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王子、何も考えていないのは貴方だけです。  作者: 亜鉛
ウェルリンテとスクルビア家
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第十三話 ガルハンデ家

「日の光の下、若……りに感謝を。本…お招きいただ……」


 扉越しに挨拶をしている声が聞こえてきたから、入ろうとした時、白い猫が何処からともなく現れて、私の前で座る。


(このタイミングということは……依頼主関係か)


 これは暗部と私が連絡を取り合う手段の一つ。その猫に近寄ってお腹を少し探ると、案の定紙切れが入っていた。入るか、それとも手紙を見るかで迷うが、先に紙切れを開く。


(あー、はいはい。大体予測はついていたけど、証拠まで挙げといてくれるのは流石ね。……まだ、使わなくても大丈夫かな)


 頭の中で勝算を組み立てながら、入るべき時を待つ。いつ入っても結果は変わらないと思うが、どうせなら一番効果のあるタイミングで入りたい。


「私達の成功を祈りましょう。」


 耳をピッタリと扉にくっつけていたので、はっきりと聞こえた。拍手も聞こえてお帰りムードである。



「面白そうなことをしているのね。」


 そう言うと同時に静かに扉を開ける。低い声を出したおかげか、皆同じように固まっていた。


「ご機嫌よう。久しぶりに散歩していたらここで面白そうなことをやっていると聞いて。良かったら私もまぜてくださらない?」


 一応、嘘は言っていない。


「ウェルリンテ様……どうしてここに?」


 ライラスがやっとのことで絞り出した感じで言ってくる。長年私といるだけあって、やって欲しいことをきちんとやってくれる。


「そうだ……貴様は牢の中にいるはずだろう?」


 ガルハンデ家当主、ユーリエスト=ガルハンデが一緒になって言ってくる。虎の威を借る狐とはまさにこのこと。もうちょっとましだったら、最初から声をかけていたというのに。


「あら、私が聞いているのは何をしていたのかと言うことよ?……中々洒落たことを書かれてある紙があるわね。皆さんで新しい小説でも考えていたのかしら?」


 机に置かれていた契約書を持ち上げて言う。


「いいのかしら?後悔するわよ?」


 ガルハンデ家に少しチャンスをあげる。私は牢の中に入れられていると思いきや、普通に外に出ている。私は罪人であるという固定観念に囚われて彼は自分が圧倒的有利があると思っているだろうが、この状況を俯瞰すれば私に何か大きな力があるということが一目瞭然である。


 彼がそのことに気づいて、この契約を破棄なりなんなりすれば、ライラスやセルビア、ワンリルと同じように教える。見抜けなかったらどうという訳ではないが、これぐらい見抜けなかったらこの先、生きていけない。


「我が主がここまで愚かだとは思ってもみませんでした。貴方は自分の立場がお分かりですか?貴方の傘下は今日この時をもって、全部貴方の敵となりました。それに罪人として牢に繋がれていたというのに、脱獄をして……このような人をさっさと見捨ておいて良かった。」


(本当に伯爵家当主として務まっていたの?)


 先ほど貴様と言っていたのに対して、今は貴方と言っている。こんな感じで、取り乱した時と普通の時との違いがある奴は大体ダメだ。


 本当にこんな奴が、公爵家の派閥で生きていけたことが不思議に思う。


(どちらかというと……あの屑のせいで、能力が高い家が軒並み抜けてったと考える方が妥当ね。)


 ライラスもあーあといった顔をしている。私が何をしたかったのか分かっていたのだろう。


「じゃあ尋ねるけど、公爵家が誰かの一存で牢に入れられることなどあると思う?」


 何を言いたいのかというと、普通、公爵家がそんなすぐに牢に入れられることがないのだから、何か裏があるとは思わなかったのかと聞いているのだ。


 ここでカイルスだからという反論は出てこない。何故かというと、ある程度私の力でカイルスの酷さが流れないようにしてきた。だから、多分世間一般の第一王子に対する評価は、ちょっとわがままというくらいで止まっている。


「それは……スクルビア家はもう没落していますから。牢に入れた後、家を潰すつもりだったんじゃないですか?」


 あの婚約破棄の計画は勿論カイルスが考えたものでなく、彼が部下に書かせたもの。そして、その部下は私の息がかかっているからそのまま私の手元に来る。


 つまり昨日の出来事は私が書いた台本を、全員が読み上げていっただけである。


(ああ、でも貴方は違いますね。ユーリエスト)


「そもそも貴方は……没落した家と王家が何故婚姻を結べたと思っているの?」


「それは……」


 第一王子の婚約者が応募された時には、娘がいる貴族全員から応募された。


 私は家格、才能、容姿は完璧だったが、あのゴミ達が浪費したせいで金が無かった。勿論、財産の記入欄に本当のことを書いたら落とされるに決まっている。


 だからその時は、立ち上げた事業の利権を全部売って、あたかもスクルビア家の財産であるように見せた。


 問題はあの屑たちに戻ってこられることだったのだが、貴族の収益を監視する国の機関の人と仲良くなったので、こうして没落貴族代表として居続けることが出来ている。


「もし……私が没落貴族ではなく、力があったら?」


 いつまで経っても答えを言わないので、言ってあげた。



「……いや、イカサマだ!貴様はさらに法に触れるようなことをしたんだろう。直ぐに国に言いつけてやる。」


「「「……」」」


 あまりの酷さに、ライラスとワンリルも無言で呆れている。


(うちの派閥から速攻で追い出したいけど、向こうの弱点となる可能性もあるからおいておかないと)


 仕方がないので、先程鳥から貰った紙を机に出す。


「そんな発想はなかったわ。教えてくれてありがとう。代わりにこれをあげるわ。」


 それを見たユーリエストは、目を見開いて膝から崩れ落ちた。


期末があるので、また暫く更新できません。すいません。


ウェルリンテが言っている「屑」と「ゴミ」はどちらも父親のことです。使い分けに特に意味はありません。


新規登場人物

・白猫

・ユーリエスト=ガルハンデ

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