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自由奔放なキメラ達  作者: 日和見兎
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蘇る

塵すら残らず無に帰り、消滅したと判断した燃える鬣を持つ獅子は体から蒸気を発して体を小さくする。燃え盛り、周りに熱を発していた炎は鬣が短くなるにつれ消えていく。最終的には、湿気の多く薄暗い部屋に似合う黒い毛並みをもつ小さな猫になった。猫は乱れてしまった毛を整えるため毛繕いを始めた。その猫の近くにずっと離れて様子を伺っていた赤髪の子供が近付く。子供は落ちた包丁を探したが黒い獅子の近くにあったため、熱で溶けて使い物にならなくなっていた。残った包丁の欠片を見ながら毛繕い中の猫に聞く。


「本当に終わり?」


『ええ、首を跳ね飛ばしても再生したのには驚きましたが、本人の意思か、それともエネルギーが尽きたのかは分かりませんが再生が遅くなりました。そこを狙って一気に高火力で削りました。流石に生きてはいません』


 子供が言いたいことがなんとなく分かった黒猫はじっくりと観察して答えた。鰐の正体は結局分からなかった。体が一部分でも残っていれば生き返るのか、それともエネルギーが尽きれば死ぬのか。首を落としても死なない生き物だとしても、黒猫の知識に無かった存在であるため内心ではかなり焦っていた。だからこそ、子供が避難して十分に離れたことを確認してから周囲を燃やし尽くしたのだ。猫の周りにあった鰐の頭や肉片は高熱で消滅した。後には溶けた地面と黒猫しかいなかった。


「・・・」


子供が焼け焦げた跡を見て少し悲しそうな顔をする。凶悪な姿に恐れ、無我夢中で仕方なかったとはいえ、責任を感じているようだった。しかし、今更だ。子供の様子を見て、猫は毛繕いを止めた。


『あまり知らない相手が我々を見たらどう思いますか?ここにいるのは猫と子供です。私達は圧倒的に弱い立場にいます。私の力は燃料効率が悪いですから長丁場は持ちません。不安が多いので即刻排除した方が賢明です』

「・・・うん」


 子供は軽く頷いてはいるが、初めて死というものを見たのだ。持ち直すにはやはり時間が掛かる。しかし、あとは本人の問題だと猫は気にせず毛繕いを再開する。不穏分子が取り除かれ平和が戻ったからか油断をしていた。


「!?危ない!」


 背後の脅威にも気づくこともなく、猫は簡単に蹴り飛ばされ宙を舞った。


『ぐふっ』


 驚いて状況把握が上手くいっていない中、猫は着地すると自分がいた場所を見ようとする、しかしそれよりも先に黒い影が迫る方が速かった。影は猫を掴み上げると石壁に叩きつけた。頭から壁に激突した猫は一瞬頭をクラクラさせ思考を止める。だが、影はそれだけでは終わらないと何度も何度も壁に叩きつけた。


「・・・!」


 子供が猫を持ち上げている存在に急いで近づき、精一杯殴る。包丁は溶けて無くなり、武器に使えるものが何もないため素手で殴るしか出来ない。だが、硬い感触と共に自分の拳が血で汚れ、痛みがくると子供は涙が出た。

 その存在は意識が朦朧となった猫を反対側の壁まで渾身の力で投げる。全身を壁と地面に打ち付けた猫は動くことが出来ないのか痙攣するだけで逃げようとしない。


 子供は急いで猫の傍に駆け寄ると抱き上げ逃げようとする。だが、部屋の出口は黒い存在の方が近く、子供の足では逃げきれないのはすぐに分かった。子供は猫を部屋の隅に置くと両手を広げて自分たちに近づく大きな存在と対面する。


「どけ!」


 怒りを多分に含んだ声が目の前の存在から発せられる。目は鋭く、牙は恐怖を煽り、鱗は黒く輝き、背は高く、尻尾は長い。黒い存在は子供の近くでその恐ろしい姿を見せる。先ほど消滅したはずの鰐男がそこに立っていた。



 復活した彼は、今度は何が起こったかすぐに理解した。猫が炎の鬣を持つ獅子に変身し、自分を食らい、殺した。痛みに我慢できなくなり、死を受け入れたが、結局再生した。どれだけ死を望んでも早いか遅いかの違いで体は元に戻ってしまう。だが、心までは元に戻らない。彼が薄暗い部屋で体を再生し、意識がはっきりとして心中に抱いたのは怒りだった。


 彼は目の前で呑気に毛繕いをしている黒猫を蹴り飛ばす。何が起こったのか理解していない顔は猫なのにすぐに分かり、鰐男である彼を喜ばせた。後はひたすら怒りの矛先をぶつけるだけ。血が飛び散り猫の体から肉が潰れ、骨が折れる音、痛みの声を聞いても彼の中の怒りは収まらなかった。何度も何度も怒りを晴らそうと猫を壁に叩きつけたが、気は晴れず、子供がポカポカという擬音が相応しいパンチを繰り出してきた辺りで猫を放り投げた。


 もっと自分が味わった痛みを分からせてやると思いながら、猫に近づく。すると子供が目の前に立ち塞がった。逃げられないと判断したのか、猫を隅にやって守ろうとしているのだと気づいた。邪魔に感じた彼は無意識のうちに怒りを込めた声で言う。


「どけ!」



 鰐男は足音を響かせて近づくと猫を掴もうとする。しかし子供は小さな体で猫を守ろうとする。部屋の隅の角に猫はいるためどうしても掴もうと思うと子供が邪魔になった。すると子供は片膝を着き、手を限界まで広げ、猫を覆うテントのような姿勢になる。その間も目はしっかりと鰐を見ていた。覚悟の籠った目を見ながら彼は石壁を殴ると威嚇する。


「どけ!邪魔だ!」


 しかし子供は怖くて震えながらも姿勢を崩さない。猫を奪い取るためには子供をどかすしかない。彼はその小さな体に手を近づけ、あと少しで爪が届こうとしている所で止めた。代わりに拳を握ると石壁を何度も殴った。鱗から血が出ても気にせず殴ったあと、子供から離れると入り口付近で座る。腹を立てているのは変わらないのか彼は自分の頭を掻きむしって落ち着かせようとする。これは彼の前世での癖だ。

そうして子供は鰐に目を離さず、鰐もずっと猫と子供を睨んだまま時間が過ぎた。しばらくして黒猫が目覚めたことでその沈黙は破られた。


『ぐう、いったい』

「っ!良かった・・・」


 目を覚ました黒猫は起き上がろうとするが骨が折れているため途中で足に痛みが走り、震えているため立ち上がれない。子供に支えられながら黒猫は周りを見渡す。子供は鰐男に目を向けながらゆっくりと猫を寝かせる。


『私は・・・生きているのですか?てっきり死んだものと』


 猫が目を向けるも鰐男は睨みつけるだけでずっとその場で待機していた。


「ちっ」


 鰐男はずっと壁を殴ったりして無理やり落ち着かせていたため拳からは血が出ている。だが、その傷もすぐに肉が盛りあがり再生する。再生の痛みで余計に彼の怒りは増した。


『その回復。やはりあなたは生きていたのですか。しかし、確実に消し去ったはずなのにどうして・・・』

「知るか!」


 鰐男は心に余裕がないため吐き捨てるように言うともう一度猫に近づく。時間が経ったため少しだけ落ち着いていたが猫の声を聞いて再び怒りが湧いてしまった。


「駄目!」

「・・・くそっ!」


 また子供が守りの姿勢を取ると彼は壁を殴り、再び入り口付近に居座った。それを見て猫は違和感を持った。


『なぜ私を殺さないのですか。私はあなたを殺しました。今、あなたは私を殺したくて仕方ないはずです』

「五月蠅い!黙れ!」


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