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平成を忘れない

五話目です。



 「待たせたなっ!」



 ダイナミック不法侵入をかました俺は、不敵な笑みを浮かべてサムズアップする。

 おそらく笑みはマスクで見えていない。感染予防、大事。



 搬入倉庫の中を見渡してみる。

 積みあがった段ボール、畳まれた台車、品出し中だったのだろうか、中途半端に開けられた箱がいくつか。

 この様相がいつもと同じかどうかまでは部外者の俺には判断がつかないが、荒れているところが無いことから、ゴブリンの団体さんはまだ売り場にいるのだろう。



 売り場の方からは下品に囃し立てるような複数の声が聞こえてくる。

 搬出口の窓から覗いてみると、三匹のゴブリンが、お菓子の袋を頭上で破り、炭酸飲料のボトルを床に落として爆発させ、アイスの冷凍ケースに入ってケタケタと笑っていた。

 まるで平成にタイムスリップしたようで、実に楽しそうだった。


 俺も 笑った。


 ゴブリンも 笑った。


 みんな 笑った。


 太陽も 笑った。



 「いや笑ってないで助けてくださいよぉ!」



 俺がキレイにまとめようとしていると、小柄な女性店員が段ボール箱から飛び出してきた。

 逃げたのかと思ってたら、そこに居たんかいワレェ。

 この段ボール娘が画像をアップしてくれたんだろう。

 普段から買い物に訪れているから、互いに顔は何となく知っていた。

 ゴブリンにゲヒゲヒされていなくて一安心といったところか。



 「あー、うん。そのために来たんで(嘘)助けるのは構わんよ。でも俺、部外者なんだけど入っていい?」

 「なんでもいいからお願いします! もう、売り場がめちゃくちゃですよぉ!」



 よし、言質取った。バッチリ録音したから(社会的に)死ぬときは一緒だゾ☆

 半泣きの段ボール娘とは対照的に、俺は満面の笑みで抑揚に頷いた。



 「よし、それならあいつらに奇襲をかけるんで……あ、この台車借りるね」

 「え? あ、はい」



 俺はおもむろに台車を展開すると、キックボードのように蹴り上げ、助走をつける。

 気分はタイムマシンで過去と未来を行き来する主人公だ。頭の中ではこれから始まるファンタジーの予感に脳内麻薬が迸り、映画のメインテーマがガンガン鳴り響いていた。



 『こいつマジかよ』という顔で固まる段ボール娘。

 口角が吊り上がるのが抑えられない俺。

 平成を忘れられないゴブリン。



 「今回のバトルも、熱くなりそうだぜ……」



 特に意味はないが、走り屋っぽい台詞も呟いておく。



 一歩、二歩、三歩!

 トップスピードに乗った台車で搬出口を押し開ける。

 ぼぉん という間延びした音と共に売り場に飛び出し、フロアに車輪の跡を刻みながら、平成ゴブリンズのいる売り場まで突っ込んでいく。



 「オーバースピードよ! 曲がれっこないわ!」



 突然劇画調になった段ボール娘がなんか言っている。いいからアナタは逃げなさいったら。



 ドギャアアアアァァァァァァァァァと轟音を立てながら売り場角のシリアルコーナーからインをついてきた俺を目にして、ゴブリン共が慌てふためくが……



 今更気づいてももう遅いっ!



 「お客様っ!」

 「ギョケェ!?」


 「店内での迷惑行為はお止め下さいっ!!」

 「ケキャァァァァ!!」


 台車のスピードは落とさないまま、ポテチゴブリン(仮)へと突っ込む。

 ドンッという鈍い音と共に吹き飛ばされたポテチゴブリンは、そのまま床に倒れこんで動かなくなった。



 「お支払い前の商品の開封は、ご遠慮願いますっ!」



 お次は白昼堂々行われた凶行に呆然とする炭酸ゴブリン(仮)に、台車を大上段から叩きつける。



 「シュワァ!?」



 胸に抱いたデブの素をまき散らし、台車の下でぴくぴくと痙攣する炭酸君に、しっかりとストンピングでとどめを刺す。

 極の文字が出たら△ボタン。

 遺伝子に刻まれた、流れるような追撃だった。

 念のために断っておくが、俺はYAKUZAじゃあない。



 あと、一匹。



 アイスの冷凍庫をのぞき込むと、「あ、その人たちは知らない人ですね。どうぞお構いなく」とでも言いたげに狸寝入りするアイスゴブリン(仮)の姿が。

 記念に一枚撮影しておく。パシャリとな。



 「私は関係ありませんみたいな顔してんじゃねぇよ! もっと熱くなれ!」



 もちろん見逃すつもりは毛頭ないので、アイスゴブリンのキンキンに冷えた両足首を掴み、雑に振り回して頭から地面に叩きつける。

 段ボール娘の「ひゃっ」という悲鳴が聞こえた気がした。



 良い子は絶対にマネしちゃだめだよ?

 なにはともあれ、これで討伐完了のはずだ。



 さあさあさあさあ、お待ちかねのスキル? タイムだ。

 どんな感じかな? 白い部屋でキャラメイクかな? それとも自分にだけ見える神様が語り掛けてくるタイプ?

 なんでもいいもう早くしてくれ!



 【ゲストユーザーの初討伐を確認しました。付与するスキルを決定いたします】



 脳内機械音声タイプキターーーーーーーーーーーー! やっぱりガセじゃなかったんだ!

 信じてよかったぁ~!

 俺がヘヴン状態になっている間も、機械音声は淡々と処理を進めていく。



 【戦果を集計中です】

 うんうん、ゆっくりでいいからね。ゴブリンが一匹~、ゴブリンが二匹~、


 【おめでとうございます。スキル 統率:獣 を獲得しました】

 あ、え、炎や雷じゃなかった……でも雰囲気的にテイミングみたいな感じか! これは当たりに違いない!


 【スキルのチュートリアルを開始いたします】

 っしゃ! キタコレ!


 【エラー スキルの使用ができない状態です】

 OK! 使えないのね! へ?


 【チュートリアルを終了します】

 あの、ちょ


 【ゲストユーザーにステータスボードが付与されます】

 え、終わりなの? え?


 【ユーザー設定を行ってください】



 「誰か助けてくださいっ!」



 俺は数年ぶりに泣いた。





戦闘描写って、なんだぁ?

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