第十七話 それぞれの影
凄く短いです。
「大罪人、ウェルリンテ=スクルビアには国外追放を言い渡す。文句はあるまいな?」
「ええ、寛大な処置に感謝を申し上げます。」
聖女候補の特典を最大限使って国外追放になるように仕向けたことが成功して、ホッと胸を撫で下ろす。幽閉でも良かったが、国外追放の方が何かといいのではないかと思い、変えた
前の卒業式の日と同じ位の人達が一斉にこちらを見る。前のように好奇の目では無く殆どが敵意。偶に同情もあるが数は少ない。
もう一度ぐるりと見回す。様々な貴族が集まっているが、その中には見知った顔も多くいる。
リシス、ハンス、ライラスやワンリルなどはこれも計画の一環であると伝えてあるのになおも心配そうな顔をしている。ファリシスは押し付け役が居なくなって焦っている顔。カイルスは未だに薬の効果が抜けきっていないのでここにはいない。そして、一番注目したいランヒルトに関しては全く感情が読めなかった。
「では連れて行け。」
大部分の貴族から見れば国外追放というものは実質死刑であることに変わりはないのだが、ウェルリンテは全く怯える素振りも見せず、凛と背筋を伸ばして連れられてゆく。
「ガチャン」と荘厳なこの扉が閉まるのに似つかわしい音と共に、ウェルリンテの今までの軌跡に完全な終止符が打たれる。
この日、スクルビア家当主スクルビア=ウェルリンテが国外追放となり、さらには跡継ぎがいなかったことによりスクルビア公爵家はその長年の歴史の幕を降ろした。
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「行ってしまわれましたね。」
ウェルリンテが完全に見えなくなりぞろぞろと帰り始めてもなお、全く動こうとしない自分を含めた四人に対してハンスが語る。
「ここにいる者なら誰しもウェルリンテ様がご無事であることは分かっているがな、やはり心配になる」
国外追放が計画の一環であることは聞いた。一度公爵家としての身分を捨て、平民として学園に忍び込むことも。その為には国外追放が必要であることも。
それでも、それでも、心配になる。自分より遙かに上に立つ存在でも、あの方も人間であるから。
「では、帰りましょうか」
最後の4人が帰った後の誰もいない裁判所。猫の声のような音が聞こえたのは気のせいかもしれない