第四話 お嬢様の人物像
今回はレイラ視点です
ランヒルト様がお帰りになって、ようやく私とお嬢様はほっと息をついた。
「お嬢様‼流石ですね、あのランヒルト公爵家当主様から『名』を契約の対価として払わせるなんて。」
本当に凄いことだ。主人の自慢というわけではなく、それ程貴族において『名』は重要なものなのだ。『名』を預けると言うことは、つまり相手に自分の家の存続を任せるということ。普段王家が貴族に重要な国策を任す時などに使う。
「でも、やっぱり怪しいのよね。あの時の言葉も目的のためなら、家の存続などどうでもいいと言うことかもしれないし......」
お嬢様が疲れている時に出る悪い癖が発症している。疑わしいことがあるとすぐに悲観的になられるのだ。貴族にとって家の存続が自分の命よりも重要なことは、お嬢様が一番お分かりになっているはずなのに。
「お嬢様、今日は色々なことが御座いました。今から考えるのも宜しいですが、今日はもうお休みになられた方が良いかと。」
「......分かった。そうするわ、ありがとうレイラ。あ、でも手紙の内容だけは貴方に教えておく。」
そう言って例の手紙を私に渡してくる。あの交渉に使える情報だ。よっぽど凄いのだろうと予想はできる。
「差出人は、ライランテス聖教会ですか。」
ライランテス聖教会はこの大陸で最も信仰されている宗教。ここルイト王国から東へ行った所にあるライランテス市国が本拠地。これはまたビックな名前が出てきた。
「内容は............え?聖女最終選抜へのご案内?」
「うん、そう。暇を見つけてはこっそり行って聖女の資格を満たしてたんだけど、ようやく最終試験までもってこれた。」
え?お嬢様、聖女の最終選抜ですよ。分かってますか聖女ですよ?
「そんなに疑わしい顔をしなくても、この手紙は本物よ。」
聖女とは、ライランテス教会において序列から外れた存在。上から順に教皇、枢機卿、大司祭、司祭......と色々続いていくが、聖女のどの階級にも属さない。一般教徒から教皇までどの身分からも平等であり、誰よりも上でないし誰よりも下でない。とは言っても教会内では圧倒的な発言力をもつ。
そして、聖女になれば元々がどんな身分でも各国の王族とか貴族より上に立てる。故に、聖女になるための試験は並大抵のものではない。以前聖女になった人がいたのは、300年前。だから、暇を見つけてとかそんなレベルでは無理だ。
「いや、でもですよ。確か聖女の試験は教養やマナーは勿論のことながら、武術や魔法についても長けてなければならなかったはず。特に聖魔法に関して。」
聖魔法は魔法の中でも特殊なもの。浄化に関する魔法で、良く水系統の魔法とごっちゃにされやすいが、全然違う。私が水の魔法については国内でもトップクラスの実力を持つくらいなので分かる。
「武術に関しては、昔王族の近衛隊隊長に習ってたからどうにかなった。一応毎日トレーニングは欠かさずやっているからね。聖魔法に関しては、少し伝手があったから。」
知っている。お嬢様はどんなに忙しくても毎日欠かさず武術の鍛錬を怠っていないことを。リシス様には悪いが、お嬢様には王宮騎士が束になっても多分かなわない。しかも、ただ単に武術のみで考えたときだ。それに魔法も加わるとなるとどうなるかは分からない。
「そもそも、聖女になる気は無いからね。だから聖魔法は見掛け倒しで良かったし、聖女の最終試験前の特典さえ貰えれば後はどうでも良かった。」
「ええ?すいません、お嬢様。私は良く分からないんですけど。」
「聖女の最終試験の前は、絶対に罪に問われることはないことになっているの。昔、聖女の最終試験の前に冤罪をかけられた聖女候補の人がいたから、対策としてこうなった。多分聖女候補の人がまさか罪なんて起こさないだろうって思われたから今でもあるんだろうね。」
納得する。確かにそれなら、もし仮に牢に居ないことが分かっても大丈夫だ。というかお嬢様、教会にはったりかますなんて大丈夫なんでしょうか?教会から睨まれたらそれこそ終わりでしょうに
「ん?ああ、はったりのことについて聞きたいのね。大丈夫、意外に最終試験の前までは武術とか教養が中心で聖魔法についてはあんまり重視されてないの。だから、私みたいにちょっとしか使えなくても誤魔化せる。流石に最終試験では、聖魔法についてばっかりだから無理だと思う。」
「しかし、最終試験に行って帰って来たらその時にまた牢に入れとか言われるかも知れませんよ。」
「それは教会から催促が来ても、のらりくらりかわして行けば結構時間は稼げると思うわよ。」
もう分かった。私の負けである。何に負けたかは分からないが。そもそも最終試験の前まで行けるぐらいの教養やマナーを身につけていること自体、可笑しい。
「......分かりました。ではますます忙しくなるかも知れませんし、今日の所は早くお休みになって下さい。」
「じゃあ、お風呂入るから準備してくれる?」
「かしこまりました。」
本当に私の主は凄い。
お嬢様の後ろ姿を見て、いつ見てもあの髪色は綺麗だなと思う。少し緑が入ったつやのある黒色、まるで心地よい夜みたいだ。体も全てのバランスがとれているとしか形容がし難い程、腕と足はすらっと伸びていて、肌の色も大理石をのように透き通っていて綺麗だなと思う。自分の主だからという意見もあるかも知れないが、美の代名詞と本気で呼べると思っている。あの糞王子はなんでお嬢様を嫌いになったのかは分からない。お嬢様曰く「カイルスは可愛い子が好きだから。特に、胸が大きくて幼さが残るような子」らしいが......まあ、別にあいつにお嬢様の魅力を理解されなくてもどうでもいい。
私はお嬢様がお風呂場へ行くのを見送りながら、着替えの用意を準備しておいた。
読んでくださりありがとうございます。主人公の描写をしていなかったと思い付け加えました。