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自由奔放なキメラ達  作者: 日和見兎
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名付け

 少し時は進み、二足歩行する鰐の身体に、燃えるライオンに変身する猫、探し人の天使など、ここは異世界なのではと考える部分は多々あったが、彼は目の前の光景を見て驚きと共に確信を得た。


「羽?」


 子供の背中からは鴉のような黒い羽根が生えていた。ただ、元気がなく、手入れをしていないのか酷い見た目だった。子供は自らの羽を撫でると少し悲しい表情をした。


『羽を出すことは出来ますが、飛ぶことは出来ません。栄養が足りてないのでしょう』


 子供の傍でその羽根を見ていた猫が説明する。いつの間にか血は止まっており、危機的状態は去ったが、相変わらず動けないようだった。話すことは問題ないのか、鰐男と子供に目を行ったり来たりしながら色々と説明を続けた。


 子供は羽をしばらく触ったあと、手を離す。すると子供の意思によるものか、羽が徐々に小さくなっていき、同時に羽毛も消えていく。最終的には小指程の大きさの羽毛の無い羽が出来上がった。今まで子供の長い髪で分かりづらかったが、服の背中側には穴が開いており、そこから自由に羽を出し入れ出来るようだった。


「・・・なるほどな。それで、アルルカは堕天使か?」

『よくご存じで』

「・・・冗談で言ったんだけどな」


 子供が何者か分からなかったから猫に質問して返してきた答えが先ほどの光景だった。彼はまた一つ考えることが増えた。


『それよりも、アンクロという名前はどうにかなりませんか?』

「それなら俺のクロロっている名前も変えてほしいな」

「・・・」


 三人はお互いに名前を付け合った。驚くべきことに子供と猫には名前がなかった。鰐男も昔の名前に固執していないため、せっかくなら二人と一緒に新しい名前で生まれ変わろうと思ってしまった。それが間違いだった。彼らの名付けは似たり寄ったりで、目を覆いたくなるほど酷い。だが、いつまで経っても犬や猫に付けるような名前しか出てこなかったため、鰐男はクロロ、猫はアンクロ、子どもはアルルカということで落ち着いた。


「名前はその内だな」

『ええ、こんな所で言い争っても仕方ないですしね』

「可愛い名前だけど・・・」


 子どもの呟きには敢えて返さないでいると、クロロのお腹が鳴る。先程から眠気も耐えていたが、どうやら食欲も限界だったようだ。腹ごしらえは必要だと猫に食事について聞く。


「にしても腹が減ったな・・・食べ物、じゃなくても栄養を補給する手段とかはないのか?」

『自分の肉でも食べればいいのでは?』

「グロい、痛い、怖い、却下だ」

『仕方ないですね・・・ちょっとこっちに来てください』

 

 アンクロは後ろ足で立ち、前足でこっちに来いと合図する。器用だなと鰐は思いながら近づいた。アルルカは完全には信用出来ていないのか、もしくは怖いのか猫を庇うような動きをするが、来いと言ったのはアンクロの方なのでクロロは止まる必要がない。クロロは小さい猫の視線に合わるためにその場で屈む。アンクロの軽口は思った以上にクロロの怒りを高めていたため、もし近づいて攻撃されればクロロは遠慮なくアンクロを殺すだろう。


『そのですね、エネルギーを補給する手段は一応あるのですが、少し問題がありまして』


 ぺた!


アンクロは前足を鰐の胸に押し付けた。肉球の柔らかい感触が鱗を通して伝わる。ふざけた行動にクロロは我慢の限界であったが、なんとか堪えて声を出す。


「つまり肉球を食べるのか?」

『違います!貴方の魔石は・・・この辺りですか?』


 慌てて前足を引っ込めるともう一度クロロの心臓近くを触っていく。鰐はため息を吐きながら鱗に覆われた胸を差し出す。アンクロが何かを探している間、クロロは今の鰐男の身体になっても胃の鳴る感覚や、心臓の鼓動から臓器の位置は人間とあまり変わらないのではないかと予想していた。アンクロがクロロの胸の中心を触り、自身の肉球を押し付ける。すると徐々に肉球からは暖かい熱が発せられ、攻撃だと思ったクロロは手で払いのけようとしたが、温かく程よい熱量に動きを止めた。しばらく動かないで様子を見ているとアンクロは前足を離す。クロロは体を見回したが、火傷などは無い。それどころか、まるでカイロを触っていたかのような心地よさだったために、クロロは思わずアンクロに問いかけた。。


「どういうことだ。体が軽くなって、疲れも薄れている。てっきり火傷すると思ったんだが・・・」

『私は精霊ですから魔石に直接エネルギーを流すことが出来るのです』

「精霊?魔石?エネルギー?また訳の分からないことを・・・」

『ああ、了解です。説明しますね』

 

再び猫の説明を聞くことになった。最後まで聞いたクロロがアンクロの説明を纏めてみる。

魔石とは生命体が絶対に持っている体内にある臓器の一種であり、小指の先ほどの大きさで、主に心臓の近くにある。臓器の一種ではあるが役目は様々、体の動きの補助や、病気に対する免疫力の向上、傷の再生のスピードを早めるなどがある。また、体に必要な栄養素を生み出すということもできる。


『そして、魔石の最も重要な役目は使用者が持つ能力の発動です』


 魔石はご飯を食べたり、眠ったり、普通に生活を送ることでエネルギーを溜めることができ、そのエネルギーが猫をライオンに変身させたり、子供の背中に羽を生やすなど、持ち主に応じて様々な現象を起こすという。


「ああ、うん。了解。つまり、体に必要なエネルギーを分けてくれたんだろ?ありがとうな」

『・・・そうですね。これは時間稼ぎにしかなりませんが、大事なことです』


 腹は膨れないが妙な充足感を味わったクロロは、現状に満足したためか眠気を堪えることが出来そうになかった。今、少しでも気を緩めれば瞼が閉じ、そのまま寝てしまいそうだ。


「俺は少し寝る。二人はどうする?」

『私はアルルカ様を守るためにいるので、判断はアルルカ様に任せます・・・』

「私は・・・どうしよう」


 アルルカは言葉に詰まるが、クロロは彼女を待つ余裕が無かった。その場で横になり、瞼を閉じる。毛布も何もない硬い床で直に寝ているため体が寝違えるかもしれないが、彼は人間ではないので結果は分からない。アンクロはアルルカの方を振り向く。自分に判断を求めていると分かっているアルルカは少し考えて、この場で待機することにした。クロロの方を見ながらアルルカはアンクロに話しかける。


「名前があるのって、なんだか嬉しいね」

『どうでしょうね』

「私にはアンクロと会う以前の記憶が無いから、クロロの全部が新鮮。天使は直ぐに消えちゃったから」

『それは良かったです。この男は利用価値があります。あの人を探すまでは、上手く有効活用していきましょう』

「この人は、怖いけど、悪い人じゃないのかな?」

『興味ないですね』


 かなりの塩対応だが、アルルカは反応してくれるだけで嬉しそうだった。


『ですが、名前はどうにかしたいですね』

「私は・・・楽しかったな」


 二人は名前を付けた時のことを思いだした。それは本当に突然の決定だった。


「じゃあ、お互いに名前を付け合うっているのはどうだ?」

『名付けですか?呼び方など適当でもいいと思いますが』


 そう言われて、鰐は閃いた。分かりやすくて単純な、それでいて特徴をしっかりと表現している素敵な名前を思いついた彼は、嬉々として喋る。


「子供がアルルカで猫がアンクロとかどうだ?」

「・・・?」

『は?』


 二人はしばらく停止したが、遅れてそれが自らの名前だと分かったのか、子供は虚空を眺めて、猫は抗議した。


『あ、安直すぎます!つまりあれですか!色ですか!色で判断しましたね!』


 思わず猫は早口になる。赤い髪だからアルルカ、黒猫だからアンクロ、一つ言えるのは鰐にネーミングセンスは無いということだった。


「いや、お前、腹の中まで黒そうだからアンクロだけど」


 猫は言い返そうとするも自分が適当でいいと言った手前、反撃することも出来なかった。そんな中、子供は視線を鰐に戻すと、ほんの少し口元を緩ませて言う。


「・・・私も名前つけていい?」

「ん?俺の?いいけど」

「クロロ」

「は?」


 鰐はもう一度と子供に聞くも、子供からは再び名前はクロロと返ってきた。猫たちの名前を勝手に決めたのだから彼に意見する資格はない。猫は誰から見ても分かるような笑みを浮かべる。この時の三人は少し楽しそうだった。


名前でました。

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