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王子、何も考えていないのは貴方だけです。  作者: 亜鉛
ウェルリンテとスクルビア家
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第七話 静かな決意

ハンス視点です

 ウェルリンテ様が取り出した封筒を受け取って中身を拝見する。送り主はライランテス聖教会からだった。妹のリシスも覗き込んでくる。


「内容は......聖女最終選別の案内?」


(ん?聖女最終選別と言ったらあれだろ、あの聖女を決めるやつ。聖女を決める大事な儀式だから国家機密並に秘密裏に知らされるもの。それが何故ここにあるんだ?)


「東への視察とか、商談の時に暇を見つけてはちょくちょく試験を受けてたの。そしたら最終試験までこれたっていうのが経緯ね。」


「さすが姉様。凄いです!」


 はっと目が覚めた思いで宛先を見る。そこにはきれいな字で『ウェルリンテ=スクルビア様』と書かれていた。


(いやいや、まてまて。確かにウェルリンテ様は東へ行く頻度が例年より高かった。けど、視察の時間を考えると必要最低限の時間だ。あの時間にどうやっても試験を受ける暇なんてない。後そんなついでみたいな感じで受かる試験ではないはず......勿論ウェルリンテ様の技量を疑ってるわけではないのだが、流石に無理なのではないのか......)


 頭が凄く混乱し、思考が追いつかない。


「あら、ハンス。大丈夫?」


「兄様、姉様のこんなめでたい報告なのにそんなしんどそうな顔をしないでください。たとえ槍が100本刺さってても笑ってください。」


 私の愚妹は事の重大さが分かってないようだから放っておく。もし私達がウェルリンテ様のこれまでの聖女選別試験を見てきたのなら、たとえ槍が1万本刺さってても心から笑うことはできる。が、なにぶんこんな話を聞いたのは今日が初めてだ。


 確かに最終選別までの聖女選別試験は国家機密並に、十分秘密が保たれている。情報網を貴族社会へ結構広げているという自負がある私ですら逃す可能性もある。しかし、こんなにも近くに居たのに居て、自分が命を捧げる覚悟ができている相手だったという事実になんとも言えない敗北感があった。


「......おめでとうございます。一応聞いておきますが偽物ではないですよね?」


「あら、私の実力を疑うつもり?」


 クスッと可愛らしく、妖艶に笑って「ちゃんと確認はとったわ。」と返された。


「では、聖女になられるおつもりですか?」


 少しだけ気持ちが戻った気がしたので、話を続ける。


「いえ、なるつもりはないしそもそもなれないわ。」


「それはどういう......」


「知っての通り選別試験は教養、武術、マナー、聖魔法が主な内容になるんだけど、そのうち聖魔法は最後の方だから大丈夫だったのよね。」


「すいません、私には大丈夫な理由が分かりません。」


 今の会話の何処をとったら大丈夫という結論に行き着くのだろうか。


「ん?そのままの意味よ。私は聖魔法は少し使える程度で難しくなってきたら使えない、ハッタリ程度のものだから。でも最終選別まではそのハッタリで通せるくらいの簡単さだったの。」


「えっと、その私が聞きたいのは他の3つが大丈夫な理由をお聞きしたいのですが。」


「他の3つ?大丈夫だったとしか言いようがないわ。」


「兄様、姉様の実力を疑ってるんですか?こんな兄を持って私は恥ずかしいです。」


 また何か言っているが今は構っている暇はない。聖女の試験がどれだけ厳しいことか、マナーの試験でグラスの指の位置が一つ違っただけで落とされたある貴族の話は有名である。


(そうか、そうだ。ウェルリンテ様は昔からこんなお人だ。ヘルマイド家が私達兄弟が助けられた時も、いつも人間離れされているお人だった。)


「では、どうして試験をお受けになったのですか?」


 納得がいくようばいかないような、気持ちの整理は出来ていなかったがようやく最後の質問をした。


「元々、牢獄にいないのがバレたとき用の対策だったの。」


「確か罪に問われないんでしたっけ?」


「そう、でも昨日ランヒルト様と『名』の交換材料として使えたわ。」


 突っ込みたいけど、突っ込む気力もなくなった。存在自体が七不思議の一つとされているような、あのランヒルト様が何故と問いただしたいが先程のことで精神が疲れた。


「もう一つ理由はあって、最終選別が本部であるのは有名なことでしょう?」


「そうですね。」


「で、タルイテ家の家系図は本部に保管されていることが分かってる。」


「本部に保管されているのは王族や公爵家並の家格のはず……確かに工作員の家系なんて見つかってはいけないですからね。理にかなっています。」


「具体的な案は決まっていないけど、今回は他国の協力者にも手紙を送って頼んでおいたわ。その最終選別の時に書きえる予定よ。」」


「……今回はどんなビックネームが出てくるんでしょうね。」


「ふふふ、それはお楽しみよ。」


 ウェルリンテ様に長年行動を共にしているが、毎回協力者が凄い人ってことが多い。どんなに人脈が広いのか、どうしてそんな人脈を築けたのか、疑問は尽きない。大体の貴族は親の人脈がそのまま引き継がれることが多い。公爵家だから多いのではと思われる方もいるかもしれないが、完全なる間違いである。


 ウェルリンテ様の家族は、傍目からみても酷いと思うような感じで、代々築き上げてきた人脈などとうの昔に崩れ去っていた。だからウェルリンテ様は、自分の家族を他家に誘導して当主となってゼロから人脈づくりを始めた。何が凄いのかというと、当主になったのが9歳。そして当主になって一ヶ月で、代々築き上げてきた人脈以上のものを一人で作ったことだ。その後私達も拾われた。


「では、この話はおしまい。」


「兄様もようやく姉様の魅力を認識しましたか?」


「リシス、少し静かになさい。後ウェルリンテ様は貴方の姉ではありません。」


 久々に注意した気がする。


「いいわよ、私もそのほうが楽だから。公式の場できちんと間違えなければ。」


「はい、姉様。」


 本当に分かっているかどうか怪しいが、妹も馬鹿ではないので大丈夫だろう。


「私達の理想,家の存続の為に頑張りましょう。」






      他の声と何ら変わりないが、嘘だとわかる。


(この方の理想は家の存続ではない。)


 最近薄々感じていた。ウェルリンテ様が理想を語るときの眼は、家の存続何て生易しいものを見る眼では無かった。


(たとえ貴方様がどんな理想を抱いていらっしゃったとしても、私は命を懸けて叶えるお手伝いをします。)


 今後の方針が決まった大事な会議。そのうちの一人は静かな決意を胸の内で誓った。

愚妹という言葉は多分ありません。

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