男の人ってみんなそうですよねっ!
四話目です。
久しぶりに玄関から外に出る。
毎日の日課が野鳥との語らいである自然調和型ヒキニートである俺にとって、屋外はそう恐ろしいものではない。
とはいったものの、日々の活動圏は主にベランダから庭先までであり、玄関から外に出るのは食料を買いだめするときと、ゴミを出すとき。以上、解散!
とまあ、なんとも世を捨てた生き様であった。
しかし、世を捨てて死んだように生きる俺みたいな人間失格が、焦ってゴブリンを狩り、生存確率を上げようとしているのは何ともお笑い種だ。
実際、つい昨日までは『フロムの新作も堪能したし、もう思い残すことは無い。あ、でもやっぱりミンサガのリメイクはやりたい』と本気で思っていたのである。
とはいえ、俺も男の子。
男の子ならやっぱり誰もが一度は夢見る『世界最強』……ではく、『剣と魔法のファンタジー』
異常者が力を持つことの危険性やら、力を向けられた際に自衛手段を持つためだとか、うだうだと自分の中で言い訳を探していたけれど。
正直に言おう。俺もファンタジーな力を持ちたくて辛抱たまらんのだ。
手から炎を出し、逆手に持った剣から衝撃波を飛ばし、信者の前で海を割って崇められたかったのだ。三つめは盛った。
結局のところ、色々と取り繕ってはみたものの、あっさりとゴブリンを殺しに行くことを決め、そのための行動を起こしている時点で、俺も先刻の勇者チームも大差ないのだろう。
朝起きたらファンタジーの切れっ端が天から降り注いでいたっていうのに、『周りに右に倣えでお行儀よく避難する』なんて、自分には到底できなかったのだ。
だからこそ、こうして現場に足を向けている。
自然と歩みは速くなる。
視線を上げれば、遠くの山の向こうまで雲一つない青空が広がっている。
雨など降りはしないのに右手に傘を携え、開店前のスーパーに向かっている。
どう鑑みても異常者だった。改めるつもりはないが。
スマホを見てみれば、ゴブリンの団体さんが商品棚を荒し、スナック菓子の袋をビリビリに破っている様子がアップされている。
真っ先に向かうのが鮮魚や精肉のコーナーではなく、お菓子コーナーなのがなんともな感じだが、ゴブリンさん方も我が国が世界に誇る至宝に感じるものがあったのかもしれない。
つーか、この店員さんも、写真なんか撮ってないでさっさと逃げればいいのに。
しかし、日本人は『休む』ということを本気で一度考えた方がいいのではないだろうか。
今日みたいに街中にゴブリンが出てますよ~ってときにも、コンビニは元気に営業していた。
そういえば、この店舗はいつぞやの地震で停電が発生した時も、休めばいいのにまだ薄暗い早朝から予備バッテリーで営業してたっけ。
それで助かったのも、まあ事実だ。
非日常の中に少しでも日常があるということは、精神の均衡を保つうえで重要なのかもしれない。
いや、知らんけど。
さて、目的地のスーパーはこのイイ気分なコンビニの隣である。
コンビニの前を通りがかるが、店内におかしなところは無いように見えた。
それならば。
ゴブリンはまだスーパーに居座っている可能性が高いといえるだろう。
まあ、居なかったとしても、俺がガッカリするだけでリスクはない。
ゴブリンいるかな、いないかな。
ドキがムネムネ高まるパッション。
いざぁ!
俺は半開きになったままの搬入用のシャッターに身体を滑り込ませ……くっ、この、お腹が!
半開きになったシャッターを持ち上げ、堂々と侵入を果たし、咳ばらいを一つ。
「待たせたなっ!」
俺、参上。
夢見たって、いいじゃない。