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王子、何も考えていないのは貴方だけです。  作者: 亜鉛
ウェルリンテとスクルビア家
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第十五話 裏の人

第一話において、高等学校の卒業としてあったのですが、中等学校の卒業に変更しました。

「じゃあ、まず何故ガルハンデ家は王子を狙ったと思う?」


「それは……婚約者であるウェルリンテ様の失脚を狙って?」


「そう、建前ではね。」


 王家の者が殺された場合……というか貴族が殺された場合、殺された人と結婚又は婚約している人は責任問題に問われる。これは貴族のしきたりであり、どうあがいても助けることなど無理な時(丁度私のように牢獄に入れられているような場合)でも責められる。


「と言いますと?」


「話は逸れるけどね、私の暗部が戦った傭兵の集団は異様に強かったの。伯爵家ごときが頼めないほどには。」


 10分で制圧したと言ったが、逆に私の部下の力ですら10分もかかった相手であると言える。そんな傭兵は国内で私が把握している限り、1、2しかない。


「……裏に誰かいると?」


「多分ね。」


 そして確かめたが、国内の傭兵では無かった。つまり、国外である可能性が高い。


「誰かは予想はついていらっしゃるのですか?」


 ついてはいるが、言うべきかどうか迷う。確信があるわけではない。


「確信は持てないけどね、私がこの人かなと思っているのは……」


 私が告げた名前にライラスは目を見開く。


「でも、あの方はウェルリンテ様の協力者だったはずでは?」


「だから、ライランテスの本部での家系図書き換えの際に餌をぶら下げておいたの。」


「……その……大変申し訳無いのですが、その家系図書き換えの件を私は存じ上げないのですが。」


「あれ?レイラから聞いてない?」


「はい、レイラ様は2ヶ月前この反対派にするための計画の進捗度合を確認しにいらっしゃってから、一度もいらしていません。」


 そこまで言い終わると門番が外から戸を叩いた。


「入れ」


「はっ、ハルス=ヘルマイドと名乗る者が招待状を持っていらしたのですが」


 私とライラスは顔を見合わせた。私が頷くと、意図を汲んでくれたのか頷き返した。


「……ここへお連れしろ。」


「はっ」


 しばたくすると門番に連れられてレイラがやって来た。そう、レイラは王宮で仕事をする際の身分はヘルマイド家で登録してある。レイラは貴族でなく本来なら王宮で働けないので、借りているという訳だ。


 無表情でついていたレイラは私がいるのを見ると、驚いた様子で駆け寄ってきた。


「ウェルリンテ様、どうしてここに?」


「元々収益表を渡すために来ていたんだけど、色々あったから。」


 そう言ってこれまでの経緯を話す。


「なるほど、なるほど……賛成派にしたということですね。それならば今日のことは伝えておいた方が良かったですね。私はてっきり今日ぐらいはお休みになられると思って、伝えていませんでした。……闇魔法のことは後で聞いてもよろしいでしょうか?」


 最後のところだけ私にだけ聞こえるように言ってくる。そして、「この後は何をいたしましょうか?」とはっきりとした声で言う。


「じゃあ、ライラスに家系図の書き換えの件の計画を伝えておいて。」


 かしこまりました。と言ってからレイラはライラスの方を向いて話し始める。途中で「ええ、ええ、そうなる気持ちも分かりますが本当なんです。本当に隙間時間でしか試験を受けて無いのです。」という声も聞こえた。話し終わってから少し放心状態だったライラスは、すぐに気を取り直して私に質問をしてくる。


「そして結局闇魔法は何だったのですか?」


 闇魔法という言葉にレイラは肩を震わせる。


「見せかけよ。光魔法と暗黒魔法を使って、闇魔法を使ってるように見せかけただけ。何故見せたのかと言うと、さっき言った今回の裏にいるあの人を確実にあぶり出すため。闇魔法を使ったらユーリエストは絶対にその人に報告するでしょ?そうなったら何が何でも私の正体を調べようとするはずだから、ボロを出したところを捕まえればいい。ほらね。」


 そう言って魔法を解くと、服は元の通り白に変わった。神妙な面持ちだったライラスは少し表情を和らげた。


「では、ウェルリンテ様は闇魔法はお使いになることができないということですね。」


「ええ、そうよ……何故そんなに嬉しそうなのよ。」


「いえ、闇魔法をまでも使われたら今後人間として接することができるか怪しかったので。」


 「聖魔法を使えるだけで人間離れしていらしているのですがね」と付け加えながら言った。話し終わると部屋には束の間の沈黙が訪れた。


「……ええと、ではこのあと私はどうすればよろしいでしょうか?」


 沈黙が居たたまれなくなったライラスが声をあげる。私とレイラはこういう沈黙が割と好きなので、ちょっと残念だ。


「そうね……大きな懸念は全て片付いたから、今の所次の目標である書き換えの時までは特に無いわ。それまでは情報収集に力を入れておいて、何かあったら連絡はするわ。……あっ、そうそう収益表は貴方から渡しておいてちょうだい。流石に疲れたわ。」


 そして、ずっとポケットに入れていたニ枚の収益表を出して渡す。


「承知しました……聞きそびれていたのですが、いつその書き換えは決行するのでしょうか?」


「ぴったり3年後。あ、嘘。3年と1日。」


「明日の3年後ということですか?……もしかして、高等学校の卒業式ですか?」


「そう。それまでにファリシスさんと仲良くなって、ユライン家とか外国の情勢を調べておかないといけないから、案外準備期間としては短いけど頑張ってちょうだい。」


 若干遠い方を向いているが、仕方がない。頑張って貰うしかない。


「まあ、少なくとも明日は娘の晴れ舞台をしっかり見届けなさいね。」


「……はい。」


 明日はセルビアが高等学校を卒業する日。私がこの仕事をライラスに任せた時、しまったと思った。どう考えても卒業式までに間に合う仕事量では無かったからだ。気付いた時に、違う人に代わっても良いと言ったが、笑いながら「ウェルリンテ様の仕事を断ったほうが娘に叱られます。最悪断ったからという理由で卒業式自体休みかねません」と言って仕事を続行した。


 そして、卒業式までに終わらせた。このことは本当に誇って良いと思う。


「では失礼します。お好きな時にお帰りになって下さい。」


 私とレイラが残される。淹れてくれたお茶が美味しいので、とりあえずこれだけは飲み干そうと思っていたところ


「ウェルリンテ様、闇魔法の件ですが」


 と、レイラが尋ねてくる。この静寂が好きなレイラにしては珍しいことだったが、しょうが無いと言える。何しろこのために今まで生きてきたと言っても良いのだから。


「勿論、貴方が真っ先に疑われるでしょう。死体が無かったのは貴方だけだったのだから。でも、3年。3年逃げ延びたら貴方の勝ちよ。そして、絶対に私が守ってあげる。」


「……はい、ありがとうございます。」


 必死に涙を堪えて言葉を捻り出している。しかし、レイラの気付かぬ内に、彼女の頬を伝って1粒の涙が落ちた。

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