34.酒の席
ミアさんがアリシアさんの失礼な質問に答えると、フランクさんが忠告を挟んだ。
「ミア。ああいう捨て身に近いような行動は今後ナシだ。仕事は大事だが、リーダーとして、無闇にメンバーを危険に晒すことは出来ない。」
「ん、気をつける。」
素直だがどこか軽く返答するミアさん。
正直、スズランの中で一番腹の底が読めない人だ。
この酒場の席で本音を聞けたりするのだろうか・・・?
「ヤリス、全然飲んでないじゃないか!君は何しに来たんだ!」
俺がミアさんの酒癖に興味を抱いていると、アリシアさんが台パンし始める。
「お前が飲み過ぎなんだよ!若いうちからこんな飲んでたら病気になるぞ!大体、そんなこと言ったらミアだって酒飲んでないし──」
「私、少食だから」
アリシアさんの矛先から身を守るように、ミアさんが手を軽く上げる。
矛先を逸らせなかったヤリスさんは真っ向から反論する。
「ともかく、こうしている間もお前の胃腸はアルコールで焼け爛れ、肝臓はドス黒く変色してんだぞ」
「はいはい。男なら、そんな理屈並べてないでフランクを見習ったらどうだ?」
フランクさんはさっきから次々に運ばれてくるビールを水のようにゴクゴク飲んでいる。
美味しそうな表情を浮かべているが、あの量の液体は体のどこに流れ込んでいるんだ?
「ヒイラギはどうだ?」
ヤリスさんに突如意見を求められ、俺は少しドキッとした。
「えっ俺はまあ味を嗜む程度でいいかなと・・・」
俺は人生で一度も人前で酔ったことはない。
ただ単に、酔った自分が何をしでかすかわからないので、酔わない程度の量に済ませているだけなんだけど。
ほらな、と賛同を得られたことで胸を張るヤリスさん。
「ふん。揃いも揃ってチェリー共め。大体、なんだそれは。」
アリシアさんは俺の飲み物を指差した。
「ライチオレンジです。」
「何?オレンジジュース?これでも飲んどくといい」
理不尽な聞き間違いと共にこちらへ突き出されたのは、本人が口にしていた赤ワインのグラス。
赤ワインといえばどうしても味が苦手だし、何より度数が高めだ。
「やめとけって。ヒイラギ嫌がってるだろ」
「嫌よ嫌よも好きのうちって言うだろ?」
アリシアさんは邪悪な笑みを浮かべる。
出来れば飲みたくないけど、断ったらアリシアさん怒りそうだし、ここは我慢するか。
「わっわかりました・・・・・・」
「そこまでだアリシア。飲酒の道楽を説くのも口だけにしておけ」
「ちぇ。わかったよ。」
強硬手段に出たところでフランクさんからストップがかかると、アリシアさんは大人しく手を引いた。
その後はスズランの過去の出来事が話題に上がったが、どれも俺が割って入れるような話ではなかった。
しばらくその流れが続くと、少し焦りが出てくるものだ。
こういう場で積極的に交流を深めないと、後々人間関係に置いていかれてしまう。
何か話をしなければ。人の本音が出るというこの酒の席で。
いくつか話題を頭の中に浮かべたが、どうしても口に出す勇気が出ない。
みんな楽しそうに飲んで食べて喋っているのに、その流れを壊すわけにはいかない。
「ヒイラギ、何か言いたいことないか?」
俺が心の内で焦っていると、ヤリスさんがこちらに会話を投げてくれた。
俺はヤリスさんの優しさに感謝しながら、気になっていたことを話に出してみた。
「あの、誘拐された女の子を助けたクエストの話なんですけど・・・アリシアさんの態度、ちょっといつもと違うなって感じました」
「ん?そうか?」
俺に言われて疑問符を頭に浮かべるアリシアさん。
あの時、彼女はやけに被害者には優しく、犯人グループには容赦のない厳しい対応を取っていた。
何か特別な感情があったのかと気になっていたのだ。
「まあ、お前人身売買には厳しいもんな」
「弟が昔被害に遭ったからな」
「えっ大丈夫だったんですか?」
その理由となる話は、アリシアさんの家族が人身売買に巻き込まれたというものだった。
「助けるの大変だったぞ?あの時、初めてこの世の闇って奴を目の当たりにしたよ」
アリシアさんはテーブルの上で腕を組むと、そこに伏せるように体を預けた。
「そうだ。気になったといえば、ヒイラギ。私が奴らの生き残りを始末しようとした時に、君は止めに入ってきたな。そこまではよくある甘ちゃんの衝動だと思ってたんだが、問題はその後だ。君は自らの手であいつを殺そうとしただろ?怖くなかったのか?正義の下と称して振るう暴力が。」
「それは・・・・・・」
「感情が暴発して誰かを殺す時、人は快楽を感じるものだ。だが、自分の体験とは直接関係のない社会正義のために執行する殺人は違う。」
アリシアさんの言いたいことはわかる。
俺が前世で処刑された時も、執行官の心理的負担を減らすための工夫は凝らされていた。
理屈で人を傷つけるというのは、それだけ罪悪感や生理的嫌悪感を自分の心に刻むもの。
ましてやそれが殺人となれば、トラウマになってもおかしくない。




