74.発生
最初の部分は不快感をもたらすかもしれません。ご注意ください
借金を返していくためには死神を消して踏み倒すか、コツコツ未来永劫稼いだ金の一部を死神に渡すしかない。それは果たして安定した生活なのかとクロロは疑問に思うが、相手が死神のためやり遂げるしかない。
「はぁ…」
『ウ、ウエエエエエエ…』
「はー、なんでこうなるんだよ」
『ウゲエエエエェェェェェェ』
「クロロ…」
「結局かよ、はぁぁぁぁ」
『ウッ、ウ、ウエエエエ』
「クロロ!!!」
「はい!?」
話し合いの後、自分の残った作業を終わらせるため解体場に戻ったクロロは依頼のこと、借金のこと、死神のことなどを考えながら手を動かしていた。小さい声で独り言を呟くのは別に誰も咎めたりはしないのだが、ミミから漏れる気分を害する声は我慢出来なかった。
「サブールさん、どうかしましたか?」
「お前、それ本気で言ってるのか?」
「?」
「周りを見てみろ」
クロロが周りを見ると多くの冷ややかな視線が自分に向けられていることに気づいた。改めてサブールを見ると彼はクロロの腰を指差す。
「どうした、いつもはそのミミックをあまり使わないように配慮してくれてるだろ。嘔吐するような声が永遠に響いてこっちは仕事が手につかないぞ」
「それは、その、すみません」
考え事が頭から離れないためクロロは仕事が手に付かないことを理解していた。それでも、あと少しで作業が終わりそうだったため、クロロは周りに頭を下げる。
「皆さんも、すみません。これからはもうこのミミックを持ってきませんので、今日だけは許してください」
「だとよ。お前ら、言いたいことがあるのは分かるが作業に戻れ!この仕事は速さが大事だからな!」
サブールの言葉で他の解体士達は渋々作業に戻る。小さく悪口を言うものもいれば、しっかり謝れているため忘れようというものもいた。ただ、クロロが死ぬかもしれない依頼を受けたということを知っているものはいないため、結局全員からの評価は下がっていた。
「はぁ・・・改めてごめんなさいサブールさん」
「まあ、こっちとしては仕事片づけてくれるならなんでもいいからよ。今は大変な時期だが乗り越えないとな」
「はい」
サブールは解体の作業にも参加するが、基本的には管理職なので作業場から出ていく。それを見送ったあと、クロロは腰のミミにも話しかけた。
「というわけだから、ごめんな?」
『大丈夫・・・・ミミ、仕事、無い』
「そうだな、とりあえずはアルルカ達と一緒にいてもらえるか?」
『理解』
クロロは作業をしながら今後の行動を考えていた。ただ、今度はしっかりと与えられた仕事を終わらせ、それ以上周りに迷惑をかけることは無かった。
それから一週間が経った。クロロは自分の可能な範囲、万全の準備を備えた。そもそも、今回の相手は未知の花粉を飛ばす植物ということなので彼に出来ることは限られていた。クロロが町長達の準備してくれた装備品の点検を行っていると、ベッドで横になっているアルルカが話しかけた。
「仕事道具?」
「まあそうだな」
「このブヨブヨも?」
「ああ。けど絶対に触るなよ」
『この部屋でやってほしくないのですが』
「すまん、場所が無いんだ」
クロロは自身の考えが通用するとは思っていないが、準備を怠ることが自身の死、永遠に続く苦痛に直結していると分かっているため無駄かもしれないが満足のいくまで終わらせなかった。
「クロロ・・・一つ、聞きたい」
「なんだ?」
「必要なこと?」
「どれが?」
「全部」
クロロがアルルカのいる方に振り向けば彼女はクロロに手を伸ばし、上顎の辺りを撫で始めた。気を張っていた体から力が抜けていく。砦から出たあとも、別に上手く関係を作れているというわけではなく、主にクロロとアンクロがだが、アルルカとも言い合いをしたことがある。精神的、身体的に疲れが溜まっていたため、気遣う余裕など無かった。
「必要なことだ…俺はそう思ってる」
『貴方の考えが正解だったことがあるのですか?』
「お前な…」
「よしよし」
アルルカはしばらくクロロを撫でたあと、アンクロを抱きしめてクロロの膝の上に乗った。
「じゃあ、もう何も言わない。自分から話したくなるのをを待つ」
『…クロロ、貴方のせいですからね』
「迷惑かけてすまん」
クロロがアルルカ達と話していると徐々にアルルカがうたた寝し始めて船を漕ぐように体を揺らす。クロロはアンクロとアルルカを寝かすと作業に戻った。眠る必要のないクロロにはまだまだ時間があった。
「…う…ん」
夜、月も出ていないため外は街灯がある大通り以外はほとんど暗闇である。居酒屋などもあるが最近は神隠しの影響もあり早めに店を閉めている。解決しないで失踪者ばかり増えることに町民たちは周りに目を光らせていたが、それでも人には睡眠が必要なため大半の者が眠りにつく。特に親は起きていても子供は寝ているということは当たり前だった。
「・・・ん?」
目が覚めてしまったリョウは体を起こす。もう一度寝ようと思ったが尿意が来ていたことに気づいたため仕方なく部屋の外に向かう。リョウがいるのは宿屋の隣に設置された管理者用の家であり、宿を切り盛りする家族と暮らしている。部屋の外に出ると、廊下の端で自身の父親が椅子に座って毛布を被り眠っているのを目撃した。隣には先を尖らせた木材とランタンが置かれている。
「・・・父ちゃん」
神隠しによって子供が何人か消えたため子を持つ親は見張り番をするようになった。この事件によって親同士の繋がりが強くなったのは皮肉である。周りとの連携を密にし、外では衛兵の他に自警団を名乗る人々が見回りをしている。しかし、そんな生活をずっと続けられるわけがない。昼は仕事で疲れ、夜は見張りまでするのだ。意図せず眠ってしまうこともあった。
子供たちもそんな親の気苦労を知っているため、反抗期や馬鹿でない限りは大人しく従っていた。リョウはせっかく休んでくれている父親を起こすのを悪いと思い、足音を立てないように移動し、トイレへと向かう。
「ふぅー」
思っていたよりも限界だったためリョウは安堵の息を吐く。部屋に戻らないと両親を心配させてしまうかもしれないため急いで向かおうとして目の前の廊下に広がる暗闇を目の当たりにする。
「・・・怖くないぞ」
父親の持つランタンの光がエネルギー切れで消えたため何も見えなかった。暗闇を怖がって泣いていた時期は一年前の親友が消えた日から終わっていると思っているためリョウは無理やり足を動かす。
「・・・あれ?」
意気込んで歩いていると窓の外に視線が入った。段々と目が暗闇に慣れてきたためリョウはその光景を見た。自分と同じ、もしくは少し小さいくらいの少年が家の外を歩いているのを、目撃してしまった。
「・・・ラキ?」
そんなはずはないと思ってしまう。なぜなら彼の親友が行方不明になって既に一年が経過していたからだ。既にリョウ自身、ラキを再び見ることが出来るというのは諦めていた。
「本当に、ラキ?そんな、でも・・・」
もう一度、今度は窓に顔をこすり付けて外を見る。だが、先ほど見た少年の姿はなく、勘違いなのかと思ってしまう。気味が悪いと感じたリョウは急いで父親が守ってくれる自分の部屋に戻ろうとした。
「ねえ」
突如声をかけられたため、リョウは肩を振るわせ、壊れた機械のようにゆっくりと振り向く。するとそこには、いつの間にか先程外で見た子供が立っていた。
「ラ、キ?ラキなのか!?」
その姿は紛れもなく行方不明になっていた自分の親友の少年だった。リョウは思わずラキに近づき、彼の肩に手を触れる。
「今まで何処にいたんだ!?急にいなくなって俺、俺、自分が嫌われたのかって、友達じゃなかったのかって思って…」
元々ラキとその父親はこの町の出身ではなく、一時的に滞在していたと聞いていたので、急に彼らが消えても不審に思う人は少なかった。リョウだけが、ラキは勝手に居なくなったりしないと信じていたのだ。もしくは、そう信じたかったのかもしれない。
「友達になってくれる?」
「え?」
「寂しくて遊び相手が欲しかったんだ。友達になって?」
「俺、俺たちはもう友達だろ?」
「ほんと?!」
ラキは嬉しいと満面の笑みを浮かべる。ラキの仕草、行動の一つ一つが自分の思い出と重なる。だからこそ、今までにない違和感を気づくことが出来なかった。
「じゃあ、遊ぼ!」
「おう、それなら他の奴らも呼ぼう!皆んなでなああああああああ!?」
リョウが言い終わるより早くラキは彼の腕を掴んで走りだした。振り払おうとしてもラキの力が強く、抜け出すことが出来ない。
「父ちゃん!母ちゃん!」
周りに助けを求めても人の来る気配はない。しかし、リョウの目の前の扉が開いた。
「母ちゃん!」
リョウは歓喜した。自身の母親が助けてくれると。だが、彼の思うような結果にはならなかった。母親はリョウに気づくことなくリョウの部屋へと向かった。
「ど、どうしてだよ!?」
「見えてないし聞こえてないからだよ」
「え?っ!!!???」
リョウはラキの声で振り返って驚愕した。再度見たラキの顔は目に光沢がなく、肌は萎れて、全身が枯れ枝のようになっていた。生きているとは到底思えない姿にリョウは震える。
「僕はユウキ、対象一人と自分を透明にする。相手から干渉されず、自分からも干渉出来ない。それが僕の能力だよ」
「ら、ラキ…お、お、おま、」
「友達になってくれてありがとう!僕の家で一緒に遊ぼう!」
「あ、や、やだ、たす、助けええええええ」
壁や床などもすり抜け、しかし呼吸などの生命維持は出来る。ありえない能力の行使により、リョウの悲鳴や抵抗は全くの無意味になる。彼は誰に知られることもなく連れ去られてしまった。この直後、リョウの部屋に入った母親により彼が消えたことが明らかになった。
「リョウ!!リョウ!!!何処に行ったの!!!???」
クロロは外で叫ぶ宿の女将さんの声を聞いて、外に出る。
すると外では多くの大人達が走り回っており、その中には宿屋の女将さんと主人もいた。
「どうされました?」
「あ、クロロさん!リョウが!うちの子が部屋から居なくなってて…家中探してもいなくて!」
「おい、お前落ち着け」
「落ち着いていられるわけないさね!元はといえばあんたが居眠りなんてしてるから!」
「ぐっ…すまん」
クロロは一応状況把握は出来ていたが女将さんにひとまず聞いてみた。その結果が予想通りのものであるためクロロは暗い顔をする。
「何処に行ったか心辺りは?」
「あったら探しているよ!本当にどうして…」
「行くぞ皆!今度はもっと広範囲に探索するんだ!」
リョウのお父さんが指揮をとり、周りの仲間達と走り回る。深刻な状況なのは分かっていたが近くにいる人間まで消えたとなると一刻を争う。そこへ、町長のところにいた護衛の一人であるシールドが現れた。
「こんなところにいましたか」
「どうしてここへ?」
「分かっているのでは?」
「一応ですよ」
シールドは自身のお面による身バレを防ぐためにクロロと共に宿屋に入る。クロロは部屋に急ぎながらシールドから情報を得るために話しかける。
「こちらは準備が完了しました。あとは、クロロ様次第です」
「なら行きます。荷物を取ってから急いで向かいましょう」
クロロは部屋に入ると中にいるアルルカとアンクロ、そしてスフィアに目もくれず荷物へと手を伸ばす。
「クロロ?」
アルルカに呼ばれるが聞いている暇はないので荷物を取り部屋を出て行こうとする。
「ストップ!」
アルルカがクロロの脚を掴む。その結果、前傾姿勢だったクロロはバランスを崩してうつ伏せに倒れた。
「があ!?」
「っ!?ごめん…」
一度刺激を受けて冷静さを取り戻したクロロはアルルカに向き直り叱咤する。
「なんだ!?」
「クロロ、どこに行くの?」
クロロは座っているため立ち上がり向かい合うアルルカとは身長差が縮まり目線が近い。じっと見つめられクロロはなんとか誤魔化そうとする。
「仕事だ。今日は夜もあるんだよ。ちょっと急いでるからもう行くぞ?」
「嘘つき」
アルルカは目から光を消してクロロを見下したように見つめる。アルルカは怒った時、目で訴える人であると分かっているクロロはその圧に負けそうになる。
「荷物がどんなものか知ってる。明らかに戦闘用。解体に使わないものばかり」
「誰から聞いた?」
「ミミ」
クロロはミミの方を見ると、アンクロの後ろに隠れていた。
「もう一度言う。何処に行くの?」
「…仕事だ」
「殺しの?」
「…ああ」
ミミから詳しく聞いているのだとしたら逃げ場は無いと考え、質問に答えるクロロ。
「クロロも死ぬの?」
「分からん、多分大丈夫だと思うが」
クロロはちらりとスフィアを見る。スフィアは目を合わせてくれない。死神からの贈り物はとても危険な物なため、使いたくないと思ってはいてもそれは簡単ではないことも分かっていた。
「じゃあ、行かなくていい。わざわざ死にに行く必要ない」
「そうはいかないんだ」
部屋の前でシールドが待機しているため、手早くアルルカを説得する必要がある。なんと言おうか考えていると傍観していたアンクロが近づいてきた。
『聞いていて思ったのですが、どうして蜥蜴は自分の意見が正しいと思っているのですか?』
「?」
『なぜアルルカ様が折れる必要があるのですか?客観的、多少の贔屓はあったとしてもアルルカ様の言い分は最もで鰐もどきの方が間違っていますが』
例えばの話だが、自分の家族が今から死にに行くといって出て行こうとすると自分はどうするのだろうか。勿論止まるだろう。理屈や御託を並べて説明されても死ぬと分かっているのなら良し行けとは言わない。
「その、だな」
『貴方が一番することは何か分かっているのですか?アルルカ様の隣にいて肉壁となり守ることでしょう。アルルカ様の命令に従うのが貴方に必要なことだとは思わないのですか?』
「そんな言い方しなくてもいいだろ」
『貴方に選択権はありません。アルルカ様が駄目だと言ったら駄目なのです。貴方が言ったのですよ。アルルカ様の幸せが望みだと』
クロロは森の中で湖に囲まれた廃城に行き、そこで二人と出会った。その時に似たようなことを二人に言ったことを思い出した。
「そう…だったな。その通りだ」
クロロはもう一度アルルカと目を合わせると再び話し始めた。




