44.誰にも奪わせないもの
ちょっと短いです
アルルカがクロロとアンクロにこだわるのには理由があった。それはまだシスとラザーが来ておらず、クロロもどうすれば状況を打開できるのか分からないでいた時、一つの出来事があった。
「おい、さっさと来い!」
「いやああああああああああ助けてええええええ」
子どもがまた連れていかれる。檻へと戻ってきて死んだ目をする子もいれば二度と戻ってこない子もいた。何度もその光景をアルルカは見てきた。大人の怒声、子どもの悲鳴、人の肉が殴られた時に発する音、死んだ目、諦めようとしない目、遊びを行おうとする盗賊の笑顔など、そこはこの世の全ての表情と感情が揃っていると思わせるほど種族だけでなく内面も選り取り見取りだった。
(怖い、怖い。息苦しい)
アルルカはその檻の中で一人、体育座りをして少しでも体を小さくしようとしていた。周りの全てと関わることを拒否しようとしていた。労働や特別な理由で檻を出る時以外はずっとそうしていた。誰とも関わらなければ現実を直視しなくてすむと、一人を過ごしていた。だが、それを許さない存在がいた。
「おい、出ろ」
アルルカが顔を上げると、クロロと目が合った。自分を一人にしてくれない存在が来たのだと分かった。アルルカは一人でいたいと思い、再び顔を伏せた。
「言っとくがお前に拒否権はない」
「・・・」
アルルカは結局クロロに無理やり自室へと連れてこられた。いつもと少し違うのは部屋にアンクロもいたことだった。アンクロはぺこりと会釈した。それに対してアルルカは反応を返すことなく部屋の隅で再びうずくまった。
「さて、一応だが定例報告会をするか」
クロロとアンクロは、うずくまって会話に加わろうとしないアルルカをよそに、自分たちの活動を振り返って話していた。どんなことが分かったかを教えておけばお互いの役に立つかもしれない。こればかりは真剣に話した。
『魔石を食べたのですか・・・』
「ああ、気になったことがあってな」
『鳥も似たようなことをすると聞いたことがあります』
「それは消化のためだよ」
二人だけで会話しているのが少し気になるのか、クロロは部屋の隅に居るアルルカにも話を振った。
「アルルカは何か話したいこととかあるか?」
「・・・別に何も」
クロロを跳ねのけるような返事だったが、特にどうとも思わないのかそうかとクロロは言いながら頭を掻いた。アルルカはクロロのこれまでを思い出し、何気なく気になっていたことを聞いた。
「クロロ、死ぬのってどんな感じ?」
突然そんなことを聞かれるとは思わなかったためクロロだけでなく、アンクロも驚く。
「どうって言われてもな・・・痛い、かな」
「死ぬのは痛いことなの?」
『というかクロロに死ぬということはあるのでしょうか?』
「は?あるぞ。あ、これ死んだなってわかるからな」
クロロは自分の経験から死ぬまでには少なからず痛みが必要だと説明する。一番痛みの少ない死に方は一瞬で頭を潰された時だとも言った。逆にチマチマとした痛みでゆっくり死ぬのはつらいということも言った。それを聞いてアルルカは、あまりクロロ達を見ないようにしながらぼそりと話す。
「私は、死にたい・・・」
「は?」
『はい?』
アルルカの呟きに対する二人の反応は別だった。クロロは真剣な表情になり、アンクロは冗談なのだろうと呆れている。アルルカは二人の反応が怖くて見ることが出来なかった。
「なあ、何か言いたいことあるなら言ってみろ」
「ない」
「理由がなかったら死にたいなんて思わないだろ」
「だから、理由なんてない・・・ただ、死ねば周りを見て苦しくなくなるかなって」
アルルカがクロロ達を見ないで応答をしていると、段々とイラつき始めたアンクロが近づき、無理やりアルルカの視界に入ろうとする。アルルカはそれを躱そうとするが、アンクロが肉球のある前足で頬を押さえつけ、顔を固定させた。
『いい加減にしてくれませんか?あなたが辛いのは何となく分かりますがこれ以上手間を増やさないでほしいです。エネルギーが足りないのですか?』
肉球からほのかに暖かい熱が発せられ、アルルカの頬から魔石へとエネルギーを送る。それはアルルカの寂しくて虚しい体内を温めた。アンクロから送られてくる熱を感じてアルルカの目に涙が溜まる。
「なにも、無いほうが、楽になれるって思って。一人にしてくれない二人が、嫌いで」
『なんですかそれは?もしかしてそれがアルルカ様の死にたい理由ですか?意味が分かりません・・・』
「ああ、なるほど」
アルルカの発言で何となく言いたいことが分かったクロロは、アンクロの首根っこを掴み、持ち上げると、アルルカの膝の上に乗せた。
『何するんですか!?』
「いや、つまりあれだろ。アルルカは寂しいんだろ?だったらペットのお前がアルルカの傍に居たらいいんじゃないかと思ってさ」
『・・・私を、ペットというのですか?』
「怖い・・・じゃなくて、寂しくて空いた穴は誰かが入って埋めてやればいいと思っただけだ」
アンクロが抗議するような目をクロロに向けていたが、アルルカに背中を撫でられたことで不承ながら大人しくすることにした。最初は軽く撫でていたが、やがて感情の堤防が決壊したのか、徐々に勢いが増し、最終的にはしっかりとアンクロを抱きしめて泣き出した。
(そうか、不安だったのか・・・)
今まで自分のことに必死すぎて、子どもであるアルルカの心情にまで配慮ができなかったことにクロロは申し訳なく感じた。どうすればいいのか分からないといった表情のアンクロと目が合うもクロロにもどうすればいいか分からなかった。
(子供が寂しがっている時にすること・・・分からん!)
前の世界で兄弟がいなかったクロロには子供の寂しさを埋める方法など皆目見当がつかなかった。だからクロロは自分が幼いころに母親にしてもらったことを思い出していた。
(俺が泣いてたら母さんは、仕方がないみたいな顔して・・・)
クロロの脳内に、小さな自分の頭を撫でて頼りない体を抱きしめてくれた母親が思い出された。ただ、それをクロロがやるのは躊躇われた。
(やったら完全に犯罪・・・いや子供だから仕方ないのか?下心もないし・・・)
クロロが迷っている間にアルルカは泣き止んだが、前はアンクロが埋めているとはいえ、背中は寂しそうに見えた。
(嫌われても、いいか)
なんとなく放っておけなくなり、クロロはアルルカを下からアンクロごと持ち上げると胡坐をかいて出来たすき間へと下ろした。人工的な座椅子のようなイメージを持ってくれればいい。背中にはクロロがいて、前にはアンクロがいるため少しは寂しさが紛れるのではと考えて行動したが大胆すぎたかとした本人が焦り始めた。
「・・・」
「・・・好きな時に離れてくれて構わないからな」
「・・・分かった、じゃあもう少しだけ」
一応逃げてくれていいと言って置き、嫌われても文句は言えないとクロロが思っているとアルルカはクロロに背中を預けた。前には毛玉、後ろには鱗という羨ましいのか分からない体験をしながらアルルカは力を抜いて目を閉じた。
(暖かい)
「私の唯一つの居場所を、奪わせはしない。誰にも」
右手には一応切れるナイフを持ち、傍らにいる幸せの半分が敵を睨みつけていた。多くの銃を向けられ、殺気立った人々を見ても、アルルカはあまり恐怖を感じなかった。ただ幸せを守りたいという欲望のみが内側を支配していた。




