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さらば あしゅ〇男爵

七話目です。



 休憩室に移動する前に、荒れに荒れ果てた売り場の現状を何枚か撮影する。

 いやいや、しっかしとんでもないなゴブリン。

 先刻『ちびっこギャング』と称したが、正に制限なく売り場に解き放たれた子供怪獣そのものじゃないか。

 これ、店舗経営者からしたら悪夢でしかないな。



 段ボール娘に案内されるがまま、スタッフ専用の扉から飾り気のない通路を通り、休憩室へと入る。

 ここは地域密着型の中規模店であるが、俺もよくお世話になっている揚げ物や焼きそばなどのお惣菜を店舗内で調理しているため、抱えている従業員もそれなりに多いのだろう。


 ロッカーや冷蔵庫のある『ちゃんとした休憩室』で、会議室でよく見かける折り畳み式テーブルを挟み、向かい合わせに腰掛ける。


 結構いいパイプ椅子だな。尻が深く沈む。

 一瞬だけ、以前勤めていたイリーガルなカンパニーの記憶が頭を過った。


 勧められるがままに、出されたコーヒーを一口飲む。

 うむ、苦い。



「コホン。 ええ~、それでは面接を始めたいと思います。 まず、何故当店で働きたいと思ったのか、志望の動機をお聞かせください」


 って、面接受けに来たんとちゃうわーい!

 ……あー、おっさんのスケベ顔が急に曇ったから心配かけちゃったか。


 それでネタに走るとか、この娘は抱かれたい男ナンバーワンのスイーパーか? 見た目は二十台前半に見えるが、物おじせずにネタをぶっ込む度胸といい、こうして逃げずに店舗にとどまっている真面目さといい、なんだか面白い子だ。


 俺の中では人間、その中でも特に女性と金持ちは計算高く、物事を打算でしか見ていないという凝り固まった偏見が渦巻いているので、目の前の、『しょうもないおっさんの好感度稼ぎという無意味なことをしている女性』に若干興味が湧いてきた。


 なので意趣返しに。


 「この店には朱里さんがいるからですね」


 どうだ、まっすぐに目を見て言ってやった。

 いきなりの名前呼びはハードルが高かったが、声帯の奥底からイケメンボイスを捻りだして、噛まずに言ってやったぞ!


 すると正面の段ボール娘は目に見えて狼狽え、顔を紅潮させながら「そういう不意打ちは反則ですっ!」と手をパタパタさせながら反論する。



 ガハハ、好感触。これはイケる(確信)



 冗談はさておき、情報収集の前に互いに自己紹介をしようということになった。

 フルネームは先ほどあしゅ〇男爵に暴露されてしまったが、この後の処理で必要になるかもしれないということで、連絡先も交換した。



 彼女の名前は段ボール娘こと、玉城朱里。

 この店で働く従業員の一人で、24歳。

 見た目は肩まで伸ばしたストレートの黒髪を、ユニフォームのバンダナでまとめ、オレンジ色のエプロンに黒の上下でまとめた、小動物系の可愛らしい女性だ。

 決してチャンスの気配に目がパッチリして見えるようになったとか、キラキラした美少女エフェクトで補正がかかっているとかではなく、普段の買い物のとき、パートのお姉さまと玉城さんだったら、玉城さんにレジを打ってもらいたい。

 そう思わせる程には魅力ある女性であることは間違いない。


 彼女が情報提供者であったことは、俺の人生における数少ない幸運のうちの一つであるかもしれなかった。



 そして、ご存じ俺こと寺田京太郎。

 自宅を守る警備員の一人で、35歳独身、最後の会社を一身上の都合により退職したのは約四年前。

 千円カットしてもらってから三か月が経ち、ボサボサ気味になった焦げ茶色の髪をナチュラルにまとめた(まとめていない)渋みのあるナイスガイだ。

 ちょっとぽっちゃり気味なのが若干気がかりの183cm88kgの健康男児である。

 BMIを計測してはいけない。



 自己紹介が終わったところで、互いの情報を擦り合わせていく。

 俺はゴブリンを斃したときに(使用できない)スキルを貰ったが、玉城さんは違ったらしい。

 強化レベルを貰えたことでステータスボードは貰えたそうなので、一緒にユーザー設定を行うことにした。



 「ユーザー設定を行う。どうすればよい?」


 いつの間にか脳内に語り掛けるのをやめていたあしゅ〇男爵に声をかけてみる。

 あまりに無視するからいじけて帰っちゃったとかないよね? 


 【音声コマンドを認証しました。「ステータスボード」と発声、もしくは頭の中で思い描いてください】


 あ、大丈夫みたいだ。

 言われたとおりにする。


 「ステータスボード」


 【ステータスボードを表示します】


 すると目の前に、10インチモニター程度の大きさの、半透明な青い画面が現れた。

 各項目をチェックする。



 【ユーザー名】 未設定 (未設定の場合、本名が使用されます)


 【状態】 戦闘可能 


 【強化レベル】 3 (強化レベル 1 ポイントにつき、身体能力が0.1%増加します)


 【スキル】 統率:獣   2/1

       名称未設定  : 待機中

       名称未設定  : 待機中


 【設定】 (システムボイスの変更、音量の調節、壁紙の変更などができます)



 シンプル!!!


 「え、これだけ!? 攻撃力とか防御力とかは?」


 【既存の生命体に対し、後天的にパラメータを付与する行為は推奨されておりません】


 あ、そうなんですね……ちょっとガッカリ。


 「じゃあ、俺のスキル欄のことについて聞きたいんだけど。 この超過した数値とか」


 【現在、寺田京太郎のスキルで統率可能な生命体は一体です。 ですが、現在、寺田京太郎が統率している生命体は二体です。 何らかのイレギュラーが発生したと想定されます。 生命体のステータスを、『待機中』から『合流』に設定し、名称を設定することを推奨いたします】


 あ、詳しいことはわからないのね。


 「この現象について罰則や修正が入ることは?」


 【ありません。 この度はスキルシステムの不具合により、ご迷惑をお掛け致しました】


 おう、不具合なら詫び石よこせや。 おうおうおう!


 でも、これで俺のスキルが『使用できない』のは『これ以上使用できない』という意味であったことが判明した。

 なんだよ、スキル使えるんじゃ~ん! ビックリさせないでよもう! 上げて落としてまた上げるなんて、あしゅ〇男爵ったらアタイのことどうするつもりなのよ! このテクニシャン!


 「ではこの画面を玉城さんと共有することはできる?」


 【双方の同意があれば可能です】


 「玉城さんは良い?」


 「それじゃあお願いします!」


 こういう時、創作の主人公は能力を隠したがる傾向があるが、俺はオープンなスケベなので開示してしまう。

 現時点で隠して得するような要素はなさそうだし。

 なによりも、この人と敵対するような未来は、なんというか、想像ができなかったのだ。



 これで俺には玉城さんの、玉城さんには俺のステータスボードが見えるようになった。

 玉城さんはもうユーザー名を『あかりん』にして、壁紙を肉球模様に変えていた。

 その後、俺たちはあれこれ言いあいながら設定を弄っていく。


 最終的に俺のステータスボードはマイナスイオンが出ていそうな木目調に変更し、音声はこちらから呼びかけた時と緊急時以外はサイレントモードに設定した。

 音声は川のせせらぎの様に澄んだ女性Dにする。

 気の強い姉御を思い起こさせる女性Bと最後まで迷ったが、結局こっちを選ぶことに。

 ユーザー名はとりあえず『Tさん』と入力しておいた。

 俺は寺生まれではないが、なんだか凄そうだからだ。



 最後にあしゅ〇男爵の遺言に従って、名称未設定の二体のステータスを合流に変更しておく。

 これでいいのかな? ここ、店の中だけど入ってこれるんだろうか。

 デカすぎて壁をぶち破って入ってくるなんて事態にはならないと信じたい。



 「一通り終わりましたね! 声とか壁紙とか、結構種類があって面白かったです」


 「だね。 でもこれ、誰の趣味なんだろう?」


 「うーん……ベタなところで神様とか宇宙人とかですかね? それより寺田さんの仲間の子たち、どんな子なんでしょう? 楽しみですね!」


 「うん、年甲斐もなくドキドキしてきた」



 俺は空になったカップを置いて、両手の指を落ち着きなくスリスリと擦り合わせる。

 こんなにワクワクするのは、母親に151匹のモンスターを集めるゲームを買ってもらった時以来ではなかろうか。

 あの時、ゲームショップからの帰り道。

 車の中で何を話したかまでは覚えていないけれど、きっと今みたいに地に足がついていなかったんだろうな。

 そんな俺を見て、玉城さんはニコニコしている。



 う……はしゃいだっていいじゃない。いくつになっても男の子なんだもの。

 ちょっぴり居心地の悪くなった俺は、ネットで情報を集めることを提案する。

 玉城さんは快く了承し、スマホであれこれと調べ始めた。

 何か役に立つ情報はあるかな? 俺はこういう時に盛り上がっていそうな掲示板を開いてみることにしたのだった。




次回、掲示板回。

あのノリを再現できるか不安ですが、頑張って書きます。

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