第一話 もう少し賢くなって下さい
読もうと思っていただきありがとうございます。最初なので長めです。
「ウェルリンテ。貴様との婚約を破棄する。そしてファスに対して行った悪行の数々をここで断罪する!」
ルイト王国魔法第一中等学校の卒業式。沢山の卒業生やその保護者が集まって先程までは賑やかだったが、今は静まりかえっている。
次期ルイト国王の第一王子カイルス=ルイトが弱小貴族のファリシスことファスを腕に抱いて、婚約破棄を言い渡しさらに何やら面白いことを言っているからだ。
そして婚約破棄された私、つまりウェルリンテ=スクルビアは溜息をつきたくなった。
(一応王族として、最後の義務ぐらいは全うしてくれると思ってたのですがね。......まあ、仕方ないです。)
辺りの皆は好奇に満ちた目でこちらを見てくる。この人達はどうなるのだろうか、と完全に他人事でだ。しかし、状況次第で一夜にしてこの国が滅びてもおかしくは無い。
(あっちの第二王子はこの後すぐに第一王子の貴方を追放する気満々ですし、そこにいる宰相は独立宣言の決意書まで持ってきています。そして、貴方にまとわりついているその女はラグレビア国の工作員です。後、貴方の後ろの侍女は貴方に向けての誰かからの暗殺者です。はあ......ここまで情報収集をとは言いませんが、もう少し賢く成られても良かったのでは?)
こうは言っても、全て想定内だった。とするとプランAを続行するのがこれからの計画を成功において不可欠。だから悪役令嬢の役を全うすることである。
「殿下、私はその男爵令嬢に教育をしただけですわ。未来の国王に近寄るなと。」
「お前がやってるのはただの権力に物を言わせたいじめだろう!まだ騙し通せると思っているのか!池にファスを突き落としたのはどういうわけだ?」
「私はそんなことをしておりません。」
まあ、本当にしていないのだが。どうせ証人を呼ぶだろうからそれに合わせる
「はあ...お前がここまで愚かだとは思ってもみなかった。証人をここに連れてこい!お前は権力で全て消したと思ったのだろうがな、勇気を出して本当のことを言ってくれた令嬢がいる。」
言われてやって来たのは、弱々しくてどこか守ってしまいそうな女性だった。
「私は......あの夜、見ました。ウェルリンテ様がファリシス様を池に突き落としたのを。見たのがばれた私は、ウェルリンテ様に言ったら家を潰すって言われて......どうしていいのか、分からなくて。」
「なっ。」
驚くふりはしたが、この証人を用意したのは私だ。この言葉を信じて貰えるようにはかなげな令嬢に頼んで、泣きそうな声でと注文もつけた。この分だと、ボーナスをつけてもいいかも知れない。
「何も言い返せないのか。やはり、お前がやったのだろう。他にもある階段から転げ落とさせたのはどうなんだ?これも証人はいるぞ。」
「っ、それは...」
先に言っておくが、残りの証人を呼ぶ回数はこれを含めてあと2回だと思うが全て私が用意した証人だ。この馬鹿はこれだけ言っておきながら、自分から調査をしようとすらしていない。その分このような流れに持ってくるのは楽だった訳だが
「そろそろ、自分の立場を理解したようだな。でもここにいる全員に、いかにお前が悪女か知らしめるために証言を聞いてもらう。」
(言わせてもらいますと、多分その工作員は身のこなしが軽いでしょうから階段から落としてもきちんと受け身をとって無傷で済みますよ?)
そんなことを考えていると次の証言が始まった。
「私は使用人でした。だから、言ったら家族ごと殺されると思って言わなかったんです。......けど、それだとあまりにもファリシス様が可愛そうです、あんなににも優しいのに。私はここで証言しますウェルリンテ様はファリシス様を階段の上から突き落としました。」
周りから私に向けて、敵意やら侮蔑やらの視線が向いてくるが気にしない。それより演技に徹することを意識する。
「......」
黙って下を向く。今ので多分この話の信憑性が増したんじゃないだろうか。
「もう何も言い返せないのか、愚かを通り越して哀れだな。最後に学校内でのファスに対してのいじめについてだ。自分の能力がどうしてもファスに対して届かないから嫉妬していじめたのだろう?公爵家という権力を使ってまで。」
一気に敵意の視線が増した。学校とは将来において特に社交の面でとても大事になってくる。なので、暗黙の了解として権力の行使は御法度とされていた。破れば結構白い目で見られる。
(一番行使してたのは貴方ですけどね、王子。平民の者達には威張り散らしてましたし、教師にまで王家の名を使おうとしていたでしょう。私が消してなかったらどうなっていたことか。)
そんなことはおくびにも出さない。何も言わないまま下を見続ける。
「この証人は今までで一番説得力がある。お前の取り巻きの一人、エルサイデ伯爵令嬢だ。」
はっと周りが息をのむ。取り巻きと言うことは私の家と関わりが深いと言うことが分かる。それなのに裏切るということは、相当な決意を持っていると思わすことが出来る。
呼ばれた彼女は前に出てしっかりとした口調で話し出す。
「私は......過ちを犯してしまいました。自分の家のことで精一杯で人間として守るべき何かを失っていたような気がします。しかしファリシス様は、どんなに私達から教科書を破られたり物を隠されても前を向いている方でした。それで気づかされてのです、私達が間違っていたと。私はどんな罰を受ける覚悟を出来てます。.......決して、ウェルリンテ様を赦さないで下さい。」
ぱらぱらと拍手が聞こえる。自分の保身に走らず、覚悟を持って発言したのだ。感嘆の声もあちこちから漏れる。私も拍手を送りたい
(始まる前は「ウェルリンテ様の悪口など嘘でも言えません‼」とか言っていたから、心配したけれど良くやってくれました。)
「これで分かったな。お前が将来国母と成る未来は絶対にあってはならない。衛兵この悪女を牢に放り込んでおけ!」
「はっ!」
二人の衛兵が前に出てくると、私の腕を掴んで引きずる
「待って下さい。私は......」
最後まで演技は忘れない
「まだ騒ぐのか、口を塞いでおけ。」
衛兵に口を防がれた。そしてそのまま扉の外まで連れて行かれる。後ろを見ると第一王子とファリシスが周りから祝福されている。ちゃんと計画通りに進んだようだ。
二人の衛兵は私をある馬車の前まで連れてきた。そこでようやく手を離す。
「ご苦労様。だれが見てるか分からないからね、一応ここまで引きずって貰ったけど重かった?」
「いいえ、お嬢様は鳥の羽のように軽かったです。」
「ふふっ。お世辞でも嬉しいわ。貴方たちも気をつけて帰りなさい。」
「はっ!」
もちろんだがあの衛兵も私が用意した。少しのびをして、馬車に乗り込む。
「お嬢様‼お怪我はありませんか?どこか体調は?お腹は空いていませんか?」
私にお節介を焼いてくれるのは侍女のレイラである。
「ええ、大丈夫よ。全部計画通り。」
「にしても、あの糞王子は本当に最低ですね。お嬢様の素晴らしさも見抜けないなんて。」
「私が嫌いになるように仕向けたのよ?嫌いになる方が当然でしょう。」
「それもそうなんですが......ああ、お嬢様の天才ぶりをとるか魅力をとるか私には決めかねません。」
今は変なことを言っているが、普段は本当に優秀である。情報収集は主にレイラが担っている。
「そういえば、お嬢様。私は馬鹿なのでイマイチこの計画の全容がつかめないのですが、これからどうするおつもり何ですか?」
馬車に揺られながら、レイラが私に聞いてくる。それについてはいくつか案があるが、これからどう転ぶか未だに分からない所もある。今日はとりあえず二つの計画を阻止して、時間を稼ぐのが目的だった。
「そうね......帰ってから考える。お茶でも飲みながら。」
「そうですか、それならお嬢様の好きなブライスル領の茶葉が手に入ったので帰ったらすぐに煎れますね。」
今日は流石に少し疲れた。たまには息抜きも必要である。私はうとうとしながら、自分の領地スクルビア領へ戻った。
読んでいただきありがとうございます。
新規登場人物
・ウェルリンテ=スクルビア
・カイルス=ルイト
・ファリシス
・エルサイデ伯爵令嬢
・レイラ
ファリシスの家名は後ほど登場します。エルサイデ伯爵令嬢の下の名前も後ほど登場します。