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王子、何も考えていないのは貴方だけです。  作者: 亜鉛
ウェルリンテとスクルビア家
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第五話 束の間の休暇

5話目の内容のままだと話が進まなかったので、再提出という形をとらしていただきました。


 自分の顔に朝日が当たっているのに気付いて目が覚める。


「お嬢様、朝食の準備が出来ております。」


「ええ、ありがとう。今行くわ。」


 あれだけの騒動が起きても、朝はやってくるのだなとしみじみ思う。いつも通り寝間着から、簡易の服に着替えて朝食を摂る。


「レイラ、とりあえずリシスとハンスを呼んできて欲しいの。そしてそれが終わったら、王宮で情報収集。ついでに誰かと会ったら、リシスとハンスに伝えたことを話しておいて。」


「かしこまりました。」


 本当は他の協力者にも直接話したいのだが、今私の屋敷に来るとどんな噂が立つか分からないからレイラに伝えて貰う。前にも言ったが、レイラは諜報活動が得意でよく王宮のメイドに紛れ込んで情報収集をしてもらってる。


「昼までは、誰も居ないわね。」


 この屋敷には私とレイラしかいないが、レイラはヘルマイド領へ行っているから昼近くまで帰ってこない。


「少し、掃除でもしますか。」


 とりあえず、王家側から形式上貰った指輪を全部机の上に置く。


「ざっと白金貨120枚くらいかな?」


 お金の話をしていなかったから言うが、貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の順番で高くなる。銅貨10枚で銀貨、銀貨100枚で金貨、金貨100枚で白金貨になる。一般男性が年に稼ぐのが金貨10枚くらいだ。


「私が着けても何の意味もないからね。」


 自嘲気味に言う。決してカイルスに未練を持っている訳では無い。ツンデレでもない。理想を追求している私にとって色気沙汰はとっくの昔に捨てた。


 その他にも王家から貰った魔道具やらなんやらを物ごとに袋分けしていく。後でいつもの換金している所に持って行く。まあ、多分ヘルマイド兄弟に持っていって貰うと思うが。


「大体終わったから......今の内に日課だけしておこうかしら。」


 動きやすい服に着替えて日課のトレーニングをする。とりあえず10kmだけ走ってから、その後素振りを2000回。習った王宮剣術の型を2巡してから、魔法の鍛錬をする。運動をして息が上がっている状態で魔法を使えるように集中すると、コントロールが上がるらしい。師匠曰く魔法を使う人は、魔法にかまけてばっかであまり運動しないから上達しないのだそうだ。


「ふっ......はっ......ふっ」


 一通り終えたところで少し休憩を挟む。野菜を潰した飲み物を片手に、見慣れた庭を散策する。この庭は、私の家族が餌につられて他領へ行った時一緒に庭師も連れて行ったので荒れ放題だ。別の庭師を呼べという話かもしれないが、基本的に屋敷には誰も居ないから盗難にでもあったら困るので、呼んでいない。餌をぶら下げたのは私だから文句は無い、そもそもこの庭は私の趣味に合わない。


 とっさの時の対応と暗殺術だけを復習して今日の日課は終わりである。太陽の位置的に多分後2時間程暇だ。


「久しぶりに、街の視察を......でもお忍びの方がいいわね。」


 ルイト王国の北に位置するスクルビア領は、農業が盛んで耕作地も国内最大。街の方では銀細工も盛んだ。屋敷の後ろにある森を抜けると、すぐにスクルビア最大の街サンデリヌ着く。


「前は......3年前か。ふふっ変わらずに活気があって嬉しいわ。」


 ボロボロの服を着て、その上にフードをかぶって身を隠しながら街の中を歩く。大通りでは屋台が立ち並んでいて、大きな呼び声が聞こえてくる。街の中心部にある噴水の周りでは、子供達が走り回っていて微笑ましい。


「ええと、ここを右だったわね。」


 薄暗い路地に入る。あてもなく屋敷を出たわけではなく、ちゃんと目的があって来た。右へ左へ入り組んだ所を進むうちに目的の場所へ着く。そこにはいつものように透き通った海のような蝶がいた。周りは暗いというのに、その体は神々しさがあり神獣のようだといつも思う。予め用意しておいた手紙をそっとその体に当てると、溶け込む。


「今回もよろしくね。」


 そう言って羽を撫でると蝶の体はすっと消える。これは私の協力者の一人との情報交換の際に使う。普段はレイラにしてもらっているが、今回は暇だったので自分でする。


「丁度いい時間かしら。」


 路地から抜け出して帰りを急ぐ。


 何年ぶりか分からない休暇が終わった。そう思っても何も感じない自分がいる。自分の目的のため奔走する毎日で感情が擦り切れてしまったのか、それとも前世からこんな性格だったのか。


「もし前世というものがあったのならば......私はどうだったんでしょうかね?」


 誰もいないのに変なことを呟く。


(まだ疲れているのかしら、気を引き締めないと。)


不安を振り払うようにして私は屋敷への道を駆け抜ける。


「双璧か……彼らも成長したものよね、彼らとも長い付き合いになるのか。」


 一般の貴族が、私がリシス達と出会った時の彼らを見れば、現在「双璧」として畏れられている彼らと同じだと思う人はいないだろう。


 内政に優れており、若いながらも様々な交渉において巧みな話術を生かして最善の策を導くハリス。可愛い見た目とは裏腹に、王宮剣術免許皆伝を最年少で成し遂げたリシス。このヘルマイド家は子爵位でありながら貴族同士の会話の中に話題として度々上がってくる。


 そんな人気の子爵家と、没落寸前の公爵家とが手を結んでいると誰が思うだろうか


「ウェルリンテ=スクルビアただいま戻りました。」


 昨日言いそびれたことを全て話すために、理想を追い求めるために、信じるものを信じるために私は扉を開けた。

読んで下さりありがとうございます。


新規登場人?物

・碧蝶

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