41.黒装束の子供
「さて、せっかくだから中を少し探索しようかな・・・お宝お宝ー」
黒装束の子供は、クロロを殺したあと、ずらしたマスクを元に戻し、城へと向かおうとする。すると、後ろから身じろぎする音がして、思わず立ち止まった。最初は周りの死体に隠れていた魔獣が動いたのだと思った。だが、後ろを向いてそれを見たことでそれは違うと分かった。
「え?嘘」
子どもは目を瞬かせながら先ほど自分が確かに殺した存在を凝視する。クロロは、子どもの前で目を開けて、咳をし、起き上がろうとした。だが、身体が上手く動いてくれなかった。
「ゴホッゴホッ・・・・・な、何が」
咳が止まらず、ふらつく体をなんとか立たせようとするが、全身に重しでも置いているかのようで一歩も動けなかった。クロロは寝転がった状態で周りを見渡す。いつの間にか生きている魔獣達は逃げて居なくなっており、あるのは死体ばかりだった。自分の体をなんとか見ると、鱗の色に配色が増えており、少々おしゃれな感じになっていた。
「シュルルルル」
「ん?」
「シュル」
「・・・・・は!?」
背中が重いと思いながら目を向けると、黒い蛇が数匹視界に入った。とても至近距離でだ。
「はあああああああああああああああああああ!!!????」
空中を彷徨う蛇達に驚き慌てて背中を触ろうとするも、全身が石像のように感じるほど動かなかった。よって、まずは体の重しを取るために鎧竜とシャープクロウ蜥蜴を直し、鉛のように重い腕を動かしながら背中を擦ると、チューブのような細長いものが背中についている感覚があった。ゆっくりとチューブの先まで手を這わすとチューブの先は蛇の頭であり、触っていたものは蛇の体だった。
「ど、どうなってん・・・だ!?」
蛇達はシュルリと、クロロを襲うことなく、悠々と浮遊しており、特に害はなさそうに見えた。蛇のこともそうだが、混乱する頭を整理しようとクロロは必死に思考を巡らす。
「確か、無我夢中でヒュドラと戦って、なんかあってえっと・・・」
「ねえ君!」
「え、子供?なんで子供?」
クロロが普段使わない頭を必死に働かせていると後ろから声がしたため、そちらを見る。すると、黒装束で白マスクをつけた子供がトテトテとした足取りで近づいてきた。その際、蛇達が襲い掛かったが、子どものポーチから大鎌が飛び出すと、子どもはそれを振るう。一振りしただけで蛇は胴体半ばから断ち切られた。蛇達は再生することなく、ぐらりと倒れる。
「なんで死んでないの?」
「え、いや、え?」
クロロの傍でしゃがみ込むと子供は興味津々という目でクロロの全身を観察する。その際、手に持った大鎌は再びポーチに仕舞われ、クロロはそれが、盗賊達が物を収容するときに使っていたミミックだと分かった。
「よし、調べてみるからじっとしてね」
「は?あが!?」
「はい、じっとして。調べたいことがあるから」
「あがあ、あああああ」
「じっとしてよ!」
ゴキッ
「・・・・!」
何を思ったか、子供はいきなり手を口に突っ込み、喉へと侵入した。それを離そうとする抵抗に鬱陶しく感じたのかクロロの下あごを掴むと顎を外した。痛いのと苦しいのが同時にきたため、身体は自然と気絶した。その間も子供はクロロの口を掴み、腕を奥の方へ突っ込む。クロロの耳元に口を近づけると、マスク越しに話しかけた。
「早く君の魔石を見せて。じゃないとこのまま続けるよ」
ぴくりとクロロの瞼が動くと、子どもの手に何かが握られた。子供が口から腕を抜くと、手を開いた。中には、小さな鈍い紫色の石があった。それはクロロの魔石だった。子供はそれをじっと見たあと、ポツリと呟く。
「欠けてる?」
じっくりと見ていると、魔石に変化があった。赤く細い紐のようなものが魔石から生えたのだ。生き物のように紐は動き、ピチピチと子供の掴んでいる手を叩く。魔石から生える紐の数はどんどん多くなっていき、それらがお互いに絡まったり、巻き付いたりしながら形を作っていく。この世のものとは思えない変化を、子どもは瞳孔を開くほどの驚きを持って見つづける。
「まさか、そんな・・・こんなことって・・・ああ、奇跡って本当にあったんだね」
クロロの起こしている現象に合点がいった子どもは魔石を大事そうに抱きしめると、口元をワナワナと震えさせる。そして大事そうに魔石を握りしめた。
ピチピチ
「ん?ああ、そっか、ごめん」
魔石から生えた紐というより、触手に近いうねうねから、握られたことに対する抗議のようなものがきたため、子どもは手を放す。触手は再び絡まり、時には分裂しながら体を形成していき、肉塊のようになり、そこから骨や、内臓、鱗が現れ、やがて完全に元の、黒い鱗の蜥蜴人へと戻った。
「きっつい」
クロロが周りを見ると、いつの間にか子供以外にも人が複数いた。全員、クロロを見て唖然としている。
「ねえ、君、キメラでしょ!?」
「は?」
「僕だよ!忘れたの?同士の死神だよ!寝ぼけてないで思い出してよ!」
「いや、俺、あなたと初対面・・・・」
「馬鹿もの!」
「ゲフ!いきなり殴るな!」
晴れ晴れとした笑顔を向けてくる死神と名乗る子供の追及を逃れようとしていると、更に人が集まり、猟銃のようなものを持った人々がクロロを囲み、銃先を向けた。自分がどういう状況なのか理解したクロロは子供を突き飛ばすと、森に続く門の方へと走り出した。
「待ってよ!どこに行くんだよー!」
後ろから子供の声が聞こえたが、それに見向きもせず、門へと走る。当然、それを止めようと銃兵がクロロへと銃口を向け、一度だけ止まれと叫んでいたが、すぐに発砲音が連続して響いた。
「ぐ、命中するのか」
盗賊達の時は数撃ちゃ当たるというほど銃の扱いが雑だったため、よく狙っているとはいえ、全弾命中するということに驚いた。弾はクロロの鱗を貫通し、身体の肉に埋め込まれた状態で止まった。
「再生が・・・」
いっそ体を貫通してくれれば再生は上手くいっただろうが、身体の半ばで止まっているため、弾を抜かなければ再生が出来ない。ならば、内部の肉で弾を外に押し出そうとしたが、ある程度いったところで急に動かなくなった。
「・・・・もう、限界」
自己形成が発動し辛くなり、身体の再生も遅くなった。弾が埋め込まれた状態では上手く体を動かすことが出来ず、更に発砲音がして両足を撃ち抜かれた。体を支えられず、うつ伏せで倒れる。もう弾を体から抜くほどの余力も残っていなかった。
「ここだとゆっくり話せないからもう一回死んでてもらえる?キメラ?」
「・・・・俺は、クロロ。クロロです。、あなたとは、初対面です。間違いなく」
「・・・・そう、分かった」
追い付いてきた子供が尚もクロロのことをキメラと連呼するため、最後の訂正をする。倒れているため、子どもを見上げることしかクロロは出来なかった。子どもは一瞬目を瞑る。次に目を開けた時には嬉しそうだった表情がなくなり、ただ真っすぐにクロロを見ていた。
「ふぅ」
マスクをずらして口を近づけ、息をクロロの顔近くに吹きかける。息はクロロの鼻や口を通って体内に侵入し、再びクロロは眠るように死んだ。
「団長!」
「団長、よく来てくれました」
「うん?やあやあシスとラザーじゃん、元気してたー?」
討伐隊が砦や城壁内の調査を行っている中、シスとラザーが子供へと近づく。子供は軽い態度で返答する。先ほどまでの表情や感情は見えなかった。
「よかったです。団長が来てくれなければどうなっていたか」
「魔獣の軍団が砦を襲うのは全くの想定外でした・・・」
「ははは、いろいろあったんだねー」
シスとラザーは鋼鉄製の犯罪者などを収容し移送するために作られた馬車へとクロロが運ばれていくのを見送る。行きは馬車が通れる道を作ったりするので大変だが、帰りはその道を帰るだけでよいため、一時収容所には早く着きそうだった。
「それに・・・あいつの存在だ」
「うん、あの蜥蜴人は異常も異常だよ。団長はあれをご存じだったのですか?」
「ん?ああ、ちょっと知り合いと勘違いしてね。もしかしたらと思っちゃって取り乱しちゃったよ」
運ばれるクロロには鎖が何重にも巻き付けられており、猿ぐわのようなもので口を塞がれていた。拘束具で体の自由は奪われているため、よっぽどのことがない限り破られることはなかった。
「あれは、死んでるんですよね?」
「多分直ぐに生き返るよ。時間をかければこっちは手が出せなくなるから急いだほうがいいね」
「団長でもですか?」
「抑えることは出来るけど、僕じゃあれを真には殺せない。君たちが僕を殺せないのと同じでね」
「!」
団長と呼ばれる子供の発言は、シスとラザーだけでなく、王都から派遣された直轄部隊の人員たちも愕然とする。それほどまでに強大な存在だとは思わなかったのだ。
「軍団長でも・・・ですか」
「だって、位的には僕と同じだし。魔石の破壊も不可能と思っていいよ」
「つまり、あれには完全に打つ手なしということか・・・」
「まあ、僕がいればとりあえずなんとかなるとは思うよ。ただ、扱いは気を付けないとねー」
そんなこんなでクロロの移送の手筈が整った。
「さて、帰ろう」
「いや、団長は仕事してください」
「・・・帰る」
「あ!おい皆捕まえろ、団長が逃げるぞ!」
「嫌だよー副団長に聞いてよー」
「こんな時に子供の真似しないでください!」
シスとラザー、そして討伐隊の面々が団長と呼ばれる子供を追いかけまわす。こうして、いろいろ起こったこの地でのクロロの戦いは終わろうとしていた。




