表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/164

4.決裂

「既に耳に入れてると思いますが、明け方4時にナタリアとオスカーの2名がそっちに迎えに上がりますんでね!その後は副隊長が専任してた仕事が未遂のままなので、そっちを片付けさしていただきます。終わったら皆で祝勝しましょう!新しく入った上物の酒もあるんで楽しみにしてて下さい!副隊長の帰還を一同心待ちにしてますよ!」


俺が返事をする間もなく、トントン拍子に話が進んでいく。

本題をいつ切り出そうかと躊躇っていると、男の口から身の毛もよだつ話が飛び出した。


「あ、そうだ!その仕事についてなんですが、副隊長は『箱』の所在地と解除方法をご存じでしたよね?今ここで教えていただければクエストを我々だけで済ませられると思うので、副隊長は同行してもらう必要なく直接本部に送迎できるんですが」

「・・・・・・」


状況を理解し、背筋が凍える。

『箱』の所在地と解除方法とか言ったか。

異世界転生が起きた時、『閻魔』は『アンデッド』に必要な何らかの重要な情報を持っていたらしい。

そんなもの、当然俺なんかが知っているはずもない。


「もしもし?副隊長?」


俺が返答できずにできてしまった空白でも、男は陽気に返してくる。

何か言わなければと口を開けたが、声は出てこなかった。

『閻魔』の本当の口調なんかわからない。

一人称は?

自分のことを俺と呼ぶのか?私と呼ぶのか?

冷酷な性格をしていることは推測できるが、それと態度は別だ。

もしかしたら部下に対しては敬語で接しているのかもしれない。

次第に開いた口がカラカラに乾いてくる。

返答を間違えれば、俺はもちろん俺を助けてくれたこの人たちもただじゃ済まない。

だが黙っていても何も始まらないことも確かだ。


「そのクエストの達成には、どうしても俺の情報が必要なのか?」


俺は、なんとか声を絞り出して返答した。

オラ付いた口調であると仮定して。


「ええ!そうです!副隊長と連絡が取れない間、なんとか俺達だけでもクエストを進められないかなと思ってですね。横取りを企んでた山賊がいたんで吐かせようとしたんですけど、誰も口割らないまま死んじまったんですよ!副隊長以外は誰も情報を掴んでないとのことなのでなかなか手詰まりで・・・・・・。お疲れのところ仕事に付き合ってもらうのもどうかと思うんで、こちらで全部済ませておこうかなと思うんですが」


アリシアさんの言った通り。

例え俺に『閻魔』の持つ力が備わっていたとしても、こんな平気で人の命を踏みにじるような奴らと上手くやっていくことはできない。


「・・・悪いがボルガン、俺はお前の期待には答えられそうにない」


そう告げると、向こうからの言葉が止まる。

このタイミングしかないと踏んだ俺は、話を切り出すことにした。


「なぁ・・・俺・・・・・・。『アンデッド』、抜けようと思うんだ。」


『スズラン』の誰もが口に出すことはなかったが、空気が一気に重くなるのがわかった。


「・・・はい?」


魔法陣の向こうから、間の抜けた返事が返ってきた。

周囲から痛いほどの視線を感じる。

一言たりとも、失言は許されない。


「俺、もう疲れたんだよ。元々は最強パーティで仕事をしたいって憧れで『アンデッド』に入ったんだが、実際にやることと言ったら人を傷つけることばかり。そういうのはもうウンザリでな。一応こんな俺を拾ってくれた義理として今まで仕事はしてきたが、もう十分果たせたと判断した。だから、今後は好きにさせてもらおうと思う。」


声だけで良かった。

ビデオ通話みたいに顔まで通信してたら、偽物だって確実にバレていた。

それほどまでに、冷や汗と震えで顔がひどく歪んでしまっていることだろう。

数秒ほど待ってみたが、男からの返事は来ない。

俺の言い分に納得してくれたのだろうか。


「もちろん、お前らの都合も──」


続けて言葉を畳みかけようとした矢先だった。


「おい。」


凍るような、ドスの聞いた声で俺は黙らせられた。


「誰か、副隊長に洗脳の魔法をかけた奴がいるな。」


男の放った言葉の意味が、俺はすぐには理解できなかった。

時間をかけて頭が状況を飲み込んだ時、魔法陣の向こう側の計り知れない敵意が、俺ではなく『スズラン』のメンバーに向けられているのだと知った。


「い、いや!!そんな事実はない!うちにそんな高度な魔法を持ったメンバーはいない!」


思ってもみなかった矛先に驚きつつもフランクさんが弁明すると、男は高らかに笑った。


「そりゃま、うちの最高クラスの戦力持ったメンバーが単独行動してりゃ、魔が差すのも仕方ないことだわな。大方俺らから副隊長を引き離して、ほとぼりが冷めた頃にこっそり我が物にしてやろうって算段だったんだろ?やっぱりそうか。副隊長が独断で作戦行動を外れるなんて、あるはずないもんな。」


男の立てた仮説。

それは、『スズラン』の人たちが『アンデッド』から『閻魔』という人的資源を盗もうとしているということ。


「違う!話を聞いてくれボルガン!」


フランクさんは誤解を解こうと訴えかけたが、男は端から信じるつもりなどないらしい。


「よく聞けゴミ共。一度きりのチャンスだ。うちのモンをお前らのもとに2人向かわせている。そいつらが来るまでに副隊長を元に戻せ。もし引き渡しがなかった場合、そいつらに『スズラン』殲滅命令を下す。」


通話は一方的に切れると、辺りに重い静寂が訪れた。


~キャラ紹介~


〇柊レイジ

本作主人公。前世で死んだら『閻魔』というチートキャラに転生した。黒髪に赤目の少年。引っ込み思案で臆病。自意識過剰すぎて五感が鋭い。自由が好き。


●海岸部ギルド冒険者パーティー1381番『スズラン』

〇アリシア・ワルツ

猟銃を背負った赤髪の少女。好奇心旺盛。破天荒で遠慮のない言動。自由人。イタズラ好き。


〇フランク・バースタイン

鋼鉄の盾で武装する大男。常識人。『スズラン』の隊長。


〇ヤリス・カイザー

長剣で武装する少年。ビビりの常識人。


〇ミア・クラウゼ

杖を大量に持つ少女。寡黙でマイペース。


●内陸部ギルド冒険者パーティー0001番『アンデッド』

○ボルガン

『城壁のボルガン』の異名を持つ、アンデッドの幹部。『閻魔』を慕っている。


○オスカー

ヘビースモーカー。若手のメンバー。優秀だがパーティーに対する忠義はない。


○ナタリア

数少ない女性の若手のメンバー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ