39.ある場所で起きた戦い
クロロとアンクロが魔獣達と戦っている時、アルルカ達が隠れている宝物庫でもある出来事があった。
「怖い、助けてよう」
「ううぅ」
「ぐすん」
多くの子供が外からする地響きのような足音と小さくだが聞こえる魔獣の声に恐怖で委縮している中、脱出の算段を立てていた代表格の子供は冷静に周りを見ていた。
(まじいな。このままだと狂う奴が出てきそうだ)
恐怖や不安に耐えられず狂うことで楽になろうとしてきた子供を代表格はたくさん見てきた。顔にある盗賊の遊びで出来た切り傷によって買い手がなかなかつかず、砦内の檻での生活はアルルカの次に長かった。最悪なのは、狂う人を見て、周りの子供が羨ましがってしまうことだ。そんな空気にしたくはなかった。
(アルルカも不安な顔をしているな)
檻でのアルルカの手助けを見るに、やはり何か繋がりがあるのではと代表格は思ってしまう。危険を承知で助けにいったように感じたからだ。いくら安全な場所に案内させるためとはいえ、魔獣に向かっていくその姿勢は普通の子供とは違った。
ドゴンッ!
「ひい!」
「きゃああああああああああ」
大きな物音がしたため、子供たちの何人かが悲鳴を上げる。既に精神は限界であり、ちょっとした物音でも怖がってしまった。そんな時、この部屋にないはずの声が全員の耳に聞こえた。
「ふあーーー、うるせえな」
そう言ってのそりと宝などを置いている棚の下から這い出てきた男がいた。盗賊だった。外で戦っていた鎧や盾などを装備した盗賊とは違い、私服に毛布をかけており、眠気眼をこすっていた。
「ん?なんでお前らがここにいるんだ?」
その盗賊は臆病者だった。討伐隊と戦うほどの度胸がなく、こっそり隠れてやり過ごそうと数日前から宝物庫に物資と共に忍び込み、酒を飲んで寝ていたのだ。それが、子供たちの悲鳴によって起こされたというわけだ。
「そ、外で・・・・魔獣が暴れて・・・」
「はあ?魔獣が・・・団長がドジでも踏んだか?」
当然、今起こっている魔獣騒動も知るわけなく、盗賊の中ではテイムが魔獣に掛けている催眠術が解けたのだろうという考えに至った。テイムの催眠術は高度だからこそ複雑であり、浅く表面化だけでなく、心まで掌握しなければならないため、失敗も起こりやすかった。
「で、お前らがここにいるのは?」
「・・・」
盗賊の視線を向けられ、全員が口を開けずにいた。何か言うたびに暴力を振るわれていた子供たちにはしっかりと盗賊への恐怖が植えつけれていた。
「まあいいや、まだ物資もあるし、退屈してたんだ。久しぶりに遊ぶか」
「!」
「ひい!」
子供たちの顔に恐怖が色濃く出る。また、酷いことをされる。それが分かっただけで子供たちは腕で体を庇い、縮こまる。
「さーて、誰にしようか」
盗賊が指を子供たちに向けてユラユラさせると、少し大人びていて他より顔が良い女子に向いて止まった。
「お前にしよう」
「い、いやああああああああああ」
その子は逃げようとするが、狭いうえに外は魔獣だらけであり、逃げ場などなく、直ぐに追い込まれる。
「ひひひひひ、お前は直ぐに売れそうだったから結構な奴らが遊んでたな。もう慣れて、楽しくなっただろう?」
「やだあああああああああ、はなしてええええええええええ」
盗賊は腕を掴んで逃げられないように端に追い込み、壁に押さえつける。周りの子供たちは自分でなかった、良かったという安堵が多く、誰も助けようとしなかった。
「暴れるな!」
「ぐ、が」
抵抗が激しかったからと、盗賊は首を絞める。子供の抵抗が弱まればその子がひどい目にあうのは確実だった。ぎちぎちと首に指が食い込み、盗賊は笑みを浮かべ、絞められている子供は絶望と苦しさが同時に襲う。何度も行われたことであり、もはや子供たちは諦めていた。しかし、そんな状況に動いた子供がいた。
「やあ!」
「いでえ!!!!」
盗賊は背中に衝撃と痛みを感じ、子供から手を離した。痛む背中を手で擦りながら、後ろを向くと、ニット帽を被った子供であるアルルカが、木箱などを開けるために設置されていた鉄のバールを構えていた。
「何しやがる!」
「我慢、出来ない・・・・見るだけで、何もしないのはやっぱり嫌!」
バールを構えているアルルカに対して盗賊は無防備、多少は戦える状態だった。盗賊がアルルカを捕まえようとするたびにバールを振り回して対抗していた。なかなか捕まらないアルルカに対して、頭に血が上った盗賊は遊ぼうとしていた子供を掴むと、アルルカへと放り投げた。
「え?」
流石に予想外だったため、思わずバールを逸らし、子供への直撃を避ける。だが、アルルカへの直撃は免れず、正面から受け止めた。
「手間かけさせやがって」
受け止めたせいで子供に押し倒されたアルルカからバールを取り上げると頭上まで持ち上げ、振り下ろした。
「!いがあああああああああ」
子供をどかし、顔と体を守ろうとした腕にバールが当たり、痺れと痛みが全身に伝わる。確実に青あざになるだろう。当たった部分は、徐々に熱いと感じる痛みに支配され、アルルカは歯を食いしばった。盗賊はバールを遠くへと放ると、アルルカに馬乗りになり、拳を顔や体目掛けて叩き込んだ。アルルカは顔を負傷した両腕で庇う。
「ぐ、うぐ、が」
「おら、嘗めたまねしてくれたな。躾がなってないなお前は。あ?自分が何したか分かってんのか?」
何度も殴られながら、何度も腕の痛みで目の前が真っ白になりながらアルルカは心中でクロロとアンクロに謝罪した。
( 「でしゃばるな!」 「自分のことを第一に考えろ!」 『周りに溶け込み、目立たないでください、お願いします』・・・・ごめん、皆が頑張ってるのに、私だけ待ってることが出来なくて、自分にも出来ることがあるって、思って・・・・うう)
クロロやアンクロが動き回っている中、アルルカは檻の中でじっとしていることしか出来なかった。傍観者以外に道はなかった。そして、アルルカが傍観者になることをクロロもアンクロも望んだ。しかし、アルルカ本人はそれを望まなかった。
(自分も・・・何か出来るって・・・信じたかった)
だが、あまりにもアルルカは無力であり、そんな自分が嫌でしかたなかった。その結果、粋がって誰かを助けようとしてしまった。自分には無理だと知りながら。
(もっと、二人と一緒に・・・)
ガンッ!
腕で庇うことが出来ず、とうとう拳が顔に当たる。鼻から血が出て、目の前がぐわんと歪む。抗いようのない力の差があった。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ガンッ
「いてえ!」
突如、盗賊が顔を歪めて痛がった。またかと後ろを向くと、顔に傷のある子供がバールを握っていた。
「俺たちは、お前らの・・・・遊び道具じゃない!もう、こんなの嫌だ!」
「くそ、どいつもこいつも」
その子供は、周りの子供たちの思いを代表して言った。怯えながらも、力強い目をしており、その背中は小さいのに頼もしかった。
「皆も、こんなのもうごめんだろ!だったら、どうする?このまま終わりでいいのか!?」
代表格の言葉に、周りの子供たちは何も言わない。だが、ぽつりと、誰かが言った。
「嫌だ」
その言葉の後に、別の声が聞こえる。
「こんなの嫌だ」
やがて、あちこちから声が発せられた。
「こんな扱い、嫌だ」
「痛いのも、苦しいのも嫌だ」
「玩具じゃない・・・嫌だ」
「父ちゃんと母ちゃんの仇を取れないで死ぬのは嫌だ」
嫌だ、嫌だという声があちこちから上がる。代表格はバールで盗賊をけん制しながら再び子供たちに問う。
「何もしないで終わりでいいのか!?」
その言葉に、今度は全員が一斉に答えた。
「嫌だ!」
子供たちがぞろぞろと立ち上がる。目は盗賊へ向いており、顔は悔しさで歪んでいた。息は荒く、まるで獣のようだった。
「な、なんだ、おまえら?俺に盾突こうってのか!?」
「皆、敵は一人、俺たちは複数だ。今までのぶんの腹いせをするぞ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
代表格の言葉で全員が盗賊へと突撃した。武器を持たない盗賊は、いくら子供といえど、勢いに負け、地面に尻を着いた。そんな盗賊に、子供たちは群がり、思い思いに殴り、蹴り、宝物庫にある道具で叩いた。盗賊の悲鳴と、子供たちの怒りの混じった泣き声が宝物庫内に木霊し、殴る蹴るだけではあまり痛めつけれれないと考えた子供たちは凶器や鈍器を積極的に使い、盗賊の血が子供たちの顔に、床に、壁に飛び散る。長年貯めていたものは大きく、それを吐き出すのに盗賊一人ではまったく足りなかった。
「大丈夫か?」
代表格がアルルカへと手を差し出す。近くでは、子供たちが気絶してもう動かなくってしまった盗賊への攻撃を続けており、それが終わるのにはまだ時間がかかりそうだった。
「・・・・ありがとう」
アルルカは痛む腕を庇いながら、ゆっくりと立ち上がると、鼻血を拭った。
「礼を言うのはこっちだ。お前が立ち向かったから、俺も、あいつらも勇気が出た」
アルルカは盗賊に群がる子供たちを見ながら、代表格に聞いた。
「私が皆を?」
「ああ」
「・・・・そう」
未だに宝物庫の外からは魔獣達の足音が聞こえ、時折誰かの悲鳴が響く。自分に出来ることはあまりない。それでも、彼らの役に立てるのではと思ってしまう自分がいた。
「うん、ごめん、二人共」
しかし、クロロとアンクロが怒った顔をする様子が浮かび、アルルカは苦笑した。後でお説教タイムだと二人が言っているような気がして、それ以上アルルカが何かをすることはなかった。




