第十六話 私の復讐
ウェルリンテが服を赤に変えた後、ライラスに闇魔法を説明した時点で白に戻すという表現を15話に付け加えました。
レイラ視点です。
自分の気づかぬうちに涙が溢れた。一度は命を絶とうとさえ思ったが、この復讐を糧にしてようやくここまで追い詰めることが出来た。
「ところで、ウェルリンテ様自身はどうなさるおつもりですか?」
ひとしきり泣いた後、涙を拭きながら尋ねる。いつ見ても、何もかも見通すような目をしているウェルリンテ様は考えていることは分からない。
「……そうね、ひとまず私を殺人犯に仕立てる。」
「……え?」
自分の主に対して発するべきではない言葉を発してしまったが、今回ばかりはしょうが無いのではなかろうか。あの夜のことといい、今言ったことといい、どうしてこんなにも無実の罪を着たがるのだろうか。
「カイルスへ殺人未遂を犯すことで、一生幽閉の判決を貰う。王族だからね、普通なら死刑だと思うけどそこはなんとかするわ。そうして別の身分をつくってから行動する。」
「つまり、完全に身分を隠すということでよろしいでしょうか?」
「そう。恥をかかされた腹いせという動機もあるから世間も信じやすいでしょうし。」
「動機ではなくて、大義名分で良いのでは?」
「ふふっ、それもそうね。」
あいつは、やること言うこと全て悪だから、その悪の不利益になることは全て正しい。
「では、私は証拠を作って置いておけばよろしいのでしょうか?」
証拠の捏造はよくやることだ。毒殺ならスクルビア産の毒草を、刃物による暗殺なら指紋付きの物を用意すれば良い。
「いや、今回は本当に瀕死にさせるから。流石に腹が立つからね。どうせ殺人未遂犯になるのなら、実際にやっておく方が得だから。」
そう言うウェルリンテ様の顔はどこか幼い子供を見ているような気がした。
「具体的にはいつ、何をなさるのですか?」
「今晩……と言いたいところだけど、準備も必要だから明日の夜ね。殺人未遂は毒でするつもり。丁度、暗部の人達が試したい新薬があるって言っていたから、致死性が無かったらそれを試すわ。」
チラッと頭の中に暗部の開発部の人の顔が浮かぶ。控え目に言って変人しか集まっていないあの場所で、あの人達が喜々として新薬の感想を待っている様子が目に見えるようだった。
「最後に一つ。身分を隠した後どうなさるのですか?」
先程言っていたように、ファリシスさんと"仲良く“なる他にユライン家や外国の情勢を把握しなければならない。特に、"仲良く”なることは今後の計画の中核である。
「ああ、そのことね。……王都の高等学校に入れば全部解決するわ。」
「……確かにそうですね。」
学校は貴族社会の縮図。高等学校のそれも王都の学校となれば自ずと情報が入ってくる。そして、その情報を持っているのはまだまだ子供である生徒。貴族から情報を聞き出すのは難しくても、まだ半人前から聞き出すのは容易である。
因みに、現時点で貴族の当主となられているウェルリンテ様は異例中の異例だ。普通、高等学校を卒業し更に王宮のどこかの役職に入ったり、自分の家の当主の秘書として数年間経験を積んだ後引き継ぐことが多い。
それは置いておいて、学校に行くメリットとしてもう一つ、ファリシスさんに近づけるというものがある。ルイト王国魔法第一中等学校の卒業生は、ほぼ間違いなく王都の学校に入学する。第一王子派の貴族の身分に偽装することで、運が良ければタルイテ家のパーティーに呼ばれれるかも知れない。
「やはり、第一王子派の貴族の身分に偽装なさるのですか?」
「いや、特待生枠で行く。」
「え……」
高等学校は貴族のみが行くとされているが、特待生枠として平民でも行くことができる。ただ、合格倍率1000倍と言われていて5人程受かる年もあれば、1人も受からない年もある。
「王家に対して殺人未遂が行われたら、少なくとも一年は守りが固くなるはずなの。王家の貴族への監視も高くなるでしょう。それならば、あまり警戒されない平民として身分で行く方がいいわ。」
「……分かりました。では、特待生枠にウェルリンテ様の分を学校側に手配しておけばよろしいでしょうか?」
「ええ、お願い。あ、けれども試験は受けに行くわ。試験会場に顔を見せなかった人が入学しているなんて変でしょう?ついでに、学校にいる間に使えそうな人を探すつもり。」
「かしこまりました。では、そのように伝えておきます。」
手持ちの紙で学校側に宛てた手紙を書く。王都の学校はいかなる権力も行使されない場所とされ、王家すらあまり口出せないのだが何故かウェルリンテ様は繋がりがある。そのことを尋ねても「あそこと繋がりを持ったのは、私のコネクション作りの中でトップ10に入る位大変だったわね。」と言ってはぐらかされた。
「言うの忘れてたけど、多分何人か無理矢理入れると思うけどそもそも合格だった人は入れてあげなさいね。と、手紙に書いておいて。」
「かしこまりました。」
そのことも書き加えて手紙が完成する。最後にスクルビア家を証明する印を押す。印は貴族でいうと『名』の次に大事で、普通は自分の屋敷で丁寧に保管され重要な手紙や書類などに使われる。しかし、ウェルリンテ様は「貴方の立場上良く使うでしょう。だから、貴方に預けます。」と言われて預かっている。
「終わりましたので、用がないのなら帰りましょうか。」
「そうね、お茶も飲み終わったし帰るわ。先に馬車の用意をしておいてもらえる?可哀想だから、セルビアに会いにいってくる。」
「かしこまりました。」
そう言って、私は一足先に外へ出た。
『名』とは概念的な魔法と思っていただければ大丈夫です。