脳がイケそうと判断した途端に相手が可愛く見える現象を恋とは呼ばない
六話目です。
拝啓、機械音声様。
スキルが使えなくてショックで泣いている中年男性に、男とも女ともつかないあしゅ〇男爵ボイスで繰り返しユーザー設定をさせようとするのやめてください。
普通にキレそうです。
てゆ~か! も~なんだよ~せっかくやる気出して頑張ったのにこの仕打ち!
やっぱり人生は不公平だっちゃ!
機械音声に上げて落とされ、めそめそしていると。
「あの、助けてくださってありがとうございます。その……大丈夫ですか?」
段ボール娘がいつの間にか放り出していた俺の傘を持ってきてくれた。
お礼が言える子。とてもえらい。
「あ、すんません、局所的に雨が降っちゃって。 へへ……」
流石にほとんど交流のない女性に「あなだにはわからないいでしょうねぇ!」とネタに走る勇気はなかったので、当たり障りのない返しをしておく。
「……よかったら、入ってください」
そう言って店の中で傘を開く段ボール娘。
トゥンク……って、いやそれ俺の傘だわ。
つーか、昭和か。平成通り越して昭和なのか。
ここはトレンディードラマ時空じゃないぞ。
無防備なところにネタをブッ込まれてツッコミが追い付かない。
そもそも俺はツッコミキャラじゃないが。
「お主デキるな……」
差し出された傘を受け取って畳んでいると。
【討伐した敵性生物の保持期間が切れました。エネルギーに還元されます】
「なんですこの声!? それにゴブリンの体が……!」
脳内にユーザー設定の催促とは別の音声が響いた。
どうやら今回は、段ボール娘にもあしゅ〇男爵ボイスが聞こえているらしい。
その声が終わるや否や、ゴブリンたちの体や体液が、サラサラと空気に溶け込むように消えていく。
おお、こんな風になるのか。動画ではそこまで見なかったからな。
これならエコだし十分に持続可能だ。
環境大臣もニッコリに違いない。
まあ、ゴブリンが散らかしたものはそのままなんだけどね……
【貢献度を計算中です】
【計算が終了しました。これより、貢献度に応じて強化レベルを分配します】
【寺田京太郎 強化レベル 3】
【玉城朱理 強化レベル 1】
【強化レベルの分配が終了しました】
強化レベルなるものをもらえたらしいが、特に体に変わったところは無いように思える。
1とか2じゃ誤差範囲のものなのかも知れない。
それと、しれっと段ボール娘も貢献したことになっているな。
武器にした台車を借りたからか? 所有者は店だと思うんだが……その辺は臨機応変なのかな。
もしかして、わざわざ自分でゴブリンを斃さなくてもその場にいるだけでスキルがもらえたりするんだろうか。
わからないことが多すぎる。
とりあえず、言われたとおりにユーザー設定を終わらせて、ステータスボードとやらを確認したほうがいいんだろう。
ヘルプ機能とかあるかな? あったらいいな。
あとは、段ボール娘ちゃんも何とかしなきゃか。
街中がこんな状態ならセコ〇やポリスメンが来るまでどれだけ時間がかかるかわかったもんじゃないし。
ゴブリン倒したんでハイさようならでは、あまりにもあんまりな対応だろう。
「ひとまず危機は去ったみたいですね」
「はい……でも、あ~~~お店がぁ……店長になんて説明しよう」
この状況で帰るって選択肢が出ないあたり、この子はすっごく真面目なんだろうなあ。
ほかの従業員は出勤前に異変を知ってバックレてると思うんだが……
「ま、消毒やらなんやら、一人と部外者じゃ何にもできんでしょう。誰か来るまで情報整理でもしますか? 一人でも平気なら俺は帰りますけど」
「へ? いやいやいや! 帰らないでくださいよぉ! ちゃんとお礼もしたいですし!」
え~? お礼してくれるの~? ムフフなお礼ならオジサン大歓迎だよぉ~?
はっ! イカン、このままでは鼻の下が際限なく伸びたスケベな顔になってしまう!
努めて紳士的な真顔を保ちつつ、ドスケベ心を退散させる。
「えっと……こんな荒れた場所で立ち話もなんですし、休憩室でもいいですか? お茶かコーヒーくらいしか出せませんけど……」
はぁ~い! 京ちゃん、喜んでお供しまぁ~す!
真顔君は一瞬で崩れ去った。
ヤれません。