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王子、何も考えていないのは貴方だけです。  作者: 亜鉛
ウェルリンテとスクルビア家
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第八話 ドレイン家

「では、姉様。また今度。」


「ご武運をお祈り申し上げます。具体的な案が見つかれば、こちらでも考えておきます。」


「頼むわ、ではまた次の機会に。」


 玄関まで送り届けて手を振って見送り、姿が見えなくなるとそっと家に戻った。


「ふふ、でもハンスとレイラは似ているようで全然違う反応をするわね。」


 なんてことを言っていると、レイラは出かける準備をしていた。


「もう行くの?本当に休んでいいわよ?」


「ご心配ありがとうございます。ですが、ここまで計画が進んでくると体の方が落ち着かないので。」


「大丈夫、ちゃんとそっちも進んでいるから。」


「ええ、分かっていますよ。今回の協力者というのも……」


「言わなくても合っているわ。ちゃんと上手くいっているから。」


「大丈夫です。でもいざとなれば私のことは切り捨ててもらっても構いませんので……それより今日具体的にどれについての情報収集をすれば宜しいのでしょうか?」


 最初の方が聞き取りにくかったのだが、特に気にも留めず質問に答える。


「一番はやっぱり王子とファリシスさんの関係について、各貴族の動向を探ってちょうだい。賛成派と反対派に分けて、で賛成派の中でも王家と繋がりを持ちたくて近づく連中と、このまま失脚させようとする第二王子派の多分二つに分かれると思うから、それぞれをリストアップしておいて。次にユライン家についても……と言っても今まで結構調べてきたけどあんまり収穫がないからそこまでいいかな。」


「私の力が至らず申し訳ありません。」


「謝らなくてもいいわ。私も自分で調べてみたけど、本当に何の情報も出てこなかったから。まあ、でも今回は『名』を貸すぐらいなんだし、相当動いているということだから何か出てくるかもしれないわ。」


「ご期待に沿えるよう頑張ります。」


「そんなに気張らなくてもいいんだけどなぁ。まあ、無理しない程度に頑張って。ここからはちょっと大変になって来ると思うから。」


 一礼をして玄関を開けて出ていった。


「さて、何をしようかしら。」


 やることは山のようにある。家系図書き換えの案については手紙を送った相手のところに行くためには、色々準備がいるので暫く後だ。この時間を稼ぐために、昨日の婚約破棄まで持ってきたのだから何も支障はない。


「仲良し作戦の方は、あっちの国の情勢の詳細が来るまで一旦待機ね。と、すると……はぁドレイン家についてか。気乗りしないな。」


 ドレイン家、これはスクルビア家傘下の筆頭の家である。そして、今私の母親と父親と妹がそこの本邸住んでいる。現在縁を切っているが。


 前は避けたが、ここからは少し私の家族の話をする。




 先代スクルビア家当主、つまり私の父親ははっきり言ってゴミだった。ゴミとしか形容し難いのでゴミとしか言えないが、性格、考え方全てにおいてゴミだった。


 貴族が絶対だという考え方で、平民に好き放題する。何か罪に問われそうになっても権力を使って他者に擦りつけたり、無かったことにしたりする。反対する者が現れたらすぐ弾圧する。公爵家という身分がその貴族主義という勝手な妄想を加速させた結果であった。


 それに影響されたのが母親と妹だった。元々箱入り娘だった母親は、成人すると同時にスクルビア家当主の妻となった。つまり見ていた大人の姿というのがあのゴミだったわけである。無知だった母親はそれが普通と思い込んで自分の欲望のままに、例えば宝石やら香水やらを大量に買うなど好き放題にしていた。


 妹はそんな母の姿を見て同じように育った。さらに何かと私を目の敵にして嫌がらせをしてくる。まあ、あちらを油断させるためにそれらの嫌がらせは成功したように見せかけているのだが。


 じゃあ私は?と思われるかもしれないが、私は本能的にこの両親のヤバさを理解していた。時には私が変なだけかと思ったが、図書館とか通っている間に正しかったと分かって安心した。


 ちょっと時系列が分からないと思うのでまとめると、まず私が本能的に感じ取ったのが5歳の時。そしてなんとかしなくてはと思って、餌を撒いてこの家から出させて縁を切ったのが9歳、でこの時には王子と婚約を結べるための準備はしていた。そして10、11歳の時に王子に助けてもらうのも失敗だったと分かって計画を練り、今に至る。


 スクルビアが嫌いなら別に家の存続とかどうでもよかったんじゃないか考える、あくまでも私が嫌いなのは家族だけであり、領民には何の罪もないのに住んでいる所を治める家が潰れると、それだけで他の領民からの迫害対象となる恐れがあった。


 それに何より、私にも多少なり貴族としての誇りというものがあり、流石に歴代の当主(これらの人々は名君と呼ばれる人の方が多かった)に顔向けできないからという理由もあった。


「とりあえず、手紙を書いて……今月の収益の偽造版を作らなくちゃ。」


 どんな餌を撒いたのかというと、ドレイン家に行けば今までの借金を私になすりつけることができるという情報を出した。父親は権力の行使や豪遊、母親と妹は高額の化粧水やらドレスやらを買ってお金が残るはずがなかった。


 気づいた時には(気づいたのは三人でこの時私は既に追い出す計画を実行に移していた段階だった)借金まみれで、返せるあてもない。そしてそこで私がさっきの情報を流した。


 ドレイン家はスクルビア家に大きな借りがあるので断ることは出来ない。もし、家が立ち直ればそのまま何食わぬ顔で戻ってこれば良いし、立ち直らないならずっとドレイン家に住めば良いと思ったに違いない。


 すぐさま次の当主を私に譲り、三人でドレイン家に移った。この計画に私が一つ懸念点があったのは、父親にどれくらいの貴族としての誇りがあるのかということだった、もし、あったら家に残るという選択をするかもしれないと思ったが、結果から分かる通り皆無だった。


「こっちがドレイン家当主に渡す方で、こっちがあいつに渡す方と。」


 2つ収益表を作り終えた私は封筒に入れる。


 薄々気づいていた人もいるかもしれないが、ドレイン家と私はグルである。ちゃんと秘密裏に契約を交わしてお互いの利益が一致することも確認済みだ。この家に戻りたくないようにするため、赤字まみれの偽の収益表と、ドレイン家にちゃんと計画に差し支えがないことを示す本当の収益表。


「たまには自分で行く方がいいわね。」


 この収益表を届けるにあたって、最も効果的な服やアクセサリーをつけるために私は部屋へと戻った。

読んで下さりありがとうございました。ブックマーク登録と高評価、是非お願いします。


新規登場人物

・ウェルリンテの元父親

・ウェルリンテの元母親

・ウェルリンテの元妹


上の3人に関しては、後ほど名前が出ます。

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