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3 僕とお祖父様と秘密の話 その1

その日の夜

誰かがそっと部屋の扉を開けた気配がした

たぶんお母様か乳母やだ

オレンジ色のランプの灯がゆらゆらしてそしてまた静かに扉が閉められた


ベッドの中で数を数える

慌てずゆっくり300いや500にしよう

いーちにーさー…


「いやいや!?これ眠くなるようになるおまじないだから!」


危ない危ない

初っ端からつまづいて作戦が台無しになるところだった

息をころして周りの様子を伺う

月明かりがベッドの天蓋からでも感じられる

灯がなくてもたぶん大丈夫

お祖父様の部屋と僕の部屋は二階のちょうど反対の両端

屋敷の長い廊下を誰にも見られないように移動するか

窓から降りて庭を走ってテラスをよじ登って

お祖父様の部屋の窓からの侵入にするか

さあどうする?


屋敷内はショーン執事の見廻りトラップがある……

どんなルートで廻っているのか僕には分からないし 少しでも物音をさせようものならあの優秀な老執事のことだ

絶対見逃したりしないだろう

よし庭からに決定!

その方が絶対いい 子供部屋の窓から抜け出すのはもう何回もやってるから足場は完璧に覚えてしまっているしね

庭だってそうだ

月明かりの中 野ウサギみたいに駆け抜ける自信がある

夜に外に出るなんて村のお祭りの時ぐらいだ

それも今よりずっと早い時間だった

靴はどうしよう部屋ばきのままでいいか

少しぐらい泥がついたってかまやしない

僕は上掛けをはおってからそっとベッドから抜け出して窓に近づいた

深緑色のカーテンのドレープを引っ張って

外を見ると思った通り月明かりが柔らかく降り注いで庭の木々を照らしている

ーーー目が慣れるのを暫く待たなくちゃ

時計の音が薄闇の中コツコツコツと響いて僕の心臓の音と重なり合う

もう充分だ 行くぞーー!!

細心の注意をしながら身体が通る程度に窓を開ける 

後はもう慣れたものだ

壁の出っ張った装飾に脚をかけてスルスルっと横移動してからの此方側に程よく張り出した樫の枝にそのままジャンプ!

見よこの「サルだ、子ザルが居る」とオスカーに呆れ声で

賞賛?された妙技を

一瞬 葉がガサガサして思わず固まってしまう

だ、大丈夫大丈夫……

ちょっと強い風が吹いたんですよー

誰もこんな時間に部屋から抜け出すなんてしてませんよー

よーー…


はい無事着地

しゃがんだまま辺りを窺う

子ザルの次は野ウサギに変身だ 深呼吸してから姿勢はそのまま低く前庭を駆け抜ける

蓮が浮かんだ水路にまあるい月が浮かんでいてゆらゆら揺れていた 辺りはしんと静かだ 壁を覆うつるバラと丁寧に手入れされた様々なハーブのいい香りが薄闇の中そこかしこに漂っている

夜に外を走るって…楽しい!

走りながら僕は野ウサギ達は毎夜こんな楽しいすてきな気持ちなんだろうかと思った




「やあ いらっしゃい」


カーテンに覆われた窓をテラスから小さくノックすると

お祖父様はすぐ気がついてくれたらしく

にこにこしながら窓を開けて僕を部屋に招き入れてくれた

「誰にも見つからなかったようだね 私の孫は

将来はそれは立派なスパイになるかもしれない」

悪戯っ子みたいに声をひそめて片目を瞑る

「さあこっちに来て座ってお茶をおあがり」

勧められたベッドサイドのソファに座り

僕は出された課題をやり遂げた満足感に浸りながら

目の前に置かれた暖かなチョコレートを少し飲んだ こんな時間にチョコレート!

何これすごく美味しい!!


「乳母やが知ったら私も叱られてしまうからこれも内緒だ」

お祖父様は人差し指を唇に当てて続けた

「お前に話があるんだ少し長くなるかもしれない でも大切な話だから眠ってしまわない為の特別なチョコレートだよ」

「眠くなるなんて!そんな勿体ないこと絶対無いよお祖父様」

「それは頼もしいね ああ飲みながらでいいよ」

お祖父様はそう言うと僕の正面に座った




「お前は此処をどう思う?好きかい」

「此処……?ウォード侯爵領のことですか?」

「そうだ マキ大森林を含めた北の果てにある

記録に残るだけだと約250年我が家が治めるこの土地だよ」

「大好きです 僕はまだ他の場所を知らないけど

此処はすごく良いところだから」

「そうか」

お祖父様は優しく微笑んだ

「不思議に思った事はないかい?アルフレッド」

「何をですか」

「仮にも魔族との国境の要となる土地だ だが我が家は騎士団を置いてはいない 警備的に必要な人数程度だ」

「人と魔族が戦争をしていたのはずっと昔のことなのでしょう?今はちゃんと交流があるし王様は友好の証にと末の王女様とあちらの王族との婚姻を進められていると聞いたことがあります

それに騎士は少数気鋭って奴です!各村にだってまあ…少数ですが配置しているじゃないですか」

全部の人数を合わせれば騎士団と呼べる人数にギリギリ足りるかもしれない……足りるよね?

王女様の話はローレンス先生から歴史の授業で教えてもらった

僕よりひとつ年下らしい 

それでもう結婚相手も決まってしかも外国とか心細くはないのだろうか……

「そう少数 領民の治安と警護を兼ねてね

何故少数で済むと考えたことはあるかい」

「それは」

??困った考えた事なかった

「特に人数が必要では無いから?」

「それは何故だい」

「各村にはそれぞれ自警団もあるし…隣のラド村には小さいけど冒険者ギルド支部があります

僕が知る限り人数が少なくて何か問題が起こったとか聞いたことがありません

だって此処は」

「つとめて平和だね」

言おうとした言葉を飲み込んで僕はお祖父様を見つめた

ふいに沈黙の魔法にでもかかったみたいな時間が訪れて

テーブルのランプの灯だけが僕達を照らした

お祖父様はソファにゆったりと背を預けていた

銀色の髪が一房額に影を作っていてランプだけでは表情がよく読めない


「土地は肥沃で主産業の農産物の収穫量は安定 冬場の雪は深いが気候も安定して目立った災害も起こらない 伴う人々の暮らしは安定 余裕があるから他産業も発展しまた安定 魔族領との一番近い国境なのに瘴気に当てられた魔物も出現は300年聞いたこともない 不自然だとは思わないかい」 


そう…なのかな

僕はまだ生まれて10年弱でこの自分が生きる世界のことで直に感じる感想はたかだかその10年間なワケで当たり前の事をいきなり不自然と言われても困ってしまう


この問いかけは何を意味しているのだろう

お祖父様は何を僕に伝えたいのだろう


「それが不自然というなら何か理由が…ある?」

「アルフレッドは賢いな」


理由あるの!?

急に背中がぞくぞくしてきた

息を飲むってこういう事なんだと初めて理解できる程度に喉が動いた

あれ僕今何か大変な場面にいるんじゃないか

誕生日のサプライズプレゼントの遊びだと浮かれてやって来て聞く話じゃないよね?

それともこれ自体いつものお祖父様のいたずらなの??


僕は混乱して困った顔をしていたらしい

お祖父様はふいにくっくっと肩を震わせて

それから我慢できないという風に笑いだした


「アルフレッドすまない お前を見ていると50年前の事を

思い出して ははっ は」

「お祖父様?えっえっ何やっぱり冗談か何か……」

お祖父様は手で顔を覆うとゆっくりと頭を横にふった

「私もあんな風な顔をしていたのかな?グレイ卿」

「まったく同じ顔をしていたよクリストファー

人間の子供というのは大概騒がしい」


ふいに声が聞こえた

お祖父様と僕の二人きりのはずの部屋に

聞いたこともない声が

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