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ドアの開閉はお静かに

初執筆、初投稿です。



 202X年 六月の晴れたある日のこと。



 むぅ、なんぞ? 朝からバタバタと……



 まだおねむタイムだというのに、近隣住民が慌ただしく動くのが、我が管理する約束されし聖域内にも伝わってきていた。



 ん? あぁ、聖域とは有り体に言ってしまえば築三十ウン年を迎える庭付き一軒家の我が家であり、こうして語る我こそがご先祖様(未だ存命)より聖域の管理者を引き継いだ、三十ウン歳にして今をときめくヒキニート、寺田京太郎である。



 あっ! 痛い! すみませんゴメンナサイふざけました! 来年からは真面目に働きます! だから物を投げないで!



 ◇



 そう、やたら騒がしい朝。そのように表現する他無い。

 というのも。俺の住む住宅街は労働者が二割、その子供が一割、残りは爺ちゃん婆ちゃんという、結構な高齢化を迎えている。

 住む人が居なくなり、家を潰して更地になっている区画も珍しくなく、すこし歩けば見えてくるマンションには、空き部屋の広告がベタベタと貼られているような。ともすれば、閑静すぎると言っても差し支えない平和なエリアなのだ。普段は。



 にもかかわらず、今日は朝から車のドアの開閉音がバッタンバッタン。スライド式のドアを開ける電子音がピーピーピー。出勤時間帯とはいえ、そもそも出勤する人が少ないご近所さん方が、いったい何に駆り立てられて車に乗り込んでいるのか、疑問が浮かぶ。



 普段ならば今の時間、俺はまだ布団の中でごろごろSNSを眺めているか、二度寝をぶちかましているのだが、流石にいつもとは違いすぎる朝に、忸怩たる思いで外界との隔絶をなす障壁を取り払う。

 カーテンを開けた先では、お迎えさんが大荷物を抱え、車の前で喧々囂々やっていらした。



 詳しい会話内容までは判別できないが、「早く乗って」「そんなの置いていきなさい」などの切羽詰まった声から、ただ事ではない気配を感じ、枕元にあったスマホで情報を集める。トレンドに上がっているのは『ゴブリン』『避難指示』『異世界』『モンスター』こんなワード。新しいアニメでも始まったんかい。



 とりあえず現状確認にニュースチャンネルを開く。

 すると、棒切れや石斧のようなものを振り回す、腰布一丁の小鬼達が、スクランブル交差点で人々を追い回している姿が映し出された。


 その光景があまりに突拍子もなさ過ぎて、網膜から脳への伝達がバグったのかとも思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 ワイプの中から噛みっ噛みのナレーター伝えてくる情報をなんとか咀嚼する。

 いつからこの異常事態になったのかや、被害の状況といった詳しいことはわからなかったが、流れている映像は数分前に定点カメラがとらえたもので、今も各地で似たような状況が発生しているという。

 おち、おちおちち落ち着いて、ただちに身を守りゅ行動を! らしいが、まずは君が落ち着け。



 しかし、あの映像は録画か。

 それならライブでさっきの場所を垂れ流しているチャンネルを探そうじゃない。

 お、これなんか良さげだ。

 俺はスマホを横目に顔を洗い、寝起きのぼんやりさんを退散させる。



 ふーむ。これはアレですな。ナウなヤングにバカウケのゴブリンがスキルの経験値で俺無双レベルアップ伝説が始まりましたな。



 寝起きを脱してクリアになった思考がコレとは、我ながら失笑してしまうが、とにかく今はゴブリンである。

 ゴブリンがいるってことは世界がファンタジーになったってことでOK? レベルはあるの? スキルは? ステータスは? そいつら倒したらどうなる?

 気になることは尽きないが、ここで俺が一人で慌てていても仕方がない。

 俺は交差点を元気に跳ね回るゴブリンズに熱視線を送りつつ、どっかとソファーに腰掛けるのであった。



 ◇



 そんなこんなで、地球さんがぶちキレて異世界と融合したのか、はたまたマッドなサイエンティストが産み出した実験動物が逃げ出したのか、大穴で未知のウイルスが人間をゴブリンに変えたのかはわからないが、今までのように腰を落ち着かせて据え置きゲームに向かう暮らしは、どうやら難しくなるらしい、ということが脳内で閣議決定されたのであります。



 こいつ毎年「来年こそ働く」って言ってるな……

 誠に遺憾ながら、続きます。

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