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9.始まった逃亡劇

こうして俺達の一世一代の逃亡劇は幕を開けた。

閻魔という人的資源を巡って世界最強のパーティから命を狙われる死の鬼ごっこ。

クリア条件は不明。

当てはあるがあくまで推測の域は出ず、下手すれば死ぬまで逃げ続けなければならない。

正直俺は、あと一週間も生きられる気がしなかった。


「随分遅い起床じゃないか」


馬車の上で目を覚ますと、フランクさんが荷解きをしていた。


「すみません。寝るつもりはなかったんですけど・・・・・・」


体を起こして周囲を見回してみたが、他のメンバーはいないようだ。

ステムの根城であった古小屋周辺とは大分違うが、ここも360度木々に囲まれた森の中。


「あいつらなら今食い物を取りに行ってる」 


フランクさんは馬車を降りて焚き火の前に移動した。

そこからは、香ばしい匂いと火を炊いている熱を感じた。


「朝ご飯・・・何でしょうかね」

「晩飯だけどな」


見上げた空では、光も煙も全て遮ってしまうほどの枝葉が大量に生い茂っていた。

ここは夜に焚き火をしても空から発見されにくい場所ということなのだろう。


「まあ無理もないさ。昨日は夜通し移動したからな」


結局昨晩は一睡もできなかった。

理解の追いつかない出来事が次々に降り掛かってきた上、いつ何が襲ってくるかわからない夜道を慣れない馬車で移動したため、とても安心して眠りにつけるような環境ではなかったのだ。

日が昇って他の皆が目を覚ました頃から俺の記憶は飛んでおり、目が覚めたらいつの間にか夜になっていた。


「大丈夫ですか?フランクさんまだ一回も寝てないですよね?」


彼はパーティの皆を守るため、恐らく一睡もせずに周囲への警戒を張り巡らせている。


「俺の心配なら無用だ。こういうのには慣れてる」


責任者としての立場もあるだろうに、弱音らしいところを言葉にも顔にも出さない。

俺はふと思い出した。


「そういえば昨日話した人・・・誰なんですか?ボルガンって言ってましたけど」


俺とフランクさんが連絡用魔法陣を通じて言葉を交わしたアンデッドのメンバー。

肉体も精神も屈強なフランクさんに冷や汗をかかせたあの男のことを。


「通称、『城壁のボルガン』。アンデッドの幹部だ。パーティ内じゃ閻魔を一番慕っているようでな。仲間想いの熱血漢だが、敵対者に対しては一切の容赦がない。俺も他国との紛争地で奴の戦いぶりを見たことはあるが、通り名に恥じない化け物だったよ」


想像を何枚も上回る話が語られ、俺は興味本位で聞かなければよかったと後悔する。

今回の逃亡劇、俺はいずれまたあの男とどこかでぶつからなければならないのか。

というか幹部でそんなエピソードとは、トップは一体どれほどの男なんだろうか。


「フランクさんは・・・怖くないんですか?アンデッドを敵に回すこと。」

「そりゃ怖いさ。敵に回したくはないに決まってる。だけどな、一度敵だと確定してしまえば、その後は案外冷静になれるもんさ。」


すごいな。辛い現実をそんな簡単に受け入れて逃げずに戦えるなんて。

俺はそんなことはない。

前世で確実な死が決定した時も、その日が来るまで一度たりとも恐怖を抑えることなどできなかった。

昨日ボルガンと話した記憶も、恐怖で頭が真っ白になって詳しい台詞はほとんど覚えていないのに、あの男が急に態度が変えた前後だけははっきりと思い出せる。

アリシアさんが言っていたように、この逃亡劇は最終的に俺とアンデッドとの直接交渉に全てがかかっている。

俺も、いつまでも怖気づいたままではいられない。


「あの、聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「昨日やってたアレ・・・オークを立方体に小さくする魔法ありますよね?」

「ああ。圧縮魔法か。」

「あれを使えば荷物って全部立方体一つに収まるような気がするんですけど・・・それをしない理由ってあるんですか?」


なんの脈絡もない突然の質問にも、フランクさんは答えてくれた。


「これから何が起きるかわからない状況では魔力はできるだけ節約するに越したことはないからな。圧縮魔法ってのは、発動に対象の重量に応じた時間と魔力が必要になるんだ。10キログラムの物体と100キロのものとじゃ、圧縮にかかる時間も魔力も10倍。何でもかんでも圧縮すりゃいいってもんでもないんだ。持ち運びできる荷物なら手で持ったほうが良い。今回は馬車を使ってるから尚更だな。」


魔法には魔力に応じて使用に限度があるということか。


「見てもいいですか?荷物。」


フランクさんの了解を得て、開きっぱなしで放置されている鞄に手を突っ込んだ。

出てきたものを並べてみると、乾パンのような非常食、タオル、よくわからない小物がいく

つか、そして地図。

俺は地図を開いてまず現在地を確認することにした。

アンデッドに追われている今の状況を切り抜けることも大切だが、それ以前に俺はこの世界のことをもっと知らなくてはならない。

それが結果として今回の件の解決にも繋がってくるかもしれない。

地理、歴史、政治、言語、魔法・・・・・・。

勉強することは、たくさんある。


「ここは・・・・・・?」


早速場所について調べてみようと地図を広げてみたが、ダメだ。さっぱりわからない。

前世では見知らぬ土地に出向く時スマホの道案内アプリに頼り切りだったため、アナログの地図の読み方がわからない。

北が上で南が下なのはわかるが・・・・・・。

~キャラ紹介~


〇柊レイジ

本作主人公。前世で死んだら『閻魔』というチートキャラに転生した。黒髪に赤目の少年。引っ込み思案で臆病。自意識過剰すぎて五感が鋭い。自由が好き。人生に絶望している。


●海岸部ギルド冒険者パーティー1381番『スズラン』

〇フランク・バースタイン

鋼鉄の盾で武装する大男。責任感の強い常識人。『スズラン』の隊長。

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