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自由奔放なキメラ達  作者: 日和見兎
21/81

21.幸せになるためには

 痛いと連呼しながらも首を押さえるだけで倒れることのない蜥蜴人を見て、ケンとジャブは足に力を込めた。クロロの目は死んでいた。だが、ごキリという音で首を元に戻すと、目に僅かな光が宿る。


「二人共なにしてる!早く脱出するぞ!」


 後方では、四人という人数で大人数の盗賊を相手にして仲間が立ち向かっていた。片手に剣と盾をそれぞれ持つ剣士、先に毒を塗って応戦する槍使い、マスケットのような銃を持つ銃士、一度に三本を同時に放つ弓兵だ。商人は縮こまりながらも護衛達の指示に従っていた。生き残るために皆が必死だった。だからケンとジャブも必死になるしかない。目の前にいる蜥蜴人を殺すのだ。


「でやああああああ」

「ひいいいいいいい」


 クロロは後ずさる。だが逃げても剣と拳はクロロに迫る。息の合った攻撃は何度も血のにじむような努力と彼らの人生が編み出した傑作だ。対してクロロは、そもそもあまり喧嘩をしたことがない。よって、武の心得も痛いのを我慢する度胸もなかった。


(なんで・・・こいつらは俺を殺そうと・・・・)


 クロロは今更のことを体に傷を作りながら思う。余裕がない、殺さなければ殺される。当然それもある。だが、それ以前に彼らにはある物を持っていた。


(意思か・・・・)


 生きたいという欲求、生きて幸せになりたいという望みだ。クロロが相手している剣士と武闘家だけではない、クロロの元居た世界も、今の世界もそういった、欲求で人々は生きている。そして、覚悟があって足掻こうとする者はどんな者より強い。どの世界も一緒だった。


「ぐああああああああああああ」






 かつてのクロロには欲求と言えるものはなかった。ただブラブラと生きているだけ。生きて死んでいるような人生だった。だが、それを変えた出来事があった。その時に気づいたのだ。自分はこの人に幸せになってほしかった。それが欲求なのだと。だから、別の世界に来れた時は喜んだ。もしかしたら償えるかもしれないと。だが、現実は厳しく、アルルカと出会い、最初はこの子に幸せになってもらおうと思って動いても、結果的にアルルカは人形のようになってしまった。






「おいクロロ!どうしたぁ!そんなんじゃ仲間に入れてやらんぞぉ!」


 テイムの声が聞こえた。それと合わせて盗賊達の笑い声も聞こえた。彼らがクロロを前線に立たせたのは殺すため。クロロが死ねば、彼の革と、アルルカという商品が手には入るのだ。逃げても捕まえて殺すだけ。八方塞がりは、護衛や商人だけでなく、クロロも同義だった。







「・・・まれ」


 剣がクロロの右胸に、拳がクロロの左胸にそれぞれ会心の一撃を加えた。クロロは吹き飛ばされ、地べたにゴミのように転がった。ぐしゃりと音がする。肉が地面と衝突した音だ。


「よし、急いで馬車を走らせるぞ!」


 ケン達が仲間の元に戻ろうとした時、声がした。しかし、それは有り得ない声だった。


「・・・・れ」

「な!?」

「まじか・・・・・」


 ケンとジャブが振り返るとクロロはゆっくりと立ち上がっていた。剣は複数の内臓や骨を絶ち、拳は心臓の動きを止めたはずだった。生きているわけがなかった。だが、目の前で起きていることは傷跡がウネウネと気持ち悪い動きで治っていく光景。蜥蜴人は生きていた。


「だまれえええええええええええ!!!!!」





 結局クロロには誰かを幸せにする覚悟がなかったのだ。誰かを殺してまで幸せにするという覚悟が。


(そうだよな。簡単になんとかなるわけないよな・・・・)


 誰かが幸せになるためには誰かが不幸にならなければいけない。多くの人間を不幸にして甘い蜜を吸えるのは一部の人間だけ。世界はそうやって出来ていた。


(一番不幸になるのは俺でいい。いいから、だから・・・一人の幸せのために他の全員には不幸になってもらう)


 極論だった。だが、それがクロロが見つけた答えだった。





「いてえええええええええええええええ!!!」


 クロロは雄叫びを上げるとケンとジャブへと走り出した。涙などは既に枯れているため、これから行うことに対しては血以外何も出ない。クロロの動きに迷いはなかった。


「変われええええええええええええええええええええ!!!!」

「なんだこいつ!?」

「迎え撃つ」


 ケンとジャブは再び戦闘態勢をとる。距離が狭まり、お互いに覚悟を決めた。ケンは首を斬り、ジャブはケンの攻撃の後に全力の一撃を腹に食らわすために力を溜める。ケンの攻撃が行われる直前、クロロは突然這いつくばった。ケンとジャブが驚いているとクロロはその状態でまるで蜥蜴のように地面すれすれを走る。


「ケン!危ない!」


 クロロの向かう先にはケンがいた。しかし、止めるには距離が近すぎた。ケンが困惑で一瞬固まった直後にクロロはケンを押し倒した。


「くっ!」


 ジャブが蹴りを繰り出し、クロロが吹き飛ばされた。口元からは血が垂れており、内臓が潰れた。


「大丈夫かケン!」


 ケンに呼びかけるも、声が返ってこない。ジャブがクロロから目線をケンに移すと目を見開いた。


「ぐっはぁ!」


 ケンの首は食い破られており、血が噴水のように出た。クロロの口に付いた血はケンのものだった。


「っ!?よくも!」


 ケンが重症なのを理解したジャブは敵討ちのためにクロロへと目を移す。やはり内臓が潰れたのか口からは唾と混じったドロリとした血が垂れていた。さっさと蜥蜴人を始末しなければケンが危ないと思い、ジャブはクロロへと近づく。


「し・・・・死ねえええええええええええええええええ」


 ひたすら叫びながらクロロは立ち上がり、自らに近づく人間を見る。人間は憤怒の顔をして衝動に身を任せて殴りかかった。


「ああああああああああああ」

「おおおおおおおおおおおおおおおお」


 クロロも拳を振り上げて対抗しようとする。だが、クロロの拳が届く前にジャブの強力な一撃がクロロの顎へと当たった。


「ぐふ・・・」


 クロロがまた倒れそうになるもそれをジャブは許さない。そのままクロロの首を掴むと絞めた。


「ぐがあ・・・・」

「よくもおおおおおおお」


 ジャブの目からは怒りの混じった涙が溢れる。その怒りからかクロロの体は持ち上げられ、顔近くまで引き上げられた。


「お前が、食った奴は!仲間思いで家族を愛した男だ!それを・・・・!」


 今もケンの首からは血が溢れており、もはや虫の息だ。助からないのは明白だった。だからこそ、殺した奴に対して伝えたかったのだ。どれだけ素晴らしい男を殺したのかを。だが、伝えるのが遅すぎた。


「ぐああああああああああ」


 今の悲鳴はジャブのものだ。クロロは涙溢れるジャブの両目を潰した。思わず手を離し、目を覆う。クロロは倒れると、息を整えた。


「くそおおおおおおおお」


 ジャブは見えなくなったクロロを探して近くを殴りつける。だが、一向に当たらない。


「はは、ははははっははあはあはははははははっはははは」


 忌まわしい蜥蜴人の笑い声が聞こえた。ジャブは殴る行為を止めないままそこへ向かう。


「く、る・・・・・あ」


 この時ジャブは見えていないことと、怒りで冷静な判断が出来なかったことでケンの声を聞き逃した。


「ぐおおおおおおおおお・・・・かは・・・・」


 クロロが突き出した剣がジャブの脇腹に深々と刺さる。クロロというよりジャブが自分から飛び込んだようにも見える。そこは、ケンの近くだった。つまりは、あれがあるのだ。ケンの所持品である剣が。本来仲間の物であった剣で刺したのだ。


「ぐ・・・・ぞ」


 ジャブはそのまま倒れた。しかし、頑丈なためか、今だに立ち上がろうとしている。


「はは、はははははははははあはは」


 クロロはジャブにまたがると、狂気的な笑い声をあげる。


「や、べ・・・ろ」


 ケンの声も虚しく、クロロはジャブの鎧を無理やり剥がすとお腹へと剣を突き立てた。


「ぐはっ!」


 しかし、まだ死なない。クロロはそのままゆっくりと剣を腹から胸へと刺したまま移動させる。そして気が付けばジャブは死んでいた。





「・・・は」


 クロロはのそりと立ち上がるとケンの元に向かう。もはや気力がないのかケンの口から言葉は出なかった。


「・・・クロロ?」


 クロロは呼ばれると思わなかったからか、思わず止まり、声の主へと目を向かわせる。そこには檻の中から自分を見るアルルカがいた。


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