でマイペース。

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