32.アンクロの活動
魔物→魔獣 すみません、こちらの方が良いと思ったので変更します
まだクロロが明確な作戦を思いついていないころ、一匹で奮闘していた者がいる。当然アンクロだ。アンクロは森中を走り回っていた。頭には魔獣達の生息地が大体だが入っている。しかし、それも数十年も昔のものなので今も適応されるかは分からない。そこを補うのはクロロが食べた魔石に詰まった記憶という情報だった。
『たしか、この辺りが奴らの生息域だったはずです。あれもそう言っていましたが・・・』
辺りを見回しながら探索をしていると、木の陰からとある魔獣が姿を現した。それはライオンと蛇とヤギが合わさった存在、俗にいうキマイラと呼ばれる魔獣だった。鬣があったり無かったりと違いはあるが、5匹近くのキマイラがアンクロを見下ろしていた。
『とりあえずは見つかりましたか・・・さて、森の長に話があって来ました。そこを通してもらえませんか?』
だが、言葉が分かるわけではないため、キマイラたちはアンクロを睨みつけると飛び掛かった。
『会話が出来ないというのは難儀ですね』
アンクロは猫の状態のまま火球を吐き、キマイラの顔にぶつけた。突然烈火が襲ったキマイラは痛みにもがいた。アンクロが火を使えると知ったキマイラたちは生物的本能から怖がって後退した。早い所用事を終わらせたいアンクロはキマイラたちが後退した分を前進する。
『この辺りが森の魔獣達の集会場であることは分かっていますからあとは簡単だと思ったのですが・・・』
絶壁という巨大な檻の中で魔獣達が生きてこれたのは内部を統治し、間引きを行ってきた長がいるためだ。前回は飛び兎がその役割だった。だが、飛び兎は死んだため、新たな長が森には必要だったのだ。
森全体の構造は、中心に廃城、その周りを湖が囲み、更に周りを巨大な森林地帯が囲み、最後に全てを絶壁が囲むという構造になっていた。湖に魚はいない。しかし魔獣達の貴重な水滴資源だった。湖が血や死体で汚れるのを魔獣達は嫌がる。だからクロロが湖に逃げても追わなかったのだ。
『炎獅子になると細かい炎の調整が出来ませんからなるべくこの姿で戦わなくては・・・はあ』
アンクロは面倒くさいことこの上ない環境に溜息がでる。盗賊達を纏めて吹き飛ばせば一件落着ではないのかとアンクロは思っていたが、後々を考えると最後の案にしたいとクロロが言ったから仕方なく森を走っているのだ。
『使える駒が私とあのよく分からない鰐しかいないのは苦しいですが、こればかりはどうしようもないですね。それに、駒を集めるためにここに来たのですから』
一匹で納得していると少し先に開けた場所があることに気づいた。そして、そこには待ちわびた光景があった。
「シイイイイイイイイイイ」
「ウルルルルルルルルルッ!」
「キーーーーーーーーーーーア!」
様々な種類の魔獣達が集まって輪を作り、まるで会議室のように向かい合っていた。キマイラが鳴き声を上げ、アンクロのことを知らせたことで魔獣達の視線はアンクロに集まる。獣にしては感情があるように十匹十色な反応をする。多くはアンクロを新参者と感じたようで威圧の姿勢を見せていた。アンクロはそんな空気をなんとも思わないのか鼻で笑うと輪の中心へとスタスタと動く。
『五月蠅いですね。早く長を出してほしいです』
アンクロが堂々と輪の中に入り、それも誰も入っていない中心へと座ったことによって周りの魔獣達は殺気を遠慮なくぶつけた。今にも一斉にアンクロに襲い掛かろうとしていた魔獣達を一匹の魔獣・・・一匹の魔獣達が鎮めた。
『ヤ』
『メ』
『ロ』
『ダ』
『マ』
『レ』
「シャアアアアアアアアアアアアアア」
『シズマルノダ、ドウホウヨ』
ぬらりと森の木々を交わして顔を見せたのはとんでもないサイズの大蛇だった。その数八匹・・・ではなかった。よく見ると後ろで体が一つになっており、その存在がヒュドラだと分かった。
『おや、まだ生きていましたか、ヒュドラ』
『オ』
『マ』
『すみませんが一つの頭が代表で話してください』
「シャアアアアアアアアアアアア」
『会話ができる頭が話してください!』
『フム、ワカッタ』
ヒュドラは一つの頭が代表で話すことに決め、その一つ以外は森の奥へと引っ込んだ。ようやく話が進むとアンクロは深く息を吸った。
『お互い積もる話があるかもしれませんが要件だけ言います。私を森の長にしてください』
『ネテイタカラ、ハナシナドナイガ、イイダロウ』
『そうですかやはりだ・・・はい?」
『ム?ドウシタ?』
あまりにもあっさりと了承したことにアンクロは首を傾げると動揺から少々声を上ずらせた。
『随分あっさりと認めるのですね』
『モリノオサノヤクメ、シッテイルノナラ、ダレデモイイ』
『割と重要だと思うのですが貴方がそう言うのならいいです』
森の長の役目は魔獣の生態系の管理である。減らしすぎず、増えすぎずを上手く調整するのはかなり難しいことであり、簡単に決めていいものではなかった。
『マエガ、ヒドスギタ』
『確かに、飛び兎は間引きというよりただ暴れていただけですからあれより酷くはなりませんでしょう』
飛び兎は見つけた魔獣を片っ端から襲っていたため、多くの魔獣は隠れて生活しなければいけなかった。数が増えれば飛び兎に発見される可能性が高くなるため、森の長としては乱暴だが、それなりに役目は全うしていた。本人はただ遊んでいただけだろうが・・・
『それでは、私でいいということですね?』
『ウム』
「ギャオ!」
「ギいいいいいイイイイイイイ」
「ビャアアアアアアアアアアアアア」
ヒュドラは納得したが、他の魔獣達はそういうわけでもないのか各々が鳴き声を上げて反対する。
『周りは何と?』
『チカラ、シメセト、イッテル。オサ、ナリタイノ、オマエダケデハ、ナイ』
森の長というのは頭が良いだけではいけない。自ら赴き、魔獣達を殺さなければいけない。全ての魔獣が利口ではないため、違反者を処罰したりも役目であるため、腕っぷしの良さも森の長には必要だった。だが、アンクロはそんなことかと落ち着いていた。あまりにも簡単なことにアンクロは姿勢を正すと炎を吐く準備を始める。辺り一帯を焼き尽くせば嫌でも従うこと間違いなしだからだ。
『ヒ、ダメダ。モリ、コロスナ』
『・・・』
ヒュドラから剣呑な雰囲気が現れたため仕方なくアンクロは炎を使うことを諦めた。猫のままの方が火を調節できるため、最低限の被害で済むが、それでは認めないというのなら今度は腕っぷしで競うしかなかった。体に力を込めて、膨張させていく。やがて、炎の鬣がある獅子の姿になった。
『掛かってくるといいです』
『疲れました』
アンクロは自分の周りで火傷して転げまわっている魔獣達を見ながら一息ついていた。そもそも勝負になっていなかった。近づいた魔獣はアンクロの炎の鬣に当たって勝手に火傷していき、そこを軽く腕を振るって攻撃すればあっという間に終わった。
『森の脅威の一つである火を使える時点で私の勝ちは決まっているようなものです』
ちなみに、森の脅威には火、毒、虫がある。本来なら森を復活させることが出来るこの三つも、魔石で強化されたこの世界では害悪の一つだった。
『ミゴトダ。コレナラ、ミナガミトメル』
ヒュドラの言葉に同意なのか、全ての魔獣がアンクロに頭を下げた。森の管理者として認められたのだ。
『そうですか。それでは早速ですが言っておくことがあります。私は森の管理をするつもりはありません』
『・・・ナンダト?』
ヒュドラだけでなく、多くの魔獣が頭を上げてアンクロを見る。言葉を使わなくても分かるくらいふざけるなと言っていることが分かった。だが、アンクロが猫の形態に戻ると、魔獣達を見回しながら自分の目的を告げた。
『ヒトノトリデニシュウゲキ?』
『簡単に言えばそうです。貴方たちには私の合図と共に砦に攻め込んでもらいたいのです』
計画の全貌を話す。だが、それでは完全に私欲のために魔獣を使っているため、多くの魔獣が反対として吠える。だが、それでもアンクロは押し通すつもりでいた。
『これは、森の間引きも兼ねています。人の砦に攻めるのですから被害も出ます。数を減らすのには都合がいいでしょう。そして、それが終われば私は森から消えます。その後、もう一度しっかりと長を決めればいいとは思いませんか?』
いきなり現れた新人が勝手に長になったことには他の魔獣達も不満であるため、アンクロの話は確かに都合がよいものだった。だからか、魔獣達は渋々承諾した。しかし、ヒュドラは少し気が乗らなかった。
『ヒトノ、トリデ、オソウト、カンケイガ、アッカスル』
『それは問題ないです。奴らは人の世界の害悪なので滅んでも誰も困りません。それにしても言葉を使えなくても、私の話が分かるとは凄いですね。正直、もっと苦労するかと思いました』
『シュゾクノ、ダイヒョウハ、ハナセナイガ、コトバガワカル、チシャダ』
ヒュドラもとりあえずは乗ってくれることになった。駒は揃った。数を減らすために多くの魔獣が砦の襲撃に参加することを決めた。もっと抵抗があると思ったアンクロはあっさりと同じ種族の仲間を死なせることに驚いた。それに対し、ヒュドラが説明した。
『ヒトツノシュゾクデハ、イキノコレナイ。ゼンタイヲカンガエル、ダイジ』
『魔獣というものを侮っていました。人よりも協調性がありますね』
『モリノジュウニン、ミナ、ナカマ、カゾク。イチノハンエイヨリ、ジュウノキョウゾン。モリノオンケイ、スベテノセイブツニ、ビョウドウ』
こうして魔獣の襲撃部隊は編制されていき、あとはアンクロ次第となった。魔獣達の間引き、数減らしのために砦の者たちには犠牲になってもらうことになる。




