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自由奔放なキメラ達  作者: 日和見兎
46/81

46、一方的

 死神と呼ばれた子供はぐるりと周りを見渡し、アルルカとアンクロ、そして人質となっているシスで目が留まる。


「団長!どうしてこちらに!」

「ん?ああそれはね・・・あのキメラを抑えておく方法ないか考えて、人質とかどうだろうと思ってさ。探してみようかなと、戻ってきちゃった」

「クロロ、あの化け物の輸送は!?」

「密閉された箱の中にアレの魔石と僕を入れておいたから大丈夫だよ。とはいえ…」


黒装束の子供はラザーの問いに答えながら、冷静に状況を把握した。



「もしかしたら彼が起きるかもしれないし、あまり長居は出来ない。とりあえず、この事態の鎮圧をしようか」



 死神はまっすぐにアルルカを見ると、マスク越しにだが薄く笑う。身の危険を感じたアルルカは銃口を死神へと向けた。弾が発射されるかもしれないというのに死神は余裕を崩さないで、駆け出す姿勢になる。




「!」

「今だ!」



 アルルカの注意が完全に自分の軍団長へと向いている隙にシスはアルルカの腕を掴むと、背負い投げをする。アルルカの軽い体は同じ子供体型のシスをもってしても容易に持ち上げられ、背負い投げは綺麗にきまり、地面に倒された拍子に手から銃を手放す。




『なんてことを!』



 アンクロは技をきめたシスに向かい、獅子化をして生まれた巨大なかぎ爪を振りかざす。猫のままで火を使わないのはこの距離ではアルルカも巻き込んでしまうからだ。



「団長!」

「よくやったねシス」



 シスへと向かっていたかぎ爪のついたアンクロの前足を、力強く踏み込んで近づいた死神が蹴り上げる。アンクロの強靭で体重の乗った攻撃が、見た目が明らかに子供だというのに蹴り上げられたのだ。あまりのことにアンクロはたじろぐ。だが、死神と目が合い冷静になると今度はその死神に狙いを定め、脳天から踏みつぶそうとする。



「うわあ、凶悪」

『!?』



 アンクロの攻撃は問題なく死神に命中したはずだった。だが、アンクロの踏みつぶそうとした足は死神の体をすり抜け、地面に着いた。服すらすり抜けたことにアンクロは目の前の子供が幻覚ではと思ってしまう。



「その鬣・・・君は精霊か。だったら多少傷つけなきゃ大人しくはしてくれないよね」



 死神は踏み込みジャンプすると獅子化したアンクロの鼻先を殴った。子供から殴られたとは思えない、鉄拳と呼べるような衝撃がアンクロを襲い、鼻から白い血を流す。



「うん、血が白い。やっぱり精霊か。だったらエネルギーを削れば問題なさそう」



 そういって死神は上空に手をかざす。何をしているのかと全員が思っていると、上空からとんでもない速さで何かが落下してきて、死神の体を貫通し、地面に刺さった。



「やっぱりキャッチは難しいなー」



 そういって自分の顔から生えているように見える物体を掴むと地面から引き抜く。それは言ってしまえば鎌だった。刃の長さが死神と呼ばれた子供の全長ほどもある錆びた大鎌だった。死神はそれを易々と持ち上げ、くるくると回す。アンクロは目だけで笑っていると分かる死神を見て、背筋が凍る。



(なんなんですかあれは)



 クロロにも抱いたことと全く同じ気持ちを目の前の死神にも抱くと、無意識に後ずさりしてしまう。



「逃がさないよー」



 死神が一歩を踏み出したのが見えた次の瞬間にはアンクロの顔前に迫っており、あまりの速さに驚愕しているアンクロに考える暇を与えさせず、死神は持っている錆びた大鎌を振るう。鎌を振るってアンクロの体を削る死神の姿は傍から見れば空中で鎌と一緒に回転しているように見える。



『グアアアアアアアアアアアア』

「いつまで持つかなー?」



 殺さないように敢えて致命傷を避けた攻撃を繰り出す。アンクロのエネルギーはゴリゴリ減っていき、死神はなぜかアンクロの攻撃を受けない。死神本人にはダメージが通らなくても鎌には攻撃が通るため、刃の腹を殴ることで軌道をずらし、消費を減らしてはいるが、ジリ貧だった。



「アン、クロ・・・」

「大人しくしろ!」



 シスに地面に倒され、腕を抑えて拘束されているアルルカは、アンクロが傷ついているのを見て、動こうとする。だが、技が完全にきまっているため、抜け出すことが出来ない。それこそ、腕を折る覚悟がなければ。



 ビキビキ


「おい、やめろ!腕が折れるぞ!」

「ぐっ、ううう」



 ビキビキバキ



「だ、誰かこいつを抑えるのを手伝ってくれ!このままだと、」



 バキン



「ああああああああああああああああああああ」



 アルルカが無理をしたせいで本当に脱臼した。シスはあんまりのことに慌てて手を放してしまう。シスがアルルカを凝視している中、だらんと垂れた右腕と歯を食いしばった表情をしながらアルルカは左手で銃を構える。狙うは死神と呼ばれた子供である。



「はあはあ・・・・」



 痛みで意識を失いかけているが、それでもなんとか立っていた。銃口がぶれる。それでも指は引き金に力を込めていた。アルルカが引き金を引こうとした瞬間、アルルカの左腕に矢が飛んできた。



 ヒュン・・・ぐちゃ



「・・・?」



 アルルカが呆けた表情で矢が刺さった自分の腕を見る。停止したアルルカに痛みが襲う。それと同時にとてつもない眠気が上ってくる。体の自由が利かなくなる中、アルルカの目から涙がこぼれた。



「アンクロ、クロロ、ごめ・・・」



 ふらりと地面に倒れると、そのままアルルカは動かなくなった。



「何しているんですか皆さん」



 シスが信じられないような目で、矢を打った人物を見る。クロスボウを構えていたのは、後処理係のディスポだった。彼は人の良さそうな顔でシスに近づくと、彼女に怪我がないか見回す。



「ディスポ、なにして・・・」

「?麻酔矢を打ちました」


 首を傾げて自分の行為を話すディスポにシスは仲間ながらに恐怖を抱くが、アルルカの方へと向き直り、安否を確認する。アルルカは小さく呼吸をしており、死んでいるわけではなかった。



「麻酔矢だと?それは、魔獣用のか?」

「いえ、私の管轄では人の処理も行いますからきちんと人用のを使いましたよ」



 魔獣用のであれば確実に死んでいたため、そこは不幸中の幸いだが、麻酔を子供に使うことも矢を打つことも正気の沙汰ではない。しかし、それでも生きていることにシスはとりあえずほっと安堵の息を出す。



「もう少し、別の方法が・・・」

「手っ取り早いですよ?」

「・・・」



 ディスポは何が悪いのかよく分かっていなかった。









『アルルカ様!』


 アルルカが倒れたのを見たアンクロは、ちまちまと戦っていたがためにアルルカが死んでしまったと思った。怒りが内側から溢れ、それが炎の鬣にも影響を及ぼした。



『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』



 風もないのに鬣の炎が揺れ、メラメラと燃え盛る。異変を敏感に感じ取った死神は、笑ったままの表情を少し崩した。




「ああ不味い。みんな伏せて!」

「!?」



 死神の声を聴いた全員がその場に伏せる。頭を腕で守り、身体を小さくしようとする。死神は背後に多くの人々がいるのを見るとアンクロに真正面から向き直り、手をかざす。




「かもーん」

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』




 ドガーーーーーーーーーーーーン!!!!




 アンクロから今まで見たこともないほどの熱と光と衝撃波が発せられるとそれは砦一帯を破壊できるほどの大爆発となった。









『ふう、ふう』


 アンクロは全てを出し切ったと猫の形態に戻り、息を整えようとする。傷を治す力は残っておらず、火球も吐けない。完全にただ喋れるだけの猫になってしまった。土煙が晴れはじめ、周りの惨状が目に入る。


『はい?』


 だが、アンクロが思った光景ではなかった。アンクロの周りは黒い霧のようなもので覆われ、外の景色が見えなくなっていた。



『どういう・・・』

「危なかったー」



 その声はとても近くで聞こえた。アンクロがはっとして声の出所を探るも霧が濃くて見えない。だが、アンクロが探さなくてもそれは自分から姿を現した。周りの霧が一点に収束され、霧の塊は人の形を作り、再び黒装束の子供に変形した。



「それじゃあしばらく寝ててね」



 死神はアンクロに近づいて持ち上げるとお腹へと中指と人差し指で突いた。その瞬間、アンクロは目を見開くとゆっくりと目を閉じた。




「ふう、皆大丈夫?」




 死神は背後にいる人々に振り返るとそれぞれの顔を見渡す。全員安全だと分かったのか、ゆっくりと立ち上がった。




「団長・・・・」

「ん?ああ、その子生きてる?」

「はい・・・」



 死神はアンクロを持ったままシスに手当されているアルルカに近づく。アルルカは息こそしているもののその顔は青白く、寒いのか体が震えていた。



「シスー、この子ってなんで暴れたの?」

「…幸せを返してと言われました」

「幸せ?」

「団長、僕が説明します」


ラザーが歩み寄ると、簡単にこれまでのアルルカの言動を伝えた。



「ふーん、この子があのキメラのことを自分の幸せと言ったんだ」

「クロロ、アルルカ、そしてあの猫にはどうやら仲間意識があるようです」

「ふふふ、これは探す手間が省けたかな?分かったこの子と、あの猫はうちの団で預かろう。その前に応急処置だけしとこうかな」



 黒装束の子供はシスと場所を変わると、マスクをずらし、アルルカの口元に顔を近づける。



「ふう」



 軽く息を吹きかけ、死神の息がアルルカの体内に入った。皆が見守る中、アルルカの体に変化が起きる。矢で受けた傷が塞がっていき、呼吸も安定しだしたのだ。都市から派遣されてきた部隊の面々が驚く中、死神もまた驚いていた。



「え、だてん・・・」

「団長?」

「あ、いや、うん、なんでもない」



 なんでもないといいながら死神の顔には困惑があり、何やら考え込んでいた。不思議に思い、シスが見つめると死神は途端にいつもの薄ら笑いを浮かべる。



「ははは、ごめんさっさと要件を言わなきゃね。シス君、今から何人か連れてこの子をこっちによこしてくれない?」

「アルルカをですか?」

「うん、そう。全身を拘束しておけば大丈夫だから。あと、体力をかなり消耗しているから気をつけてね」

「団長はどうされるのですか?」

「僕はこの猫を持って先に行ってるよ。流石に生物は無理だけど精霊なら呼吸しないし大丈夫だから。多分まだ大丈夫だけど、急いで戻らないとあれがどんなことするか分からないし」




 死神は他の面々にも簡単な指示を出すと、ふわりと空中に浮かび、アンクロを抱えて飛んで行った。



















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