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15.A級討伐モンスター

こうして小川での漁を終えたのは、フランクさんから連絡が入った頃だった。


「まあまあ捕れたな」


小魚達を1つの網に纏めると、1日は持ちそうな量が捕れていた。


「リーダーから指示だ。元の集合場所に戻れ、だってさ。ったく、これ乾くのどれくらいかかるんだよ」


ヤリスさんは服を絞って悪態をついた。

結局2人が暴れ散らかしたせいで、4人とも全身びしょ濡れになってしまった。

川をあとにして指定場所へ向かう俺達だったが、俺は遠くから運ばれてくるそよ風に足を止めた。


「なにか見つけたか?ヒイラギ」


ヤリスさんが立ち止まった俺に気づく。


「いや・・・あっちの方向からいい匂いがしたので・・・・・・」


アリシアさんは俺が指差した方角に顔を向け、鼻をひくつかせる。


「言われてみれば確かに甘い香りがするな」

「果物か?」


ただ少し気になるとしたら、同じ方角からアスファルトのような匂いがすることくらいか。

匂いを辿っていくと、森を抜けたところに湖が現れた。

いい匂いの元はその湖の中心部に集まって生えているマングローブらしい木々のようだ。

果実は発光しており、遠目に見ると樹林全体が淡い輝きを纏っている。


「本当にあった。鼻いいんだなお前」

「そういえば初めて会った時も、君は私とフランクに気づいて逃げようとしていたな。あれも匂いなのか?」


2人との初対面の話を思い出すアリシアさん。

転生直後のことでインパクトがあったため、俺は事細かに覚えている。


「あ、いえ。あの時は足音が聞こえたので・・・・・・」


正確には足音と茂みをかき分ける音。

初対面の時の話が出て、俺も彼女に関して後々聞きたいと思っていたことを思い出した。


「あの時俺は2人に気づかれないようにって茂みに隠れてました。アリシアさんはなんで俺がいるってわかったんですか?」

「私は目がいいんだ。このチームじゃ索敵担当を兼任されてる」


得意げに鼻を鳴らすアリシアさん。

俺は完全に体を隠していたはずだ。

遠くから人の気配に気付けるなんて、目がいいなんてレベルじゃない。

物体を透視できるだとか、そんな類の魔法を使ったのだろうか。


「でもありゃ遠いぞ。ミア、サイコキネシスで取れるか?」

「範囲外ね。使い魔に取らせてくる」


そう言って杖を宙に向けるミアさんを止めたのは、アリシアさんだった。


「ダメだ。魔法は使うなって話だろ?私が取ってこよう」


なんと果実を採集するために、彼女は湖に足を踏み入れた。


「あ、おいアリシア!勝手に入ってんじゃねぇ!」

「少し底の泥はばっちいが大丈夫だろう!水は綺麗だしな!」

「そういう問題じゃない!その湖だって何が潜んでるかわからないんだぞ!」

「大丈夫だって!ヤバそうな動物はいないぞ!水深もそんなに深くない!」


ヤリスさんが心配するように、俺もこの湖には言いようのない不気味さを感じていた。

確かに湖には先程の川が流れ込んでいるようで、水は同じく透明に澄み渡っている。

だが危険というのは、別に水質や生き物に限った話ではない。

なぜかはわからないが先程から感じているアスファルトの匂いの発生源はこの湖だ。


「なんだっ!?このネバネバ!」


しばらく歩いたところで、アリシアさんは進むことも戻ることもできなくなってしまった。

どうやら何かにハマってしまったようだ。

パニックになって身じろぎしていると、あっという間に腰のあたりまで水面に浸かってしまう。


「なんだこれ動けん!地に足もつかない!たっ助けてくれみんな!」


その見事な役者っぷりに、ヤリスさんは溜息を漏らした。


「自業自得だな。自分でなんとかしろ」


それは酷な話だ。あそこまでハマったら自力で抜け出すのは不可能に決まっているのに。


「まずい!助けてくれミア!」


助けを期待できそうにないヤリスさんから対象を変えて、命乞いを続けるアリシアさん。

だが必死の訴えが通じることはなく、ミアさんはその場から一歩も動かなかった。


「・・・ミア?」

「私は石なんでしょう?」


どうやらアリシアさんが散々石と呼んできたことを根に持っているようだ。


「石に向かって喋るなんて面白い人ね、アリシアさん」


真顔でそう言い放つ腹の底では、何を考えているのかわからない。

冗談なのか、本当に怒り狂ってこの場でアリシアさんを見殺しにするつもりなのか・・・・・・。


「あー・・・・・・。悪かったよミア。私が悪かったから、謝るから引き上げて下さいミア・クラウゼさん!ほら、後で大好きなお花を摘んでやるからさ!」

「花が好きといった覚えはないけれど」


その時だった。

耳をつんざくような咆哮が轟くと、森をかき分け巨大な犬のような猛獣が現れた。

初見の俺でもわかる、明らかに危険な肉食獣。

流石に陸に残った組もスイッチを切り替えて獣と向き合う。


「なんだ!?こんな時に!」

「ライオロス。A級討伐モンスターよ」

「A級・・・いきなりA級かよ。」


短く会話を交わし、勘弁してくれと悪態をつくヤリスさん。

俺はあまりの恐怖で腰を抜かしてしまった。


「おっおい!早く助けてくれ!」


助けを求める声が、本格的に切羽詰まったものへと変わる。

そんなアリシアさんにヤリスさんが呼吸用の竹筒を投げてよこすと、彼女は言葉を失った。


「冗談だろう?」

「下手に動かなきゃ10分はもつ!そこでしばらく反省してろ!」


腰の鞘から長剣を抜き、杖を構え、2人はライオロスと対峙する。

アリシアさんが湖にハマっている以上、ここから動くことはできない。

この魔物と戦う以外の選択肢はないのだ。


「私が引き付ける。仕留めて」


ミアさんは杖の先端を光らせると、何も無い空間から1羽の鷹を召喚した。


「ったく・・・これだから内陸は!」

「念の為確認だけどアレを使うのは──」

「わかってるよ!魔法は制限しなきゃだろ!」


ヤリスさんは魔物との戦闘を始める直前、最後の言葉をかけてきた。


「見せてやるぞヒイラギ!必殺技を封じられた俺が、どれほど無能なのかを!」


そうして2人は、ライオロスとの戦闘に入った。

~キャラ紹介~


〇柊レイジ

本作主人公。前世で死んだら『閻魔』というチートキャラに転生した。黒髪に赤目が特徴的な魔族の少年。引っ込み思案で臆病。自意識過剰すぎて五感が鋭い。自由が好き。人生に絶望している。


●海岸部ギルド冒険者パーティー1381番『スズラン』

〇アリシア・ワルツ

猟銃を背負った赤髪の少女。好奇心旺盛。破天荒で遠慮のない言動。自由人。イタズラ好き。後先考えず行動するため危なっかしい。好戦的。人間。


〇ヤリス・カイザー

長剣で武装する少年。ビビりの常識人。虫が苦手。人間。


〇ミア・クラウゼ

杖を大量に持つ少女。寡黙でマイペース。人間。


●その他

○ライオロス

A級討伐モンスター。犬とライオンが合体したような大型の肉食獣。

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