~DIMENSION BIRD~序章
「どうして俺は…アレに乗ったんだろう…」
そう呟きながら彼は一人ベッドの上に寝転がっていた。
その顔には恐怖と不安が入り混じったような表情を浮かべている。
彼は数時間前、想像に及ばない経験をしてしまったからだ。
信哉は今日、学校が休みだったのだが、特にやることもなく朝を迎え、今日は何しようかと考えることを一切せず、とりあえず適当に電車の行く先へ流されるように乗っていればいつかはその日のうちにやりたいことが見つかるだろうと軽い気持ちで一日を始めた。
今日はいつもとは何かが違い、車内に人は誰もおらず、静寂な空間に一人、信哉はまるで棚の上に置かれている人形かのように椅子に座っている。
信哉はふとした時に携帯に表示されている時刻を見ながら「今日は誰もいない…」とつぶやきながら車内を見まわしていた時、信哉が座っていた席の向かい側に一人の少女が座っている。
「…?」信哉はさっきまでそこに彼女が居たことに何一つ気づいてはいなかった。
彼女の服装は白を基調とした目立つワンピースで、首元には華やかなネックレスが輝いていた。髪は黒よりの青色でロング。彼女は信哉を見つめていた、その瞳の色は髪の毛の色と同じような黒よりの青をしているが、眼のふちにとても鮮やかな水色が輝いていた。
その少女は信哉の瞳を焼き付けるかのように見つめている、まるで信哉のことをずっと見ていたかのように見つめている。
信哉はこの不思議な雰囲気を持つ少女になにか惹かれていた、この気持ちはなんなのだろう、信哉は胸を締め付けられる感覚を感じている、それは恋心とは違う、もっと別のなにかだ、悲しい気持ちとうれしい気持ちが入り混じっているこの矛盾、少女を見つめている時の信哉の心の中。
二人の視線が重なったその時、少女は口を開いた。
「刻は来たわ。」
少女の声は透き通り、車内に響いた。
「え?」
信哉は何が何だか分からず首をかしげる、急に何を言い出しているのだこの少女はと信哉はそう心の中でつぶやいた。
だがそんなことお構いなしというように少女は続けて言った。
「ここで私と出会ったということは、あなたはこれから様々な出来事に巻き込まれる、あなた自身が望んでいなかったとしても避けて通れない道、それが運命というものだから」
信哉は何を言っているのか、彼女の言っていることに理解ができず無言になってしまったが、一つだけ確信できるものがあった。
この子は自分とは全く違う価値観を持った人間で、自分とは絶対に交わることのない世界に住んでいるのだということを。
少女はまた何事にも動じないような顔で話し始める。
「私のことは今は気にしないで。ただ覚えていて欲しいことがあるの、私はあなたの味方よ。」
少女は立ち上がり、信哉の頬を触れた、その手はとても柔らかく少し冷たい、「な…なにを」
信哉は動揺しながら彼女に聞く。すると少女は信哉の耳元でささやき、答えた。
「じっとしてて、そしてこの話は誰にも言ってはいけない、それだけは忘れないで」そう言うと彼女は信哉の目を優しく左手で塞いだ。
視界を塞いだ後、すぐさまに信哉の視界を塞いだ手を少女はどける。
信哉は目を開き、周りを見渡したが、そこに彼女の姿はなく、代わりに電車内には人っ子一人いなかったはずの席にたくさんの人が座っていた。
信哉はこの出来事があまりにも非現実的で信じられないものだったためか、「なんだったんだ…今のは…幻覚…?夢?」と頭を押さえ、小声でつぶやきながら考え込んでいた。
しばらくたって、考えても分からないものは仕方がないと瞳を閉じながらその決断に至り、信哉はカバンの中にしまっていた本を取り出そうとした時、車内のアナウンスが流れた。
『次は〜〇〇〜お出口は左側です』
どうやら次の駅にそろそろつくようだ。信哉は取り出したばかりの本をまたカバンの中にしまい、忘れ物がないかあたりを見回した。
特に問題はなし、このまま降りられる。信哉は目的地にたどり着いたのでとりあえず降りようと席を立とうとした瞬間、
隣に座っていたおじさんが信哉に話しかけてきた。
「あのー、すみません、これ落としましたよ。」
そのおじさんは40代後半くらいに見える男性だった。
「あぁ、ありがとうございます…」
信哉は落としたものをもらい、礼を言った。
その男性は渡したものを見てこう言った。
「こんなにたかそうなカギを落としたら大変だよ?」
「え?僕別に高いものは持ってはいないですよ…?」信哉は首をかしげた。
「まあ、どちらにしろ大切なものには変わりないでしょ?」
信哉は渡されたものを見るとそれは見たこともないカギだった。
信哉は困惑しながらもそのカギを受け取り、バッグの中へ入れた。
「気をつけなよ若いの」おじさんは小さく手を振って別れを告げた。
「あっ、すみませんありがとうございました。」
信哉は深く頭を下げた後、電車から降りた。
信哉は駅のホームに立ち、バッグの中にあるカギを取り出しジーっと見つめていた。
そのカギは丸カギで家や車などに使うカギではないということは一目でわかる。なんかこれはかなり古臭いデザインだなと信哉は分析する、錠頭には小さい水晶のような球体が埋められており、確かにおじさんが言っていたように本当に高そうなカギだ、こんなカギを作ったかオーダーした人はかなりのお金持ちであるのだろうなと信哉は考察をする。
そして、信哉が下した決断は
「よし、これは交番に届けよう。」
それはあまりにも単純な答えであった。
まあ、これを交番に届けるにはまず駅を出なくちゃなと信哉は小走りでホームの階段を上る
「あれ、この駅って…こんなに静かだったっけ…」
信哉はいつも利用している駅なのにまるで初めてその駅に降りたような不思議な感覚に信哉は陥りながらも改札を出た。
「さっきの女の子と会った時もそうだけど、なんか今日はおかしいな……気のせいかな」周りを見渡してみたが誰もいない。いつもは駅前のバス停にかなりの人がいるはずなのに今日は気味が悪いほど透明。
その光景はまるでこの世界に自分一人しか存在していないかのように感じられた。