~DIMENSION BIRD~序章その②
信哉はしばらく歩いていたがふと立ち止まり考えた。信哉は今まで変わった日常というものを何度か経験したことがあるが、それは火事や事件に巻き込まれたりするくらいで、人が消えたり現れたりする怪奇現象的なモノは体験したことがない、
あることわざで事実は小説より奇なりという言葉があるが、いまいちパッとしない。
信哉は目の前にあるバス停のベンチに座り、空を眺めている。
唯一心を落ち着かせるためにとれる手段と言えばこれくらいだ。下と横を見れば頭がおかしくなりそうになるのであれば上だけを見ていればいいのではないかという発想を信哉は行動に移した。
心が落ち着くまでこの青い空を眺めていようとベンチに座る信哉の隣に誰かが座った。
信哉は何だ?と思い横目でちらっと見てみると、
「うわああ!いつの間に!?」
信哉は驚き、思わず叫んでしまった。
隣に座っていたのは一瞬で姿を消した少女だった。信哉の情けないその声を聞いて少女はこちらを向いた。
「そんなに大きな声を出してどうかしたの?」
少女は機械のように何一つ表情を変えずこちらに聞いてくる、
「え?あ、いや、なんでもないです。ちょっと驚いただけです、はい」
「そう……ならいいわ。あなたに言いたいことがあるの。」
「え、なんですか?」
信哉は戸惑いながら少女の目を見る。
「あなたは大きな力を手に入れる、たとえそれが望んでいなくても。」
「大きな力……?」
「ええ、」
「何を言っているんですか…」
「それは言えないわ。でも、言葉を交わさなくても時期に理解できるようになるわ」
少女は信哉の目をじっと見つめて答えた。
「あなたはきっとその力を上手く使うことができるようになる。」
少女はそう言って信哉の手を冷たい手で包む。
「はぇっ!ちょっ、なにを!」
信哉は顔を赤く染めた、女性経験の少ない信哉にとってそれがとても刺激が強すぎるものだった。
「私はあなたの味方よ。」
少女は優しく微笑んでいる、今まで片鱗も見せなかったというのにどうして急にその顔をするんだ。
信哉は少女の笑みに見惚れてしまっていたが、すぐに信哉は我に返り彼女に。
「なっ!何を言いたいのかよくわかりませんよ!そもそも何で大きな力を持つことになっているんですか!俺のような普通の人間がそんな非現実的なことを信じるって思っているんですか!?」
信哉は恥ずかしさを誤魔化そうと少し怒り気味になっていた。
すると彼女は信哉の手を握ったまま立ち上がり、信哉の耳元で囁くように言った。
「さっきと同じようなことを言うけど今はわからないかもしれないけど、いずれわかる時が来るわ。その時は私があなたを助けるから、だから信じて私の心のカギ…」
彼女はそれだけ言うと信哉の視界を塞ぎ、そのまま消えてしまった。
信哉はしばらく呆然としていたがハッとして周りを見渡すと先ほど何人たりともいなかった駅前に人がたくさんいた。そしてバスを待つ人も何人もいる。
信哉はさっきの出来事がやっぱり夢だったのではないかと思ったが、
手に握られていたカギが夢ではなかったということを物語っていた。
信哉はそのカギをまじまじと見た。
「…鍵か…このカギとあの女の子……まあ、今考えても仕方がないよな……交番に届けるのはやめろってことなのかな…」
信哉はカギをバッグの中にしまい込み駅前を出た。