17.救出
「大丈夫か?」
俺達はヤリスさんの投げ入れたロープを掴んでなんとか湖から脱出した。
「やっと出られた・・・・・・」
「何やってんだお前ら」
フランクさんは冷ややかな視線をこちらに向けてきた。
それはそうだろう。
落とし穴のような罠ではなく、わかりやすく危険な見た目をした湖。
常識的な考えを持っていれば普通はハマったりしない。
「ヤリスから水を確保したって連絡もらったのに集合場所に来ねぇと思ったら、まさかこんな事になっているとは」
「ああ・・・ひどい目に遭った」
同じくして救出されたアリシアさんは、俺が飛び込んだ時に跳ねた泥を被ってしまったせいでほぼ全身が泥まみれになってしまっていた。
「すみません。俺がもっと要領良く動いてたら・・・・・・」
「まったくだ!楽しい木の実採集になるはずがどうしてこんなことになったんだ?」
「ごめんなさい・・・・・・」
「いや、そもそもの話沼にハマったのはお前のせいだろうが。」
「そうだけどな・・・・・・」
ダメだ。アリシアさんはすぐ怒るし気分でコロコロ行動を変えるし、俺の苦手なタイプかもしれない。
一旦状況が落ち着くと、フランクさんは湖の方に向き直った。
「タールピット。天然のコールタールが構成する、一度ハマれば自力では抜け出せない底なし沼だ。」
そしてその奥の光り輝く樹林を指さした。
「あの植物はスカベカズラといってな、タールピットに群生する肉食植物だ。樹液や木の実から甘い匂いや光を放って、誘われたお前みたいなバカを沼に沈めては死体から養分を吸い取る習性を持ってる。」
何となく察してはいたが、恐ろしい生態だ。
「すごいな!内陸にはそんな生き物がいるのか!」
アリシアさんは事の重大性よりも、植物の生態の方に興味津々のようだ。
「いいかアリシア。内陸部ってのは、お前らの想像もつかないような残忍で狡猾な習性を持つ生き物ばかりが生態系を成しているんだ。今回みたいに考えなしに突っ込んでいるうちは、お前に冒険者としての資格はないと思え!」
「わかったよ・・・・・・」
目的は違えど考えなしに突っ込んだのは俺も同じなため、耳が痛い。
「お前もだ、ヒイラギ」
「うっ・・・・・・」
「ちょっと待ってくれリーダー。ヒイラギはこのバカを助けようとしてくれただけだ」
大目玉を食らうと身構えていたところでヤリスさんから思わぬフォローが入った。
「だとしてもあの湖に飛び込んだことには変わりない。再三言うがお前に死なれると俺達全員がレッドカードなんだからな。行動には十分気をつけてくれ」
俺が死ぬとステムの皆がアンデットから恐ろしい報復を受ける。
とっさに湖に飛び込んだ時は、そのことをすっかり忘れていた。
「すみませんでした・・・・・・」
「まあなにはともあれ、飯は確保できたみたいだな。そろそろ日も暮れるし馬車に戻ろうぜ」
気まずい空気を壊すようにヤリスさんは食べ物の話を持ち出した。
俺にフォローを入れてくれた事といい、優しくて器用な人なのだろう。
「馬車はもうないわよ、ヤリス君」
ミアさんは既にキューブ化されたライオロスを脇に抱えた。
この魔物だらけの危険なルートを馬車で通れるわけもなく、俺達は内陸部へ足を踏み入れると同時に馬と馬車を圧縮魔法でキューブにしたのだ。
そのキューブは、フランクさんが持っている。
「そっか、そうだったな。あれ?じゃあこれから俺達どうするんだ」
「寝泊まりができそうな隠れ家を探す。もしくは作る」
「とことんサバイバルだな!これこそ冒険者って感じだ」
半日ぶりに全員が揃ったことで、この厳しい内陸部の環境下でも俺はなんとなく生き残れそうな希望を抱いていた。
だが、この日俺達を待ち受ける困難は、これで終わりではなかった。
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