落下
初投稿です。初心者なりに頑張ります。あと、とある人から聞いたのですが、この小説は鬱が多いらしいです。出来れば覚悟してご覧ください
ドアが開けられる。そこから一人のスーツを着た男が現れる。外は夕方で、沈んだ太陽の光が男を照らすが、そんなものに構う余裕など、男には無かった。男はフラフラとした足取りでそのアパートの一階へと下りた。彼の、力が抜けてブラブラと揺れる手やスーツの端からはポタポタと赤い液体が滴り落ちていた。彼の衣服は血で汚れていた。
「なんで・・・・」
男の呟いた声に反応する人はおらず、自らが下りてきたアパートを振り返ることもなく、あてもなく辺りを彷徨いだす。途中で通りかかった何人かに声を掛けられた。中には腕を掴んできた人もいるが構うことなく歩く。彼の顔を見た人々は、男の死人のような目に恐怖した。
「危ない!」
誰かの声が響く。それと同時に彼の右半身を眩しい光が照らした。瞬間男は宙を舞う。男の体は三回道路を跳ねた後、動きを止める。いつの間にか男は交差点に出ていた。
「誰かが車に轢かれたぞ」
「救急車呼ばなきゃ!」
「危ない雰囲気だったのに、何で止めなかったんだ!」
「あんただってただ見ていただけだろ!」
周りが騒がしい中、轢かれた男は宙を見ていた。視界がどんどん赤くなっていく。血が目に入ってきていた。そんな中、一人の男が近づいてきた。彼は轢かれた男の傍で片膝をつくと、服のポケットから不思議な紫色に光る石を取り出すとゆっくりと血の海に横たわる男に近づけた。既に意識が薄れ、死を迎えようとしている男が聞こえたのは、「君は運がいいね」という声だった。
ビュービュー
「ん?何が・・・あ!?」
全身を吹き付ける風で意識を覚醒させた男が見たのはまず真っ白な周りの景色。そして今も続く謎の浮遊感。身動きがあまり取れないと男は藻掻くがあまり意味はなかった。そして薄っすらと一面が白だった男の世界に他に新しく緑が追加され始めたことで自分の状況を理解し始めた。白は雲で、緑は木々だった。
「は!?え、ちょおおおおおおおおおおぉ」
いきなり自分がスカイダイビングをしていると分かった男は手足をバタバタとさせる。当然、だからといって速度が落ちるわけもなく木と、その先にある草の生えた地面が近づく。何をしても無駄だと悟った男は目を瞑ると自分の状況を受け入れた。だが、我慢できたのは一瞬で、すぐに暴れ出した。
「いやだあああぁぁ」
地面が近づくにつれ男は走馬灯のようなものを見始めた。人生で一番印象に残った少女を思い浮かべた男は涙を出して最後の思いを吐き出す。
「ごめん・・・今度は、幸せに」
ベチャッだろうか、バンッだろうか、とにかくそのような音と共に男は地面へと叩きつけられた。男の体はぐちゃぐちゃになり即死だった。二度目の死を経験したのだ。だが、それは終わりではなかった。
「なん・・・んあ?」
男は生き返った。彼は自分がなぜ生き残ったのか分からず自分の落下した地面を見て、驚いた。男のものと思われる血と、内臓など彼の体だったものが地面に散らばっている。しかし、彼を驚かせたものはそれだけではなかった。呆然としたままゆっくりと両腕を目の前にかざす。
「なんだよこれ・・・・」
彼の腕や手には鱗がびっしりと生えており、人間のものではなくなっていた。彼は腕から体の様々な部位に目を向ける。一通り見て彼が執った行動は至ってシンプル。叫んで走り出すことだった。
「ひい、はあ、ふう」
呼吸を荒げながら森林を走る。幻だと信じたかった。頭がおかしくなったのだと信じたかった。しかし途中途中でぶつかる背の低い木の枝や地面に飛び出た根っこで転び、痛みを感じた時点で夢ではないのは理解してしまった。それでも信じたくない彼は走り続けた。やがて霧によって対岸が見えない湖へと辿り着くと再び躓いて転んだ。知らず知らず溢れ出て来ていた涙を拭うこともせず、ほふく前進で湖に近づく。
ゆっくりと湖の水面を覗き込んだ彼は、再び絶叫した。
「あ・・・あ・・ああああああああああああ!」
湖で見た自分の顔は人間のものではなく、黒い鱗にびっしりと覆われたワニのものだった。この日、彼の姿は人間ではなくなった。