13.川
逃亡生活は2日目を迎えた。
山で倒れていた俺を拾ってくれた心優しいパーティー、『スズラン』。
最強パーティに追われるというスズラン史上でも最悪の困難を乗り切る有効な策は、未だ見つからず。
当面の目標は、とりあえず俺が閻魔の力と記憶を取り戻すための手がかりを得るために、閻魔と関わりの深そうなラグジャラス山へと向かうことにあった。
となると、移動においてやはり問題になってくるのは、水と食料だ。
「あークソ・・・・・・。市場で買い物がしたい・・・・・・。」
山道を歩いていると、ヤリスさんが悪態をつく。
「どこの街も彼らの息がかかっているわ。足を踏み入れればすぐに殺し屋が送り込まれる」
「わかってるよ・・・・・・」
話に聞いたところスズランは常に金欠とはいえ、食べるのに困るほど困窮しているわけではない。
それでもアンデッドに場所がバレるわけにはいかない今、人目のつく市場で生活必需品を手に入れることはできないので、俺達は狩猟採集の生活を強いられることとなる。
俺は隣を歩くヤリスさんとミアさんに質問してみた。
「この世界の市場って、どんなところなんですか?」
市場という場所を知らないわけではないが、俺の馴染みある前世のものとは違うところもあるかもしれない。
どんなものを売っているのか。
どれほどの規模なのか。
「お金さえあれば敷地内に引きこもって一生暮らしていける。そういう場所。」
「そうだ。一般的な生活必需品から冒険者の武器や物資、とにかくなんでも揃ってる。ただ品揃えがいいってだけじゃない。同じ商品でも銅貨1枚で買える安価なものから貴族御用達のものまで顧客の幅が広いんだ。欲しいものは大体そこに行けば買える」
「なるほど。」
俺の知っているものとの違いがあるとすれば、規模が遥かに大きいところと銃刀法などの制限が緩いところか。
「特に帝都の市場はデカいぞ。ライツ城10個分はある。」
東京ドーム〇〇個分みたいな言い方をされたが、さっぱりわからない。
「どうだアリシア?あったか?」
俺達が雑談していると、少し前を歩いていたアリシアさんが踵を返して戻ってきた。
「ああ!綺麗な水だ!魚も泳いでるぞ!」
顔を綻ばせていることから察するに、目的のものは見つかったようだ。
彼女の案内に従って林を抜けると、そこに流れていたのは小さな川だった。
そう。俺達4人がパーティーリーダーから指示を受けたのは、飲料水の確保と、可能ならば食料の採集だ。
狩りはフランクさんが一人で担当するらしい。
「私も狩りがしたかった!なんでこんな大所帯で水くみなんかしなくちゃいけないんだよ!」
役割分担を決める時にフランクさんと口論したのを思い出したのか、アリシアさんは駄々をこねる。
確かに4人でまとまって動くとなると暇を持て余すメンバーも出てくるので、その気持ちもわからなくはない。
「お前はやたらと暴れるから目立つんだよ!リーダーなら隠密行動に長けてるし、魔力を抑えて戦う技術もある」
「私だってそれくらいできるさ!」
「じゃあその手に持ってる魔石爆弾はなんだ?嘘ついてんじゃねぇぞこの野郎」
2人が言い合いをしているうちにミアさんは鞄から光るキューブを取り出した。
圧縮魔法により生成されたそのキューブを解凍すると、現れたのは木製の樽。
蓋を開けると、中身は完全に空っぽだった。
「一応煮沸はするけど・・・綺麗な水ね。」
ミアさんは川に樽を沈め、一気に大量の水を汲み上げる。
それでも樽の大きさに反して川の底は浅かったため、水は半分ほどの深さしか溜まらない。
「レイジ君。頼みがあるのだけれど」
こちらを向いたミアさんに突然話しかけられ、俺は一瞬たじろぐ。
「はい!囮でも肉壁でもなんでもします!」
「いえ・・・そんな大したことじゃないわ。そこの鞄から、コップを人数分取ってもらえないかしら」
「コップですか?わかりました」
微々たるものだが初めて役割を与えられた俺は、少し気分が楽になった。
言われた通り4つのコップを皆に渡すと、それらを使って川から水をすくい、樽に足していく。
~キャラ紹介~
〇柊レイジ
本作主人公。前世で死んだら『閻魔』というチートキャラに転生した。黒髪に赤目が特徴的な魔族の少年。引っ込み思案で臆病。自意識過剰すぎて五感が鋭い。自由が好き。人生に絶望している。
●海岸部ギルド冒険者パーティー1381番『スズラン』
〇アリシア・ワルツ
猟銃を背負った赤髪の少女。好奇心旺盛。破天荒で遠慮のない言動。自由人。イタズラ好き。好戦的。人間。
〇フランク・バースタイン
鋼鉄の盾で武装する大男。責任感の強い常識人。『スズラン』の隊長。人間。
〇ヤリス・カイザー
長剣で武装する少年。ビビりの常識人。虫が苦手。人間。
〇ミア・クラウゼ
杖を大量に持つ少女。寡黙でマイペース。人間。




