24.トルシシVSヤリス
「すげぇよな、ウチのリーダー」
ヤリスさんは俺に向けて呟く。
盾を用いた豪快な力技と、魔銃の魔法を使った小回りの効く射撃。
内心驚愕していると、フランクさんは俺達に向き直った。
「一人一頭だ。この魔物は突進の一撃に全力をかけるから、躱せば大きな隙が出来る。これなら仕留めやすいだろう」
俺とヤリスさんの前に残ったトルシシが2頭。
そこで俺は先程のフランクさんの言葉の意味を知った。
トルシシが6頭もいると対処に困るものかと思っていたが、俺達が戦うにあたって数が多いという意味だったのか。
「ってちょっと待てよ!俺もやるのか?ヒイラギの訓練なんだろ?」
「お前だって、正面戦闘でB級やC級を相手に100%勝てると言い切れるのか?」
「うっ・・・まあそうだけど・・・俺は元々前衛としてこのパーティーに入ったわけじゃないぞ」
「ならラグジャラス山と同じように、他のメンバーが手一杯の時は命乞いのセリフでも考えるか?看取り人が魔物の群れなんて最期、俺は悲しいと思うがな」
「わ、わかったよ!やればいいんだろ!?」
ヤリスさんはフランクさんと言葉を交わすと、トルシシのうちの一頭に向かって剣を構えた。
どうやらヤリスさんも俺と同じく戦闘経験が足りないと評価され、戦うことになったようだ。
トルシシが先に動いたのは、俺ではなくヤリスさんの方だった。
「ハアアッ!!」
ヤリスさんはトルシシの突進を躱すと同時に距離を潰し、トルシシが体勢を立て直す前に剣を振り下ろした。
これがただの剣撃なら、分厚い筋肉や脂肪に阻まれ致命打にはなり得なかっただろう。
だが、ここは異世界。
強化魔法を使っていたヤリスさんの強烈な刃は、トルシシの腹を深々と裂いた。
トドメの魔弾を頭に撃ち込むと、トルシシは二度と動かなくなった。
ヤリスさんを見てばかりでなく、俺も戦わなくてはならない。
俺は最後の一頭に向き直った。
さっき攻撃を受けた感じでは、魔物の動きが全く目で追えないわけじゃないし、ちゃんと防御すればダメージは最小限に抑えられる。
頑張れば俺でも倒せるかもしれない、という自信は湧いてくる。
とはいえ、獣との命のやり取りなんて怖いに決まっている。
実際、剣を握る手は汗だくだし、震えていた。
でも、これも俺が冒険者として生きていくために必要な過程なんだ。
「念の為言っておくが、ヒイラギ。お前のポテンシャルを考慮した上での訓練だ。油断したら大怪我を負う危険があるってことを理解してくれ」
俺のポテンシャル?何の話だろうか。
俺に閻魔としてのチート能力がないことは、フランクさんもよくわかっているはずだ。
だがそんなことをフランクさんに問う間もなく、トルシシは突撃してきた。
体重は軽そうだが、やはり危険なスピードだ。
防御や回避を間違えれば、肋骨が折れるだとか、そんなレベル。
これでC級なのか。
俺ならA級でも大丈夫だとか言っていたアリシアさんの神経がよくわからない。
俺が必死で横っ跳びをすると、トルシシは土煙を上げながら着地した。
攻撃に転じた俺は、まず剣ではなく杖を構えた。
今回は身体強化の魔法を試したいので、もちろん剣を使った斬撃をメインとしたい。
一応相手の動きを止めるために魔法を使う。
フランクさんのアドバイスで杖に入れた魔法の1つ。
俺は電撃の魔法を杖から放電した。
電流を浴びたトルシシは僅かにその身を硬直させたが、大きな隙を生むには至らなかった。
「止まらないっ・・・・・・!」
全然ダメだ。
やっぱり俺なんかの魔力量では魔物の足を止める事すら難しい。
ゼロ距離で電流を流し込めばまだ効果は見込めるかもしれないが、それは実用的じゃない。
俺は杖での攻撃を諦め、両手で剣の柄を握った。
「出来るか?ヒイラギ」
「かっ、勝ちます!」
威勢よく答えたはいいものの、俺にヤリスさんと同じようなことが出来るのか?
トルシシの次の突撃を躱した俺は、相手が着地したのを視認してから距離を潰しにかかった。
だが、トルシシが体勢を立て直す方が早く、状況は再度イーブンに戻る。
「それじゃ遅い!躱したと同時に相手の動きを読んで突っ込め!」
フランクさんのアドバイスを受け、改めて気を引き締めようとしたが、俺はあまり戦闘に集中できていなかった。
というのも、さっきから腰にぶら下がる剣の鞘が気を散らしてくるし、フランクさんに見られていると思うとプレッシャーがかかっていたからだ。
せっかく期待されているのだ。
ここで失敗して無様に大怪我でも負えば、俺は使えないと判断されてしまうかもしれない。
そう思うと、トルシシに敵意を向けられるよりも遥かに緊張した。




