47.アンデッド襲来
「ああよかった!生きてたか!」
鷹の背中から降りて元の広場に足をつけると、ヤリスさんがこちらに駆け寄ってきた。
周りを見回したが、魔物は一匹も残っていない。
作戦は上手く行ったようだ。
「ヤリスさん・・・怪我は大丈夫なんですか?」
俺の前に立ったその体は、魔物の攻撃を受け傷だらけになっていた。
「まあかすり傷だからな・・・ってお前の方がヤバいだろ」
そう返されると同時に誰かに手首を掴まれたかと思うと、ミアさんが治癒魔法で左腕の裂傷を治してくれていた。
「手、握って」
「あ、はい」
俺は言われたとおりに指を曲げて拳を作った。
「神経や腱に損傷はなさそうね」
「ありがとうございます。何から何まで」
さっき鷹の使い魔で命を救ってくれたことも兼ねてお礼を述べると、彼女は呆れたような目を向けてきた。
「無茶したわね」
「それは・・・ミアさんならなんとかしてくれるかなって思ったので・・・・・・」
あの場で俺を助けてくれそうな人が彼女しかいなかったのだ。
「後は任せます、じゃわからないわよ」
「ごめんなさい。冷静じゃなかったです・・・・・・」
俺は飛び降りる寸前、ミアさんに作戦内容を伝えサポートをお願いしたつもりになっていた。
この人が俺の意図を汲み取ってくれなかったらどうなっていたか。
想像するだけで膝が震える。
「ありがとう!助かったぞヒイラギ!」
ミアさんと話していると、突如アリシアさんが俺に飛びつきハグしてきた。
腕を背中に回して強い力で締め付けてくるので、割と痛い。
「いっいえ・・・。あの・・・箱は・・・?」
気になるのはクエストに挑戦した結果だ。
「こんなものが入っていたぞ。なんだろうなこれ」
アリシアさんは指で摘んだネックレスを俺の前で振ってみせた。
細い金色の鎖には、何やら赤色の宝石が嵌られていた。
広場の中央を見ると、宝箱は開いていた。
それが意味することはつまり・・・・・・
「クエスト、達成したんですね」
「ああ!やればできるもんだろう?」
「ヒイラギがいなかったら俺ら完全に死んでたけどな」
正直、本当にクエストをクリアできるとは思わなかった。
宝箱の中は既に空になっており、入っていたのはアリシアさんの持つネックレスが一つだけだったのか。
何故こんなものが厳重に保管されていたのか。
このネックレスは一体何なのか。
真相を俺達が知る必要はないのかも知れない。
「しかしまあやるなお前。飛び降りなんてイカれてる」
フランクさんが崖下を覗き込んだ。
「俺も・・・そう思います」
「一応思うのか」
山の頂上からほとんど地上まで垂直に切り立った崖はとてつもなく高い。
はるか下に魔物によって築き上げられているはずの死体の山すらも霧に遮られて見えない。
改めて見下ろして思う。
どうしてさっき自分が飛び降りられたのか、よくわからない。
つい数分前まで広がっていた地獄の光景。
皆を魔物の大群から逃がすためには、俺が血の匂いで奴らを誘き寄せ囮になる必要があった。
その場合困るのは、集まってきた魔物の大群を捌ききれず、俺が命を落としてしまうこと。
でも崖からの飛び降りなら、魔物を皆から遠ざけつつ俺も死なずに済む。
魔法もロクに使えない俺にできることなんて、こんなリスクを取ることくらいだった。
「もう一回やってくれヒイラギ!今度は私も一緒にやりたい!」
「もう一回・・・・・・?」
アリシアさんは俺の所業を自分も体験したいと言い出し目を輝かせる。
これは断じて遊園地のアトラクションなどではない。
そんなノリで迫られても困る。
「お前一人でやればいいだろ。母なる大地と強烈に接吻したいならな。なあミア」
「言っておくけれど助けないわよ」
好奇心に駆られて危険行動を取ろうとするアリシアさんに、ヤリスさんもミアさんも辛辣な姿勢を見せる。
そんな俺達を現実に引き戻したのは、フランクさんだった。
「ひとまず助かったが、安心するのは後だ。アリシア。奴らはどうだ?」
俺はハッとさせられた。
そう言えば、まだ戦いは終わっていないんだった。
本当の問題はここからだ。
一番厄介な連中が俺達を追ってこの山に迫っているんだった。
「私に聞くな。もう完全に魔力が尽きて魔法は使えないんだ。ただ・・・・・・」
アリシアさんは俺の顔を横目で見た。
「お出ましのようだな、ヒイラギ」
俺の表情から察した彼女は少し口角を上げた。
聞こえる。
巨大な何かが凄いスピードで接近してくる風切り音。
その速さからして、恐らく空を飛んでいる。
でもこちらからは姿が見えない。
地を這うような低空飛行で迫ってきているのか。
同事に大きくなる、嫌な気配。
「ヒイラギ、コート着とけ」
腕からの出血で血だらけの上、今の俺は全身の服がズタボロだ。
これでは最強パーティーのナンバー2の格好には見えないだろう。
俺はフランクさんから自分のコートを受け取ると、シャツをしっかり隠すように着込んだ。
「逃げる選択肢は・・・あるわけないよな」
俺を含めたほぼ全員の魔力が底をつき、最強パーティに目と鼻の先まで距離を詰められた状況にヤリスさんも諦めがつく。
そうして、連中は姿を現した。
俺達の前に姿を見せたのは、複数のドラゴンだった。
どれも家一軒ほどの大きさはあり、両翼を羽ばたかせるだけで猛烈な土煙が俺達を襲う。
ドラゴン達が轟音を立てて広場に着地すると、フランクさんがぽつりと呟いた。
「β-ペント・・・・・・」
そう呼ばれたドラゴンの背中から降りたのは、黒のロングコートを羽織ったスーツ姿の男達。
服装が同じということは、俺がかつて実際にこいつらの仲間だったのは事実だろう。
俺はこの世界で自分が閻魔に転生したのだという現実を改めて受け止める。
スズランの人達から話を聞いていた通り、アンデッドのメンバーは全員頭から2本の角を生やしていた。
全員俺と同じ、魔族。
先頭に立っていたのは、体重が俺の3倍以上はあろうかという、フランクさんを軽く超える大男だった。
ひと目見てわかった。
あれが、『城壁のボルガン』だ。




