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自由奔放なキメラ達  作者: 日和見兎
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現状確認

 湖の傍で一人の爬虫類が項垂れていた。髪の毛どころか毛は一本も無く、少々硬い、肌触りの悪い鱗が全身を守っていた。自分の体を隅々まで触るが、その行為は、混乱を落ち着かせるどころかより不安になり、身体が震えた。どれくらい時間が経ったのかは分からなかったが、男は改めて自らの体を見る。目には恐怖があったがそれでも自分のことなのでしっかりと現実を見なければいけなかった。彼は腕、脚、そして人間の時には無かった尻尾、そしてもう一度湖に映る自分を見た。過呼吸になりながらも自分の体の状態を確認してようやく出した感想はたった一言。


「鰐だ」


 全身が鱗に覆われ、蜥蜴にしては分厚く長い尻尾、鋭い牙は口からはみ出ており、瞳は黄金色をしていた。その姿は生物図鑑などで見た鰐のクロコダイルと呼ばれる種類によく似ていた。違うのは、二足歩行をして人間のように動けるというところだった。


「なにが、なんで、あ、こういう時は冷静に救急車を・・・」


 冷静な判断が出来なくなってきていた彼は、携帯電話がその辺に落ちていないか、周りを見渡した。だが、今や生活必需品となっている電子機器は一切落ちておらず、あるのは今の自分と同じ鰐の体の破片のみ。やがてこのままではいけないと思い、自らの頬(今は口の一部)を叩くと立ち上がろうと足に力を込める。ゆっくりと周りに生えている木の太い幹を掴みながら、何とかその場に立った。


「鰐が立っているのを見たら驚くだろうな。誰かに見せてやりたいな。てか、誰かいないかな」


 冗談でも独り言でも何かを言っていないと不安で押し潰れそうになっていたため、意味も無く呟く。尻尾を使うことで体を上手く支えることが出来ると気づいた彼は、やがて幹から手を離してその場に直立した。以外にも体は思ったように動く。そして今度は全身を見ようと湖へ近づく。歩くという行為をするだけで彼の胸は不安で一杯だった。何が起こるのか完全に未知数なのだ。もしかしたら歩いただけでも死ぬのではという思いが脳内を掠めた。

 結局死ぬことも、体が痛むこともなく数歩で湖を覗ける距離まで近づいた。湖面にはやはり凶悪、もしくは猛々しいや厳ついといった表現が似合いそうな鰐の頭があり、体も、人が鰐に近づいたというより、鰐が少し人に近づいたと言えるような外見をしていた。何度も見ると流石に耐性ができていたからかあまり驚くこともなく、諦めのような感情がほとんどだった。


「いや待て待て、納得できるわけがないだろ!なんで、なんでこんな姿になるんだ!いきなりよく分からない場所に来たと思ったら次は化け物か!あああああああああああ」


 とにかく叫んでしまいたくなった彼は遠慮なく吠える。地団太を踏んで、心の中をすっきりさせようとしていた。この声で誰かが来たらどうしようと思うこともなく、むしろ来てほしいと少し思いながらしばらく叫んだが、自分以外の人の気配は無かった。

 数分間散々喚いてようやく落ち着いた彼の頭は冷静になっていた。自分がどうするべきかなどを一つ一つ考える。


「まずは人を探して、いやこの姿は不味いか、でも俺にはどうしようもないから、どうするかな・・・!?」


 しばらく悩んでいるとそれは突然姿を現し、攻撃してきた。音もなくいきなり、背後から襲い掛かって来た。男はうつ伏せに倒れ、その際に鼻の先をぶつけた。鼻の先を抑えようとするも何か重い物が乗っかっているため起き上がることすら出来ない。


「ぐるるるるるるる」


 まるで唸り声のような音が背中から聞こえ、生暖かい息が首筋に当たる。男が恐る恐る背中に目を向けると、素っ頓狂な声を上げた。


「サ、サーベルタイガー!?」


 その姿は彼が以前図鑑などで見たことのある太く長い牙を持つ虎に酷似していた。違うのは目が白目になっていることだけで外見はほとんど同じだった。サーベルタイガーでなくても虎は猛獣である。しかも、虎は一匹ではなくいつの間にか五匹の虎が彼の周りを囲み、鼻をつけたり、舐めたりしていた。パニックになって男は逃げようとするも、上に乗っかった虎は重く、押さえつける力も強いため這うことすら出来ない。男が助かる方法など無いに等しく、虎は男の首に噛みついた。


「え?」


 突如として起こったこの状況に彼は即座に対応出来なかったため、噛まれた瞬間も男は相変わらずの間抜けな声を出していた。そして再び彼は死んだ。




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