30.人命救助
皆が武器の準備を整えている間、小屋の中から怒声のような話し声が聞こえてきた。
「クソ!なんで太客と連絡つかねえんだよ!」
「在庫は溜まっていく一方だぞ!今月のアガリも厳しいってのに!」
会話の内容が気になったが、じっくり聞いている時間はない。
全員の臨戦態勢が整うと、フランクさんは入口の扉を蹴破った。
「何だ!?」
突然のことに驚く男たち。
奥にはボーリングの玉ほどの大きさのキューブが積み上げられていた。
アリシアさんの言っていた13個のキューブとは、これらのことだったのか。
まさか、誘拐した人間を圧縮魔法でキューブ化したのか。
確かに拘束、運搬、品質維持するために効率の良い方法だが、こんなおぞましい使い方があるなんて。
「全員動くな。今からそのキューブの中身を確認する」
「いやなに。怪しい荷物じゃないかどうか確かめるだけさ。そう身構えなくてもいい」
フランクさんとアリシアさんが遠回しに用を伝えるが、その目は全く友好的なものではなかった。
すぐに降伏してくれると思っていた俺だったが、男達はこの人達の戦闘力を知らないのだから無理もない。
「冒険者か!やったぜ!大金が自分から歩いてきやがった!」
「女もいるぜ!」
下品な笑みと共に武器を手に取ると、一目散に突っ込んできた。
やはり発している言葉からして、こいつらは人身売買組織。
肉体が資本の冒険者は高く売れるのだろう。
「親にも聞かせられない悲しい遺言だな」
それだけ言うと、アリシアさんの手から魔弾が炸裂した。
戦力差は思った以上にあったらしく、2人とも誘拐犯達の攻撃をかすりもせず、一方的に制圧していった。
魔法という魔法も武器もほとんど使われず、ただ指先から放たれる魔弾の攻撃だけで行われる殺戮劇。
俺を含めた他の3人の出番はなく、ただ呆然と見ていることしか出来なかった。
やがて閉所内での悲鳴も戦闘音も止むと、辺りにはいくつもの骸が転がった。
フランクさんの指示により、ヤリスさんとミアさんの二人は小屋の外で周辺の警戒に当たり、俺とフランクさんとアリシアさんで人質の救出を行った。
「被害者・・・と思われるのはこれで全部のようだな」
積み上げられたキューブの表面には何やら文字が記されており、目を凝らすと冒険者と読み取れた。
まさか売り物として捕まったのか?
素人の俺から見ても、ここにいたならず者達はそんなに強敵だとは感じなかった。
並の冒険者が敗北するとは思えない。
他にも表面に冒険者と書いてあるキューブは2つあった。
「事情を聞く必要があるな。」
俺と同じことを思ったのか、フランクさんからも賛同を得られたことで3つのキューブを解凍すると、中からは男女3人が現れた。
彼らは自分たちが解放されたことに気が付くと、パニックに陥った。
「うわああ!やめて!助けて!」
「落ち着け!私達はスズラン!冒険者だ!君達を助けに来た!」
「冒険者・・・・・・?」
怯える女冒険者をアリシアさんが安心させる。
「そうだ。ここは人身売買組織のアジト。壊滅しに来たところで、出荷されそうになってたお前達を偶然発見した」
床に倒れ伏しているならず者達を見て、胸を撫で下ろす冒険者。
装備は既に売られてしまったのか、武器や小道具などは何も所持していないようだ。
「ありがとうございます!何とお礼すればいいか!」
「代わりと言ってはなんだが、他にキューブにされた人質を街まで一緒に運んでくれるか?人手が足りないんだ。それと、何故捕まったのか聞かせてもらえるか?」
フランクさんに頼まれると、捕まっていた男冒険者が口を開いた。
「俺達は元々、とあるご婦人から依頼を受けていたんです。行方不明になった娘を探してほしいって」
彼の話は、俺達がコスメールさんから聞いたものと同じだ。
「その婦人ってのは、コスメールさんか?」
「そう、その人です!」
つまり衛兵の紹介で依頼料を貰って姿をくらました冒険者とは彼らのこと。
持ち逃げではなく、ならず者に捕まっていたのか。
すると男冒険者は、何かを思い出したようにハッとした。
「今日、何日ですか?」
「そうだった。君達は時間が飛んでるんだったな。今は4月15日、午前2時半。娘さんが失踪してから4日だ」
「なるほど・・・ではあれから3日経っていたんですね。」
「あれとは?」
3日前というと、失踪から1日目が経った頃だ。
そこで何か不測の事態が起きてこの人達が捕まることとなったのだろうか。
フランクさんが問うと、捕まっていた冒険者は辿々しく説明した。
「あの日、ご婦人から依頼を受けた俺達は犯人の尻尾を掴んでアジトの位置を聞き出そうとしていたんです。」
「そうしたら背後から男が現れたんです。何人か手下を連れて。」
場面は想像に難しくない。
俺達が取った行動と大体同じだからな。
それから彼等は、新手のならず者と一戦交えることになったそうだ。




