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一見普通の異世界召喚ハイファンタジー

雪なんて嫌いだ! そうは思いませんか? 

 その出来事はすべての世界、いいえ、あらゆるすべての世界において運命の日だった。

勇者召喚、それはただの悪夢の始まりである。その教訓があらゆる世界に刻み込まれる以前の話。

その始まりとなったきっかけの一人のナニカの話。



「あぁ、あなたこそがわが国の勇者。………!」


 感情が極まった声でその国の皇女が召還された男に掛けた第一声がそれだった。


「ここは? 君は?」


 どこともわからない場所、誰かもわからない誰かに全身全霊の感動の第一声。

男の心を混乱のさなかに追いやるには十分すぎる状況だった。

んだけど、事態はそれだけですまなかった。


「色々なライトノベルに出てくる異世界召喚にまさか私が巻き込まれるなんて」


 男の後ろでため息混じりに女はそうボヤキを漏らした。

この女と言ったら私はまだ幼女だと答えを返してくるような女だといえば性格に想像がつくかと思う。だが、彼女までをも召喚してしまったことは彼が召喚されたことに比べれば実は些細なことだった。


「ですが、偉人は不満をも楽しむともいいますしこれもひとつの経験ですね」


 などとすました顔で女は満足げに言っていたがこの後の事態こそが実に悪夢の始まりだった。


「ほぉ。勇者召還とは思い切ったな。だが、この魔王がただ、玉座で座るだけと思っていたであろう?」


 ゆがんだ空間から自らを魔王と名乗る者が現れたこと。それこそが真の悪夢の始まりだった。

そう、魔王にとっての世界にとっての。この時、もしも、彼と彼が居なければそして、


「なるほど、此度の勇者は魔法特化であるか」


「くっ、皆の者! 俺が足止めをするその間に!!!!」


 魔王と名乗る者を見た刹那、全身筋肉質の誰がどう見ても全身全霊脳筋といえる男が、皇女の親衛隊長が、その超筋肉体格以上に凄まじく巨大な斧を両手に構えた。


「ほぉ。我を足止めしようとは愚かな!」


 「魔王」は親衛隊長に手を掲げ何かを呟いた。


「だめ! 避けて!! アークヴェイン!!」


 「魔王」の放とうとする魔法に気がついた皇女が発狂するかの叫び声で親衛隊長に叫んだ。


「ふん! この俺の筋肉を貫ける魔法などないっ!!」


 親衛隊長は雄たけびを上げながら「魔王」に突撃していった。

そして「魔王」の放った黒く太いレーザーの前にその身を灰と化した。


 その隊長のアークヴェインの姿を恋焦がれる憧れの姿として目に焼き付けている男がいたことに気がついている者は本人と女以外誰もいなかった。故にアークヴェインの死が後のありとあらゆる世界に地獄と修羅場を生み出す起点となることなど女以外は誰も思いはしなかった。


「無駄死にご苦労だった。我を足止めなど数億年早かったようだな」


「根本的な才能とは、自分に何かが出来ると信じることだ。たしか有名な歌手の言葉でしたね。

信じることは救われないのと同じ意味で捉える人も多いですが、果たして」


 女は、「魔王」を前に死した親衛隊長を見て率直に思ったことを言った。


「ほぉ。我を前に何が変わると信じているのだ?ただ一人無駄死にしただけよ。

さぁ、勇者よ我が魔王の前に絶望を覚え消えるがよい」


 「魔王」は勇者、なにかに恋焦がれる表情をした男の足元を指差し何かを唱えた。瞬間男の姿が消え、男の居た場所に魔方陣のようなものが残った。


「勇者の最終試練。起動させてもらった。皇女よ、絶望するがいい」


 その「魔王」の言葉を聴いた皇女は顔を真っ青にしてその場に崩れ落ちた。


「そんな、それはいえ、なぜあなたが勇者の最終試練を知っているのですかッ!」


「至極当然よ。幾度魔王と勇者の戦いを繰り返したと存じておるか?

あぁ、そうよ、最終試練を起動した者はその試練における条件をある程度設定できるのであるよな」

「そうです。ですからこそ最終試練なのです。ですがこのような召喚直後に最終試練などもはや」

「そうだ。ましてこの我が起動した最終試練、この意味はわかっているようだな皇女よ」


 絶望に包まれた皇女に女は慈愛をこめた表情で語りかけた。


「最終試練。試練と名がつくならばそれは試験のようなものでしょう?

ならばこそ私は断言しましょう。為せば成る 為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり。恋した人の怖さを、人の可能性を、成る業を 成らぬと捨つる 魔王の儚き」


 女の言葉を否定するかのように「魔王」は返した。


「所詮は何も知らぬ異世界の者の戯言よ。かの試練は地獄のような食事と地獄のごとき環境にて行われている。さらにはあの男の適正は魔法超特化。

ゆえに最終試練にふさわしく魔法無効の試練を男には与えた。

魔法を用いての試練は決して果たせぬ。絶望せよ、生還など万が一にもありえぬ」


 「魔王」が何を言うものぞと女は自身の髪を櫛で梳いていた。

そして、「魔王」の語りが終わるとふわりと音がしそうな笑顔をした。


「いいえ、万が一など所詮は万が一 涅槃寂静分の1よりも高い確率です。もう一度言いましょう。

為せば成る 為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり 

為せば成る 為さねば成らぬ成る業を 成らぬと捨つる 「魔王」の儚き。

しょせんあなたは「魔王」であり魔王では無いのです」


「ありえぬな。想像してみるがいい。

泥水以外の飲み物は無く、

食うに耐えぬ食料以外手に入らぬ、

さらには粗末な小屋ただ一つのみの世界で、

魔法以外使えぬ男が魔法では倒せぬ敵以外居らぬ世界を攻略する姿を」


 「魔王」の言葉に皇女はさらに絶望を感じその場にうずくまり泣き出した。

けれど女はそれでも言い切ったのだ。


「死とは無期懲役の減刑でしかありません。

ゆえに減刑を望まなければ、永久刑を望むならば、死の祝福を望まないならば、

あらゆる苦難など所詮は路傍の石」


 笑顔で女は男の過去を知るゆえに断言できたのだった。


 そして、女の断言を実現するかのように男が消えた後に残った魔方陣が白く光り輝いた。


「馬鹿な……ありえぬ。白は成功と生還の色。あの世界を越えただと! ……レベル1の勇者がだと!?」

「あぁ、黒ではなく、白。これは夢? 億分の1の奇跡?」


 皇女も「魔王」も魔方陣の色に驚愕の声を上げたのだった。


「ただいま。僕は恋を知ったよ。僕は奇跡は筋肉で叶えることを知ったよ。

あぁ、筋肉こそ至高。肉体こそ奇跡!生きているって筋肉なんだね」


 輝く魔方陣から現れた男?は顔こそ魔方陣に消える前の男のままだったがそれ以外は……


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