11.生き残るために
「そんなことより飯にしないか?昨日の夜からほとんど何も食ってないぞ」
話し合いに飽きたアリシアさんがミアさんの持っていた袋を取り上げる。
さっき自分で放り投げてミアさんに取らせたものだ。
「飯ならあるぞ!みんなで分けよう!」
そう言って袋の中を開けてみせると、想像を裏切る中身に俺は息を呑んだ。
「虫!?」
ヤリスさんが血の気の引いた悲鳴を上げる。
反応からしてよほどの虫嫌いなのだろうか。
そう。袋の中にパンパンに詰められていたのは、バッタ、イモムシ、蜂、クモ、サソリといった様々な虫の死骸だった。
袋のサイズからしててっきり昨日食べたような果物か何かだと思っていた。
「大丈夫だ。毒は取り除いたぞ?すでに火は通してるから寄生虫だって──」
「良かったなアリシア!お前は貴重なタンパク源を確保できたみたいだな!さ、リーダー!今から狩りにでも行こう」
ヤリスさんは彼女の言葉を遮ると、尻に火が付いたように立ち上がった。
「もう日が暮れるぞ?それにこの辺りは虫以外取れる動物はいない」
「マジですか・・・・・・?」
だが無慈悲な現実を突きつけられ、一歩も動かないまま座り直すことになる。
「だからここに──」
「大丈夫だアリシア。俺はお前が空腹で苦しむのを見たくないからな。」
どうしても虫を食べたくないヤリスさんは、すでに袋の中身を食べ始めているアリシアさんを真摯な顔で拒絶した。
そんな中、ヤリスさんの勢いと裏腹に腹の鳴る音が会話を遮る。
「体は素直じゃないか、ヤリス」
「いや、今のは俺じゃないぞ」
俺はみんなと目が合わせられず、体育座りで顔を伏せた。
言うまでもない。音の発生源は俺だ。
それを察したアリシアさんが袋をこちらに渡してきた。
「君も食えヒイラギ」
「あ・・・俺は大丈夫です」
「君までこいつと同じことを言うつもりか?腹が減っては戦はできんというぞ」
「いえ。こんな状況になったの、全部俺のせいなのにその上みなさんの食料まで奪うのは──」
再び腹が音を鳴らしたことで言葉が続かなくなる。
お願いだから状況を聞き分けてくれ俺の体。
恥ずかしくて死にそうだ。
昆虫食自体に抵抗があるわけではないが、今まで迷惑しかかけていない俺が恩人を相手に数少ない食料を分けてもらうことはできない。
俺が黙りこくっていると、他の人達が袋に手を伸ばした。
「俺は少し貰おうかな」
「ミアは?」
「いただきます」
スナック菓子のようにつまみながら、フランクさんは語る。
「言っただろうヒイラギ。お前に何かあったら、アンデッドに干されるのは俺達なんだ。い
らん施しとは思わず大人しく受け取っておけ。」
「すみません・・・・・・」
俺が取りやすいように、自分たちが先に食べたのか。
遠慮をしたつもりが裏目に出て、こんな気遣いまでさせてしまったのだから情けない。
俺はバッタのような虫を摘んで口に入れた。
これまでの経験通りなら、エビのような味がするはずだ。
だが口の中に広がったのは、魚の内蔵のような強烈な苦みだった。
アリシアさんは楽しそうな顔で感想を求めてきた。
「美味いか?ヒイラギ」
そんなことを聞かれては、美味しくないなどと言えるわけはない。
「は、はい!美味しいです」
俺は嘔吐反射を抑え込んでなんとか笑顔を作ってみせた。
「そうか!私はとても食えたもんじゃないな。見ろこれ。栄養状態が悪くて肉が全然詰まってない。それでもないよりはマシだけどな」
「よくこんなもの喜んで食えるなヒイラギ」
しかし偽りの感想に返ってきた反応は、俺が抱く本音そのものだった。
「なんでそんなの取ってきたんだよ?」
わざわざ美味しくないものを自分から食べて悶絶している俺達に呆れたように、ヤリスさんがため息を付く。
「ここいらはほとんど土壌に栄養がなくて、スカスカの植物しかないんだ。お陰で栄養になる動物もこいつら痩せ細った虫くらいのものさ。乗り気はしないが生き残るためだ。アンデッドの裏をかくためとはいえ、中々の苦行だな」
「まあその分、危険な魔物もいないから安全ではある」
フランクさんは立ち上がると、焚き火の方、正確には焚き火の上で煮え立つ鍋を取りに行った。
虫のインパクトで忘れていたが、そういえば焚き火の方でも何か作っていたっけ。
数少ない手持ちの食料である乾パンをミアさんが分配し、フランクさんが焚き火で煮えていたコンソメスープをコップに注いで配る。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
受け取ったコップはとても暖かく、夜の冷たさを和らげてくれた。
「なあなあ。ずっと気になってたんだけど、お前の言ってた異世界転生って話、マジなのか?」
スープで体を温めていると、ヤリスさんが俺に問いただしてきた。
思い出したように、皆の視線が俺に集まる。
「あっはい・・・・・・。そうです」
質問がいきなりだったので俺は碌な答えも用意できなかった。
「別の世界で命を落として、この世界で閻魔として新たな人生を始めているってことか?」
「俺もまだ何がなんだかわかってないんですけど・・・多分そうなんだと思います」
「そんなこと起こるんだな」
そういえば今までバタバタしすぎたせいで、まだこの人達に俺の事情をきちんと話せていなかったんだっけ。
今は束の間とは言え、安息の場が設けられている。
異世界転生に関しては実際に作品を履修したわけではないので、ただそういうジャンルのフィクションがあるということしか知らない。
だから俺自身、具体的に自分の身に何が起きているのかもこれからどうすればいいのかもよくわからない。
強キャラとして生まれ変わった業をどのようにして背負っていかなければならないのか。
その答えは、俺自身が考える必要がある。
~キャラ紹介~
〇柊レイジ
本作主人公。前世で死んだら『閻魔』というチートキャラに転生した。黒髪に赤目の少年。引っ込み思案で臆病。自意識過剰すぎて五感が鋭い。自由が好き。人生に絶望している。
●海岸部ギルド冒険者パーティー1381番『スズラン』
〇アリシア・ワルツ
猟銃を背負った赤髪の少女。好奇心旺盛。破天荒で遠慮のない言動。自由人。イタズラ好き。好戦的。
〇フランク・バースタイン
鋼鉄の盾で武装する大男。責任感の強い常識人。『スズラン』の隊長。
〇ヤリス・カイザー
長剣で武装する少年。ビビりの常識人。虫が苦手。
〇ミア・クラウゼ
杖を大量に持つ少女。寡黙でマイペース。




