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5.閻魔の魔法

「どうすんだよ。このままだと俺ら・・・皆殺しだぞ。」


最初に口を開いたのは、ヤリスさんだった。消え入りそうな小さな声でポツリと漏らす。


「ヤベェな。普通にヤベェわこれ」


それまで一貫して冷静だったフランクさんも、ここに来て焦り始める。

その中で一番平静を保っていたのはアリシアさんだった。


「なあ、とりあえず魔術回路見せてみろ!」

「魔術回路・・・ですか?」


アリシアさんは俺に近づいてくると、なぜか服を脱がそうとしてきた。


「ほら、皮膚に刻んであるこんな模様だ!」


アリシアさんが自身の袖をめくってみせると、腕には刺青のような模様が刻まれていた。

それは先ほどフランクさんが着替えをした時に肩にあったものと似通ったものだった。


「こういう模様は魔法を使う奴なら誰もが持ってる!この回路に魔力を込めることで初めて魔法ってのは発動するからな」


つまり今の俺の体に刻まれている魔術回路を解析すれば、閻魔の持つ魔法について情報を得られるかもしれないということか。

魔術回路という言葉を聞いて彼女と同じことを思いついたのか、ヤリスさんも俺の元にやってきた。


「そういえばそうだ!閻魔の記憶を失くしたとか言ってたけど、その肉体自体にはまだかつての魔術回路が残っているはず!今すぐ服を脱ぐんだ!」

「そうだ!脱げ!」

「ああっちょっと!」


俺は二人に前後から服を強く引っ張られて倒れそうになった。

アリシアさんはともかく、ヤリスさんは恐怖で錯乱しているようだ。

結局俺は碌に抵抗できないまま、パンツ一丁にひん剝かれてしまった。


「ない!何もないぞ!何でだ!?」


俺の周りを何周も回って隅々まで調べ上げたヤリスさんが悲鳴に近い叫びを上げる。

結果は語るまでもない。

俺も手足、腹、胸など目が届く範囲で自分の体を見回してみたが、魔術回路らしきものは何も刻まれていなかったのだ。

俺の転生と同時に消えてしまったのか、それとも元から存在しなかったのか。


「それにしても細いな君。ちゃんと飯食ってるのか?」

「俺に言われましても・・・・・・」


この際はどうでもいいことだが、確かにアリシアさんの言う通り閻魔の体は拒食症寸前と言えるほど痩せ細っていた。

俺は山の中で彼女に見つかって追いかけられた時のことを思い出す。

どうりでこんな体じゃ碌に走れないわけだ。


「ふむ。探るべきところがあるとすればあとは・・・・・・」


ふと、アリシアさんの視線が下に落ちた。

俺は彼女の意図をすぐに掴み、一歩後ろに下がった。


「えっ・・・あの、嘘ですよね」


俺がまだ身にまとっている衣服はたった一つだ。


「大丈夫だヒイラギ。君は転生したてで知らないだろうが、この世界じゃ一日一回下半身を露出すると金運が高まるって言い伝えがあるんだぞ」


全く信用できない発言とともに彼女の手がこちらに伸びてくる。

公衆の面前で素っ裸など、たとえ金運が高まっても俺の命運は地の底だ。

緊急事態とはいえ、流石にそこまでするのは・・・・・・

その時、俺を見かねたフランクさんから救いの手が差し伸べられた。


「もういいだろうお前ら。魔法使いの中には、魔術回路を他人に見られたくないと考えて体内に仕込む奴もいる。その場合俺達が調べるのは不可能だ」


閻魔が筋肉や内臓や骨といった外部からでは見えない箇所に魔術回路を形成しているという可能性を指摘し、2人の暴走を止める。


「ヒイラギ、お前は魔力が出せないのか?」

「はい」


そもそも魔法という概念をついさっき知ったばかりでいきなり力を振るえるはずもない。

俺は床に捨てられた衣服を拾って身に着けていった。


「なるほどな。少なくとも今の時点でお前が閻魔の能力を引き出せることはない。こうなりゃどうにかして奴らの追跡を逃れるしかないな」

「戦うって選択肢は?」


アリシアさんは望むところだと言わんばかりに威勢よく拳を鳴らす。


「アホか。向こうは30。人数だけでもこっちの6倍だ」

「フンッ」


6倍ということは、俺も頭数に含まれているということか。

俺は首を横に振った。

ダメだ。そんな下らないことを考えている場合じゃない。

このままだと俺達はアンデッドなどという犯罪集団に捕まって最悪全員殺される。

また死ぬ。

なんで?

なんで俺の人生ってこんなことばかりなんだ?

異世界転生って最強キャラに生まれ変わるって聞いていたから楽しい人生が待っていると思っていたのに、こんなに嫌な事が起こるものなのか?

俺の頭によぎる一つの案。

そうだ。今ここで死ねば、また別の世界に転生できるんじゃないのか?

少なくとも今の状況よりはまだマシになるかもしれない。


「ヒイラギ?」


何か自分の首を切れそうなものはないかと近くの鞄を漁っていると、アリシアさんに名前を呼ばれて我に返った。


「何か探しものか?私も手伝うぞ」


俺に助け舟を出してくれる純粋な目に、その考えを否定される。

駄目だ。俺がここで自決なんかしてしまったら、この人たちに殺されたと思われてしまう。

その後に訪れるアンデッドからスズランへの報復は、想像したくもない。

俺は鞄から手を引き抜いた。

死んで逃げることは許されない。


〇柊レイジ

本作主人公。前世で死んだら『閻魔』というチートキャラに転生した。黒髪に赤目の少年。引っ込み思案で臆病。自意識過剰すぎて五感が鋭い。自由が好き。人生に絶望している。


●海岸部ギルド冒険者パーティー1381番『スズラン』

〇アリシア・ワルツ

猟銃を背負った赤髪の少女。好奇心旺盛。破天荒で遠慮のない言動。自由人。イタズラ好き。好戦的。


〇フランク・バースタイン

鋼鉄の盾で武装する大男。常識人。『スズラン』の隊長。


〇ヤリス・カイザー

長剣で武装する少年。ビビりの常識人。


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