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自由奔放なキメラ達  作者: 日和見兎
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泳ぎ方

 何故追ってこないのか理由は分からないが、ひとまずは助かったと思ったため、彼は安堵して体の力を抜いた。しかし、もしかしたら嗜虐性が強く、散々弄んでから殺そうとするのではないかと思い、再び泳ぎ始めた。


「どうか、水が苦手な虎でいてくれ」


 彼は虎を猫と同じように考えているようだった。虎から逃げるために平泳ぎをして対岸を目指す。彼の体内時計では数分泳いだが、一向に対岸が見えてこない。引き返せば虎に出会う可能性があるため、ただ無心で泳ぎ続けた。辺りは相変わらず霧が立ち込めており、自分だけ霧の世界に隔絶されたように感じていた。更に湖の底は暗くてよく見えないため静けさと相まって不気味だった。いくら泳いでも対岸は見えてこない。彼の心が不安で押しつぶされそうだった。このままでは不味いと判断した彼は泳ぎ方を改善しようと考えた。せっかく鰐の体をしているのだから、もっと体に適した泳ぎ方があるはずだ。


「テレビでは、えっと、どう泳いでいたっけ・・・たしか全身をくねらせて、手足は・・・・」


 水泳のドルフィンキックとは違い横にくねらせていたことだけは覚えていたので、彼はまず手足を一直線にして気を付けの姿勢にすると、頭の中でイメージした泳ぎ方を真似してみた。ついでに呼吸法も考えながら試行錯誤を繰り返す。

 何度か繰り返すことでそれらしいことが出来るようになってきていた。無駄な体力を消費したが気分は幾分か落ち着いた。しかし誤算だったのは、この体はあまり潜ることに適していないということだ。両生類と違うのもあるが、本物の鰐とも違い肩幅もあるため抵抗を受け、水中での活動はメインではなく、陸での歩行が主な移動手段なのだと思えた。それでも尻尾を使った泳ぎ方改革の方は良い兆しがあった。尻尾をフィンのように使うことで安定したスピードで泳ぐことが可能になった。進行方向などは両手で水を掻いて調整しているので、鼻での呼吸も合わせてそれなりに快適な泳ぎを完成させていた。


「・・・・」

 

泳ぎ方の研究をしていたころはバシャバシャと水音を立てていたが、型を見つけてからは徐々に音も無くなり、今となってはほとんど無音になっていた。順応だけは早いのが彼の人間の頃からの特技だった、


(狩りをするときの鰐もこんな感じなんだろうなー)


 本当に何もすることが無くなってしまった彼の中に、再び不安が溜まりそうになっていたとき、目前の霧に何かのシルエットが薄っすらと浮かび上がった。巨大な形に当初は警戒したが、近付くほどに鮮明になっていき、何かの建物なのだと分かるまでになった。


「やっと陸が見えた・・・疲れた」


 建物に近づくと造形や大きさもはっきりと分かってきた。


「城だ!なんでこんな所に城?しかもでかい!」


 ヨーロッパやテーマパークにある王様が住んでいる城のような建物は霧に囲まれて幻想的ではあるが、廃城なのかほとんどが崩れており、昔は美しく威厳のある姿だったのかもしれないが今は痛々しい状態になっていた。


「霧の中に建つ城とか不気味だが・・・」


 自らの不安を消すために言葉に出して呟きながら、廃城の岸辺へとよじ登った。城壁などなく、幾つもの穴を開けられ、崩れかかっている本城が建っているだけだった。彼は城の周りをぐるりと一周して他に目ぼしいものがないか探したが、そんなものは無く、湖が陸地を囲んでいた。


「また湖を泳ぐか、この人の気配がない城を探索するか。正直どっちもしたくないな・・・というかここは湖の真ん中の可能性もあるのか」


 湖の中心がこの城だった場合、再び泳いでも行き着く先は虎たちのいる森である。何も魅力を感じない。彼はしばらく休んだのち、城を探索することにした。森で虎と出くわすかもしれない中で食料を探すよりも、何も確証はないが廃城の方が安全に思えた。湖に潜っても魚がいないことは泳いでいる内に調べており、なんでもいいから食べられるものが欲しかった。お腹をグーグー鳴らしながら彼は城への探索に乗り出す。

 だが、彼は一つ間違っていた。この城は決して安全ではない。なぜなら先客がいるからだ。それを知るのはもう少し後になる。


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