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自由奔放なキメラ達  作者: 日和見兎
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再生の難点

鰐男と言ったり、化け物と言ったり彼と言ったりしますが、全て同じです。名前はもう少しでだすので待っていただけると嬉しいです。

『危険な賭けでしたがどうやら無事に終わったようです』

 

彼が燃えたライオンと表現した動物が口を開けて喋る。その見た目は言及する部分が多すぎるが、まず全身を黒い毛皮が覆っている。瞳の色は血のように赤い。そして鬣があるため性別は雄。ここまで普通のライオンと同じ部分といえるかもしれない。だが、他は全てこの世のものとは思えない特徴をしている。まず人語を話せる。今も目の前の子供に重く低い声を出して話しかけている。それに子供は特に怖がることもなく受け答えをする。


「終わったの?」


『ええ、首を刎ねました。即死で間違いないでしょう』


 無口なのか最後まで喋りはしないが子供は獅子の体を見回して怪我をしていないか調べている。目の前の子供が自分を心配していることを感じた猛々しい獅子は軽く動いて無事なことを見せる。子供が安堵しているのを確認するとライオンは先ほど自分が殺した黒い鰐男を見る。死体は頭と体で分かれており、体から離れた場所にある頭の目は驚愕で見開かれ、口を開けたアホ面で固まっていた。ライオンは役目を終えたと判断すると体から蒸気のような煙を発する。するとライオンの体は風船のように萎んでいき、最終的には子供が抱えられるほどに小さくなった。鰐男が今の姿を見ても、黒い毛並みをした小猫にしか見えなかっただろう。子供は小猫となったライオンを抱きしめ、多少の熱を持つ毛皮を撫でた。子供の手には不安や緊張からきた震えがまだ収まっておらず、落ち着く時間を必要としていた。


「無事で、良かった」

『はい、思ったより弱かったのが幸いでした』


 子どもは安心感から啜り泣き始め、腕の中の小猫を強く抱きしめる。しっかりと固定されてあまり動けないが、猫は何度か背後の鰐男を見る。何度も見たのは鰐男の死体に違和感を持ったからだ。


(この城に外部から来たしては弱すぎますが・・・)


小猫は城や森の事もよく知っており、今の鰐男が森を抜けてこの城にたどり着くのは不可能だとなんとなく感じていた。考察を行いながらしばらく死体を見ていた時、小猫は変化に気付いた。


『?』


 鰐の頭の方は相変わらず固まったままだが、体の方に動きがあった。首が生えていた部分の血が止まり、断面の肉がウニョウニョと盛り上がったのだ。


『な!?』


 小猫は子供から無理やり離れるとすぐに死体を警戒する。小猫が観察している間も変化は止まらない。盛り上がった肉は徐々に形を作っていく。骨、顎、舌、歯、眼球、鱗。瞬く間に首を斬り飛ばす前と変わらない体に戻っていった。更には子供が刺したナイフも体内から肉が盛り上がることで外に放出され、床に落ちる。


『ど、どういうことですか!?』

「・・・!」


 小猫は驚きを、子供は恐怖を顔に張り付かせて再生した鰐男を見ていた。元通りになった鰐は、両手を使い、体を起こすとゆっくりと目を開けた。


「ん、んー、何、何が起こった?」


 寝起きのような呑気な声だった。彼を知る人物が見ればおはようと言ってしまうだろう。だが、そんな彼を見た小猫と子供は一斉に警戒した。


「俺は、えっと部屋に入ってそれから・・・」


『離れてください、もう一度仕留めます!』


 小猫は子供を部屋の端まで離すと再び戦意を寝ぼけている鰐男に向ける。次は必ず仕留めるという意気込みの下、改めて獅子に変身した。


『グオオオオオオオオオ!』

「は!?いや、ちょっと待てくれ!俺は敵じゃ・・・」


 突然のことだったが、直前の記憶が戻り始めていた彼は、恐怖で後ずさりながらも無害を主張する。必死に止める彼の目の前では、黒い小猫が巨大化し、体長が三メートル程のライオンになるという悪夢のような光景が広がっていた。それだけではなく、巨大化と同時に頭から首にかけての毛が伸びて赤く変色し、雄ライオンが持つ鬣になる。やがて彼の目の前には、紅の鬣と瞳を持つ黒い獅子が誕生した。


『グオオオオオオオオオ!」


 ライオンの双眼が彼を睨む。ライオンが一歩進むごとに彼は一歩後退する。だが、ライオンと彼では歩幅が違うので距離は詰められる。彼は牙をガタガタと鳴らした。虎と同じように殺される自分を想像して恐怖が蘇ったのだ。

 彼は逃げようとするが後ろを振り返ったら捕まって死ぬのは虎の時に知っているため出来ない。また、部屋の出口は彼の反対側にあるため、必然的に黒い獅子を避けなければいけない。何か打開策がないか彼は必死に考えるが、獅子は彼に時間を与えてはくれなかった。


 バッ!バシッ!


 彼が最後に聞いた音だった。彼は自分の首が刎ねられた瞬間に意識を失った。彼は確かに死んだ。しかし、体は再び頭を作る。それも、最初に刎ねられた時よりも少し早い。


『な!?』

「はあ、はあ。戻ったのか?」


 生きた心地がまったくしない。だが、ひとまず彼は自分の安否を確かめた。首は元に戻っており、代わりに床には新たな首が転がっていた。


『ハアアアアアアアアアア!』


 首を刎ねても無駄だと理解したライオンは鰐の頭を右前足で地面に押し倒すと今度は彼の腹部に噛みついた。


「あああああああああああああ!」


 自分の足の下から悲鳴が聞こえるのも気にせず、腹部の鱗も内臓も、骨も、肉も、潰す勢いで噛み続ける。しばらくしてブチっという音と共に彼の体は上下で分かれた。


「あ、あ・・・」


 もはや悲鳴とは言えないような声をあげる。彼も、加害者である獅子も、死んだと思った。だが、現実は違った。


「い、痛い痛い痛い痛いぃぃぃ!」


 彼の体は再生した。分かれた下半身の代わりに新しい下半身が、肉が盛り上がることで形を作り、彼を復活させようとする。


『これでも生き残りますか!!ならば、死ぬまで続けるのみです!』


「待って・・・ああああああああああああ」


 彼の言葉は残虐な獅子には届かない。今度は彼の左腕に食らいつく。彼はまた悲鳴を上げた。そして、腕が捥がれた瞬間、再び肉が盛り上がり新しい腕を作る。彼の痛みを伴って。


「いああああああ!やめてくれえええええええええええええええええ」


 彼の再生には致命的な欠陥があった。それは、再生するときに体の神経も作るので痛みを伴うというもの。分かりやすく言えば体を引き裂かれ、無理やり繋ぎ合わされる感覚を再生するたびに味わうというものだった。意識のある彼にとっては生き地獄だった。


「あ、あああああああ」


 彼を解体するかのような状態はしばらく続き、段々と終わりが見えてきた。彼の体の再生が遅くなりだした。それは、彼が再生を拒んだからか、それとも再生にも限界があるのか。どちらにせよ、彼に救いが訪れた。


「殺して・・・」


『ぐう。しぶとい。こうなれば一気に終わらせます!』


 ライオンは一度彼から口を離した。彼は涙を流したままライオンを見た。そして再び理解し難いものを見る。獅子の鬣が炎のように燃えだしたのだ。偽物の炎ではないということは彼が鱗越しに感じる熱さから感じることが出来た。絶望していた彼はその神秘的な光景を見て思わず「綺麗だ」と思ってしまった。


『消し炭になりなさい!』


 そうして彼は至近距離からより一層激しく燃え盛った炎を浴びて文字通り消し炭となった。ほんの一部を除いて・・・。


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