第十話 ドレス選び
後で名前が出てきますが、ドレイン家当主視点です。
事務仕事が終わり午後の会議の為の確認をしていると、ノックする音が聞こえてきた。
「入れ。」
「当主様、招待状を持った方がおいでになっています。」
「招待状?」
そんなはずは無い。最近は忙しかった為、不測の事態に陥らないように不必要な人との接触は避けてきた。そもそも今日はここ2ヶ月の努力が水の泡となるかどうかなので、そんなミスはしていないはずだ。
「やはり何かの悪戯か間違いでしょうか?」
「……いや、待て。招待状を見せてくれ。」
門番から受け取った招待状は一見なんお変哲もないが、染み込んでいる香水の匂いとうっすら刻まれている偽造防止の魔法陣を見れば分かる。予想通りあの方からのものだった。
(ウェルリンテ様……)
「すぐにここまでお連れしろ。」
「はっ!」
門番が出ていくのを見ながらどうしたらいいか考えあぐねていた。
「何と説明すれば良いのか……」
「あら、なんのこと?」
急に部屋に響いた声に、心臓が止まるかと思った。
何を考えているのか、何をするのかわからない。あの頭にどれだけ先のことが視えているのか。このお方に天才という表現をつけてなお、私を含めその他の人間は凡人以下としか言い難い。
「ウェルリンテ様……実は……」
「何かリアクションぐらいしてくれてもいいんじゃないの?そんなんだから友達少ないって言われてもしょうがないよ。」
いつもこんな調子で会話が始まる。会った当初はこのような人についていって大丈夫なのかと不安になったが、これはこのお方の沢山ある顔の内のほんの1つであるということを知った。
「善処しますので、今はとりあえず説明の方をさせてください。」
「大丈夫よ、大体の状況は把握したから。貴方の気持ちもありがたいけど、私の中で今計算したら多分私が出たほうがいい。だから悪いけどドレス一着貸してくれない?」
これも本当に分かっているのかと昔なら思ったが、今では絶対的に信頼できる。ウェルリンテ様も流石にお疲れになっているだろうからと思って、悩んだりなさらないようにあえて報告はしてなかった。
「今は無理ですが、後ほどゆっくり事情を聞きたいのですが大丈夫ですか?」
「ええ、私も元々そのつもりで来てたんだけど……まあどっちにしろ報告しようと思ってたことはこのあと言うと思うから。貴方も出席するのよね?」
「はい。」
そう言いながら手元の魔道具を起動する。この魔道具はこの屋敷のどの部屋にも瞬時にメッセージを送れるようになっており、使用人を介す時間がない時などに使う。
『ウェルリンテ様に合うドレスを至急』
こう書いて娘のセルビアの部屋に送る。今日は一日中部屋にいとくように言っておいたから、このメッセージを伝わっているはずだ。
数分後に、凄い足音とともに勢い良く扉を開けて入ってきたのはセルビアだった。大量のドレスを両手で抱えているため顔が全て隠れていたが。
「本当ですかお父様!」
そのまま丁寧にドレスを椅子の上に置いてこちらに向かって頬を赤く染めながら聞いてくる。いつもの適当さはどこへ行ったと問いただしたい。
「お前の後ろにいるよ。」
くるっと目にも止まらぬ速さで回転してそのまま優雅にお辞儀をする。
「ご機嫌麗しゅう、よくおいでなさいましたウェルリンテ様。」
「ご機嫌よう。」
本当に、いつもマナーの成績が万年最下位の娘はどこに行ってしまったのか。
「ウェルリンテ様に似合う服をいっっっっっっっっっっっぱい持ってきたので、どれになさいますか?手始めにこれなんてどうでしょうか?腕からの赤いラインがウェルリンテ様の大理石のような白い肌にも合いますし、こちらは露出が控えめですがその分ウェルリンテ様のこの神が創造したかのような体型を遺憾なく強調できます。もういっそウェディングドレスになさいますか?」
セルビアの悪い癖が発症した。私の娘は普段は大人しくて、学校の成績もマナー以外なら全て上位で見た目も(親だからかもしれないが)綺麗で、結構モテており縁談も後を絶たない。
が、私の娘はそんなことになんお興味も示さず、興味があるのはただ一つ。ウェルリンテ様のみ。昔、仕事でこの屋敷に来た時以来それはもう熱中している。初めは見た目の完璧さに釣られて着せ替え人形にしたいと考えていたそうだ(見たら分かる様に、今もその思いは続いている)が、ウェルリンテ様の仕事を手伝っている内に人格そのものに惹かれていった。ある時ウェルリンテ様の何処がいいのかと尋ねた所、8時間怒られてその後10時間ぐらい魅力について語ってきた。
「セルビア。今大変急いでいるんだ。そんなに持ってきても困るだろう。というか、何故今ウェデングドレスが必要なんだ?」
「お父様は口出ししないで下さい。私は今ウェルリンテ様と話しているんです。」
こうなったら何を言っても聞く耳を持たない。
「じゃあこれにするわ。」
ウェルリンテ様が束からサッと1つの服を抜き出す。
「それは……」
選んだのは真っ白なドレス。ほとんどが白色でスカートの先と腕の先だけ微かに水色になっているだけで、何の模様も入っておらず、全体的に簡素な作りで値段も安そうだ。
「あの、ウェルリンテ様……それ間違って持って来たしまったみたいです。」
娘の顔を見る限り、本当に間違えて持ってきてしまったらしい。娘は普段から似合うドレスとかを選んでおいて、今回のように何かあればすぐに持っていけるようにしていた。これは持ってくる過程で紛れ込んできただけで、もっと来て欲しいドレスが沢山あるんだという感情が顔に出ている。
「いえ、これで行くわ。それと髪飾りを一つだけ、できれば赤色が良いわね。」
最初からこれを望んでいたというように自信のこもった声で言う。
「は、はい。」
気圧されて思わずたじろいでしまう程には、威圧感が半端なかった。さっきまでとは全く違う。
「ライラス、貴方はゴミが部屋に入らないようにしておいて。」
「承知しました。」
指示が伝え終わると同時にノック音がして門番が扉越しに伝えてくる。
「エルサイデ様とガルハンデ様の方々がいらっしゃいました。」
ウェルリンテ様は頷いて、少しだけ笑った。
ドレスの知識が皆無であるため、曖昧な表現になってしまいすいません。高評価、ブックマーク登録お願いします。
新規登場人物
・セルビア=ドレイン
・ライラス=ドレイン